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    eikokurobin

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    レニ/右爆/轟爆
    眠れぬ夜の小さな図書館

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    轟爆/雄英1年生/攻め分裂

    #轟爆
    bombardment

    ダブル・バレンタイン 2月に入った頃から世間はバレンタインムード、柄にもなく釣られて俺もソワソワしているのは、今年は人生で初めてチョコレートを貰いたいやつがいるから。ソイツとは別に付き合っている訳じゃねえし告白された訳でもねぇ、でも、

    (お母さんのお見舞いの帰り道、偶然街で出会った爆豪が出てきたのは菓子の材料を売っている店だった)

    2人きりで仮免補講に通っていた頃は爆豪をなるべく1人にしないようにと先生から頼まれていたことをダシにして隣を歩きながらチェックしたエコバックの中身はチョコレートの材料らしきもの。

    『爆豪は誰かにチョレートを作るのか?』

    そういうことは普通訊かねェんだよと舌打ちされた後、テメェも欲しいンか?と訊かれ二つ返事で力一杯頷いたら、何だその余裕ねェツラは、って楽しそうに笑ったのだ。あの爆豪が俺の顔を見て。

    (アイツ、あんな顔も出来るなんて)

    その可愛さは絶大、俺に恋心をはっきりと自覚させるに十分なその笑顔をもっと見たくて、その場ですぐ爆豪に付き合ってくれと交際を申し込みたくなったけれど、

    (もしかして作ったチョコレートを片手に俺に告白してくれるんじゃ?)

    ついつい欲が出てしまい、俺は欲望を一旦取り下げ改めて爆豪を自前の長めの前髪の下からこっそり観察する。髪の短い爆豪は一切の感情を隠せないし隠そうとしない、喜怒哀楽がはっきりした爆豪の極めて珍しい機嫌良さそうな顔を見ていると心臓がドキドキしてくるし、どんな顔をしてチョコレートをくれるのかを想像するだけでさらにドキドキしてきた。ドキドキとソワソワ、滅多にないふわついた感覚に翻弄されているうちにいよいよバレンタインというその日、事件は起きた。

    +++

    『朝起きたら2人になってたってマジかよ』

    『イケメンが2人って何だか凄い迫力だ』

    『どっちかが本物でもう片方はコピーなのか。コピーする個性は幾つもあるけど、いずれにしても当人同士が鉢合わせし尚且つ会話するケースは珍しいみたい。轟くん自身にもどっちが本物か解らないんだよね?』

    ああ、解らねえ、とハモる轟を遠目にさてどうしたものか。バレンタインなんて所詮お遊び、そんなことより今はアイツが元に戻る方法を探す方が先だろう。今回は日持ちしないチョコレートケーキにしちまったから後日また作り直せばいい、

    (コレは一旦処分するか)

    ハイツアライアンスのキッチンの冷蔵庫に入れてあったそれをクラスの奴らにくれてやろうとした所で大きな手で口を、逞しい腕に動きを封じられる。その片方は轟の手で、身体を掴んでいるのはもう1人の轟、

    『『爆豪、それは俺にくれるんじゃねえのか?』』

    いやそのつもりだったけどって、何で貰えるって決めつけてんだこの舐めプどもは!と怒鳴ることも口を塞がれている故出来ず、そのままクラスメートに見送られながら轟の部屋に連れ込まれてしまったとか、

    『ンなことしたらクラスの奴に変に怪しまれンだろーが!大体テメェらチョコレートとか言ってる場合じゃねェだろ、まずはその個性事故を何とかしてから出直してこいや!』

    ケーキの入った箱をグイと押し付け、一気に捲し立てて部屋を出て行こうとしたのに、2人の轟に巻きつかれて身動きが取れない。

    (そうだコイツは馬鹿力だったわ、それが二倍とかヤバくねェか?それにいきなりライバルみたいなのが出現したことでお互い張り合っている感じもしやがる…)

    身の危険を感じて不本意にも身震いしてしまう。そんな自分に腹を立てながらもどうしたら逃れられるのかを模索する。

    (1人でも強えのが2人だ、どうする、いや、そもそも何で俺はコイツの部屋に連れ込まれているんだ?コイツらはバレンタインに誰かからチョコレートを貰ってみたいだけ、だからケーキはくれてやるってのに俺の退出は許さねェのは、まだ何か足りねェからだ。何が足りない?何をして欲しい?

    いや、逆だ。コイツらに従うことなんてねェ、俺が何をしたかったか、だ。俺がバレンタインにしようとしたのはー)

    +++

    『『爆豪はコーヒー淹れるのも上手いんだな』』

    コピーのクセにいちいち真似してくるのがムカつく、でも今は休戦だ。そうしないと爆豪からチョコレートを貰えない、言い換えれば俺らが2人いる間、喧嘩しないで大人しくしていれば元に戻ったら改めて俺の欲しいものをくれると爆豪は宣言した。

    (それってつまり、やっぱり爆豪は俺のことを好きだってことでいいのか?)

