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    nezumoto_

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    nezumoto_

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    フリーター🎍×幹部🎍の武タケ🎍🎍 進捗あげ

    毎日、自分と同じ顔の男の隣で目が覚める。睡眠導入剤の名残で重い体を起こして、時刻を確認する。午前6時。休日にしては大分早く目が覚めてしまった。長く同じ薬を飲んでいると耐性が付きやすい。かかりつけの心療内科にまた行って、効果の強い薬に変えてもらうしかない。隣を見れば、いつも鏡の中で見る顔がすよすよ間抜けに寝息を立てて眠っている。自分とは違って、薬なんて飲まずとも5分あれば寝入れるおめでたい男。同じ顔、同じ体、違うとすれば、目元に隈があるかないか。ちなみに自分がある方だ。時折口元をむにゃむにゃとむずがらせる男はまだ起きる気配がない。睡眠導入剤の類どころか胃薬も飲んだことの無いような隣の男は、休日となればとことん惰眠を貪る。本当に、幸福な男だと思う。今でも信じられない気持ちが大きい。「違う世界の自分」が、そう呑気に生きていられることが。



    目が覚めたら、違う世界にいた。まるで何かの小説の一節のように、けれどそれ以外になんと説明していいのか分からないまま、意識を取り戻した時にはもう、自分と同じ顔、同じ声の男の家にいた。意識を失う前、何をしていたのだったか思い出す。悪魔のような上司に命じられた仕事に赴いて、そこで、不意をつかれたんだったか。らしくもなく部下になった幼馴染を庇って、気づいた時にはもう、銃口が額に向けられていた。幼馴染の男が手を伸ばして叫ぶ前に、引き金が引かれて、そこで確かにタケミチは延髄を撃ち抜かれた。……撃ち抜かれたはずだ。息を吹き戻して目を開くと、そこは見慣れないボロアパートの一室だった。好き勝手散らかった部屋の中心に敷かれた煎餅布団から体を起こして、混乱する頭を抱える。死後の世界にしては、あまりにも生活感が溢れている。目の前に手を翳してみても、透けているとか触れないとか、特にそんな様子も見受けられない。額を触ってみたが血も流れていないし、風穴だって空いていない。
    「……どういうことだ」
    ぽつんと落ちたタケミチの呟きに返答はない。その代わり、玄関の方からガチャガチャと外から鍵を開ける音が聞こえてきたので、思わず腰のホルスターに手をやったが、そこには銃どころか下げていたはずのホルスターもなかった。扉が開く音が響き、誰かが入ってくる。この部屋の持ち主か、と身構えるタケミチの前で、部屋に続く引き戸が開かれた。
    「あ、起きてる。」
    「…………は?」
    片手にコンビニのレジ袋を下げた男が目を覚ましたタケミチに気づくと、散らかった机の上に袋を置いてこちらに近づいてくる。
    「うわ、マジで同じ顔。」
    「は………………」
    タケミチの顔を覗き込んで、目の前の男が首を傾げる。
    男だ。『自分と同じ顔をした』男。髪型や服装こそ異なるものの、そこにある顔はタケミチをそのままコピーして貼り付けたかのようだった。
    「なん、だ、お前…………」
    あまりの衝撃に顔を青ざめさせたタケミチに、男は少し考えるように机の上を見て、そこに置かれていた公共料金支払いのハガキを手に取り、タケミチの前に掲げて見せた。そこに印字されているのは、タケミチの本名と寸分違わない名前。
    「花垣武道。アンタの名前は?」
    「……花垣、武道……」
    「ま、そうだろうと思った。」
    ハガキを戻した『花垣武道』は、タケミチの方へ手を伸ばすと、ぺたぺた体のあちこちを確認して、「怪我はなさそうだな」と呟いた。
    「な、なんなんだ、お前!?なんで俺と同じ顔……整形か?名前まで……」
    「生まれてこの方整形はしたことないし、名前だって変えてないよ。戸籍謄本見る?」
    なんでもないように聞いた武道に、言葉を詰まらせたタケミチはポケットの中を探ってギッと自分と同じ顔を睨めつけた。
    「っ……俺の携帯と銃は、」
