恋の卵 朝起きたら歯を磨いて顔を洗って、それから2人分のお弁当作り開始。これは中学生に上がってから出来た習慣、キッカケは焦凍が俺が作った遠足のお弁当を美味しいって言ってくれたから。
(そうでなくても作っていた)
俺達が幼稚園に通っていた頃までは元気だった焦凍のお母さんは数年前に病気で入院し、以来焦凍にはお弁当を作ってくれる人がいない。お母さんのことは何も言わないけれど、きっと焦凍は寂しいだろう、だから少しでも焦凍が喜ぶようなメニューを考えるのが俺の日課だ。
(季節はイースター、男子中学生が喜ぶ卵料理といえばスコッチエッグ、これでお弁当の主役はキマリだ)
我ながら手際よく仕上げまで漕ぎ着けられ、あとは詰められるようになるまで冷やすだけ…って、焦凍からのLINEだ。何だろ、
『かつき、非常事態発生、助けてくれ』
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『もう、またドライヤーしっかり掛けなかっただろ?』
ちゃんと仕上げたつもりだったんだけどな、寝癖だらけになっちまった。寝相が悪いんじゃない?って、言っとくが勝己だって寝相は悪いぞ、むしろ寝相だけで言うなら俺より悪い。
『それは焦凍が体温高すぎるからっ、冷てェとこ探してるだけだって』
寒がりのくせに正反対のことを言う。全く、小さい頃はあんなに素直だったのにどうしてこんなに捻くれてしまったんだ?
『何親戚のお兄ちゃんみたいなこと言ってんの?言っとくけど俺が!焦凍より!先に生まれたンだからなっ!ちょーっと俺より背が高くなって、ちょーっとパワーS判定受けただけじゃねーか』
そう文句を並べながらも俺の髪を優しく整えてくれ、イケメンの出来上がりって鏡の中の俺に微笑み掛ける勝己は間違いなくツンデレ枠、ああ何て可愛いんだろう。鏡の中の俺じゃなくて、俺を見て笑ってくれよとスマホを構えてオネダリし、カシャリと今朝の一枚を収めて手ブレチェック、
『あ、勝己の寝癖、見つけた』
え、マジ?何処?って慌てだす。勝己は両親がデザイナーのせいか小学生の頃からお洒落を意識している。俺にとっては寝癖なんてかなりどうでも良かったんだけど、毎日、毎朝、勝己に髪を触ってもらいたくて、昨日も今日も、そして明日も俺の朝は
【非常事態】
こんな俺の下心に気が付かない純粋な勝己に、いつ性的に好きだって告白したらいいのだろう?
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『出たなハイエナどもめ』
そのハンバーグの中に卵入ってんの絶対美味いヤツだよな、何ちゃらエッグだっけ?
『スコッチエッグ!そーいうと思ってミニサイズを作ってやったわ。今日はイースターだから特別!普段はぜってぇやンねェから』
焦凍にはニワトリの卵で、俺達はウズラの卵かぁ、これが愛の差かね、あーあ嘆かわしい、
『当たり前!焦凍とお前らが一緒のワケないだろ、食ったらとっとと散れ!』
全く、何でクラス違うバスケ部員まで俺のお弁当に群がってくンのか、全く今年は焦凍とクラスが離れたせいで付き纏われてばっかり。…別に焦凍にボディガードして欲しいって訳じゃねェけど、焦凍がいると面倒なことにならないっていうか、
(やっぱり焦凍が守ってくれているからか)
同じ男なのに、俺の方が9ヵ月歳上なのに、俺が守られる立場になったのはやっぱり俺がオメガだから。同級生が隙あらば構ってくンのも、何かと俺の身体に触りたがるのも俺がオメガだから。
(じゃあ焦凍は?)
焦凍とはガキの頃からずっと子犬みたいに引っ付いてきたから引っ付いているのがあたりまえになってる。俺にとって焦凍は心地良い存在だから、でも、きっともう俺達は幼馴染として触れ合ってない。
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『お弁当すげぇ美味かった』
と前置きしてから、 勝己の所にまたハイエナが群がっていたよなと嫉妬丸出しでぶーたれてみる。うん、格差つけてやったからってピースサインするけど、ミジンコの卵サイズだって勝己の手作りを他の奴に食べさせたくない。心狭いと言われてもいい、勝己は俺だけのものだとメガホンで叫んで回りたいくらいだ。
『皆んな彼女とか欲しいんだろ、俺達中2だもん。直に好きな女の子見つけて散ってくだろーし』
その好きな子の枠にオメガのお前は入っているんだぞ、とは言えなくて、俺はまた不機嫌オーラを醸し出す。すると珍しく勝己から引っ付いてきて、俺の胸の中に顔を隠しながら、
『ねぇ焦凍、俺だって中2だからさ、好きな子に触れていたい気持ちは解るんだ。例えば俺は最近焦凍に触れていると心臓がドキドキしちまう、焦凍はどう?
…焦凍?しょうと?!』
勝己のそういうトコ、人を殺せる可愛さだ、
無事に死んだ俺に膝枕して解放してくれる勝己に、中2どころか小5から下心満載の俺の話をどうやって切り出したらいいのか。俺の膝硬くねェ?って心配そうに覗き込まれて、そんな顔を寄せられたらうっかりキスしてしまいそうになるっていうのに、
『間近で見る焦凍はやっぱりカッケェなっ』
って頬を赤くするの、もうキスして解らせるしかねえんじゃねえか?