    きっちり半分にカットされたチョコレートケーキを俺たちそれぞれの前に置いた爆豪に、お前の分はと訊くと味見ン時に食ったからいいという。じゃあ一口食えと切り分けフォークで刺したケーキの欠片はやっぱり2つ、爆豪の口の端についたチョコレートを舐めようと左右から挟んだタイミングも一緒、

    (本当にコイツは俺そのものなんだな)

    あまりにピッタリ同じ動きをするものだから鏡をみている様な錯覚さえ覚えてくるが、コイツは今実体があって隙あらば爆豪に触れようとする。そうなると問題は俺達が2人いるのに爆豪は1人しかいないってことで、1人が爆豪の唇を舐めればもう1人は手持ち無沙汰になってしまう。その結果俺は別の場所、今まで触れたことのなかった場所に手を伸ばす、するとコピーの手も伸びてくるという次第だ。俺達2人に挟まれて何か文句を言いたげな爆豪に仲良くしているから問題ねえだろと2人でハモりながら抗議すると白い肌をピンク色に染めながら黙った。

    +++

    認めたくねェが俺は轟の顔に弱い。いつものボンヤリ顔も好きだけれど、バレンタインにチョコレートを強請る顔がガキみたいに可愛かったからひとつ用意してやる気になった。

    (その顔が2つ並んでるの思ったよりヤバいな)

    1人なら視線を逸らすなどして幾らでも躱せるのに2人となると逃れにくい、しかも直ぐに互いにヤキモチを妬いてはもっともっとと触れてくる。まるで双子のガキを預かったような気分だが生憎とコイツらはガキじゃねェ、隙あらば俺を取って食おうとする獣の顔も持ち合わせていルシ、2人いるせいで拍車が掛かりやすいときた。

    (早く元に戻れや)

    個性を呪っても仕方ない、クラスの奴らにもクラス外にも俺達の関係は誤解されて勝手に歩き始めてしまった。そんなとんでもないバレンタインから24時間が経過した2月15日の夕刻、相澤先生からもたらされた個性の解除方法は、

    『古典的だが本物を見分けてそいつの望みを叶えてやれば元に戻るそうだ』

    なんだ、そんな簡単なことか。

    +++

    『『本当に俺達の見分けがついているのか、俺達にも解らなねえのに』』

    ああ、最初からついとるという爆豪に、だったらどうして最初に指摘してくれなかったんだとハモると、

    『テメェ自身は本物だって思っているのにそんなこと出来っかよ、ちったァ人の気持ち考えろ』

    と言われる始末。確かに現時点でも俺は本物のつもりだし隣のコイツもそうなのだ。

    『だから、俺は本物がどちらかは口にしねェ。テメェらが勝手に望み叶えて成仏しやがれ』

    チョコレートが欲しいならチョコレートを作ってやるし、蕎麦が食いてェなら一から打ってやると言う爆豪に、野暮なことは言わないでくれと言って手を伸ばすともう1人の俺も手を伸ばした。

    『『キス、してえ』』

    2人いっぺんには相手出来ねェという爆豪に先に手を出したのは俺だけれど、俺は爆豪を抱き締めるだけにしてファーストキスは留まった。どうしてそうしたかは解らねえ、ただ俺が爆豪とキスすればもう1人の俺も爆豪のキスをする、それが嫌だったのだと思う。自分の顔といえど流石にキスシーンは見たくなくて硬く目を閉じて数十秒後、

    柔らかくて温かいものが俺の唇に触れて俺は目を開ける。柔らかいものは爆豪の唇、そこに居たのは爆豪1人だけ、もう1人の俺は願いを叶えて消えたのか?いや、本物の願いを叶えたら1人に戻るのだから、俺の願いが叶って消えたのか、

    (爆豪とキスできたから)

    『どうして俺が本物だって解ったんだ?』

    『そりゃ定義に立ち返れば解るだろォが、テメェらのうち1人はコピーなんだろ。コピーにある情報はオリジナルの中にあるものだけ、だからオリジナルが体験してないことは行動には出来ねェ、だから手の早い方が本物のテメェだって直ぐに解った。現にコピーはキスも出来ねェまま消えたからな』

    そうか、じゃあ爆豪のファーストキスは俺が貰えたってことか、なんて安堵する辺り俺はコピーの俺に優しくないなと思う一方で、爆豪はもう1人の俺にも優しかったなと思う。それはもう妬けちまうくらいに優しくて、こんなのを放置しておいたらきっとまた直ぐに悪い虫が寄ってきちまう。そうなる前に今度こそ爆豪を捕まえておかなくては、

    『なあ爆豪』

    捕まえようとするとスルリと躱され、やっぱ1人ならヨユーだわって言いながら俺の首に手を回して顔を近づけ瞼を閉じる、それは世にいうキス待ち顔で、俺は両手で爆豪の頬を包んで唇を重ね、爆豪の舌と共に入り込んできた甘い塊を口の中に含む。それはずっと楽しみにしていた、爆豪からの、

    『本命チョコだ、有り難く食え』

    ああ、もちろんだとも。チョコもお前も今から有り難く頂くからなって力を込めて抱きしめて、チョコレートと爆豪を心ゆくまで堪能した。

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