    「え、ああ……携帯は、これ?画面割れてるし、もしかしたら電源つかないかも。銃……は、撃たれるの怖いから、取り上げた。てか、本物?コエー……」
    画面がバキバキに割れて白んだスマートフォンを渡され、電源ボタンを押してみるものの、液晶はうんともすんとも言わない。充電はしていたはずなので、中の精密機器がイカれてしまったのかもしれないとタケミチは舌打ちをした。
    「お前、何者だ……俺は撃たれて、そんで……」
    錯乱する頭に手を当ててかけられていた毛布を握りしめるタケミチに、武道は机に置いた袋の中からゼリー飲料を取り出すと、封を開けながら「うーん」と唸った。
    「アンタ、俺の部屋の前で倒れてたんだよ。怪我はしてないみたいだし……ほら、これ飲みなよ、顔色悪いし。」
    差し出されたゼリー飲料に、タケミチは「いらねぇ」とその手を跳ね除けた。
    「他人から受け取ったモンなんざ口にできるか。それに腹も減ってない。」
    「目の前で封開けたの見てただろ。」
    「いらねぇ。それより、倒れてたってなんだ。俺はこんなところに来た覚えない。」
    「そんなこと俺に聞かれたって知らないってば。俺だって同じ顔同じ名前の人間が自分ちの前で倒れてて未だに混乱してんのに。」
    タケミチが跳ね除けた手の中にあるゼリー飲料を見た武道はそれを自分の口に運びながらまじまじとタケミチの顔を見た。
    「にしても、ほんとに俺?ガラ悪すぎ。隈すげーし、顔色悪すぎでしょ。やっぱ反社ってやつ?」
    「近づいてくるな。銃返せ。」
    「返したら撃つだろ。ヤダよ。……うーん、どういう仕組み……ドッペルゲンガーってホントにいるんだァ……」
    四方八方からタケミチを観察していた武道と視線がかち合う。まだこの世に希望がある目をしていた。希望も意欲も潰えて沈んだタケミチの暗い目とは違う。
    「このままじゃ混乱するし、情報の擦り合わせ、する?歳とか、住んでる場所とか、仕事とか、何が同じで何が違うのか確認した方が良くないか?」
    「必要ない。俺は出てく。銃返せ。」
    「だからヤダって。ほら、歳は?俺は26。職業はレンタルビデオ屋の店長。住んでる場所はここ。お前は?」
    押して引かない様子にタケミチは舌打ちをして、肉の見え隠れする深爪を弄りながら重たくなる口を開いた。
    「……歳は26、職業は言わなくたってわかんだろ。住んでる場所は言わない。」
    「同い年か。や、俺だからそうか。」
    武道は机の影に雑に畳まれていたタケミチのスーツの上着をゴソゴソと漁ると、「お、なんかあった」と銀色の名刺ケースを取り出した。
    「どれどれ…………え、東京卍會?しかも幹部?はぁ〜?」
    「テメェ、勝手に漁ンじゃねぇよ!」
    スーツの上着と名刺ケースをひったくり、痛む頭に顔を顰めた。さっきから理解できないことばかりで、酷使した左脳辺りがズキズキと痛みを主張している。
    「っかしーな。東卍は反社なんかじゃねぇけど……」
    「は……?どういうことだ。」
    「んと…………ほら、東卍はベンチャー企業だよ。色んなことやってる。」
    そう言う武道がタケミチに向けたスマホの検索画面には、『株式会社東京卍會』の文字がある。スマホをひったくって下までスクロールしようが、反社の反の字も出てこない。
    「確かにまぁ、元は暴走族だったけど……」
    武道の言葉を小耳に挟みながら、東京卍會の公式ホームページに飛ぶ。そこには『社長』の文字とともに、見知った顔が載っていた。知っている人物と同じ顔だが、纏う雰囲気はタケミチの知る『佐野万次郎』とは、まるで違う優しいものだった。
    「……佐野さん……?」
    「え、マイキーくんと知り合い?やっぱ『そっち』にもいんの?」
    やけに軽々しい呼び方に、「どういう関係だ」と咎めるような口振りで武道の胸ぐらを掴む。
    「どういう関係って……マイキーくんとはダチだよ。中学生の時からの……てかそっちこそ、随分他人行儀だけど……」
    「他人行儀も何もこの人がウチのボスだ。滅多なことがない限り顔は合わせねぇ。……クソ、なんだってンだ……」
    ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱すタケミチは、苛立たしげに武道のスマホを放り投げると強まる頭痛に眉間の皺を深めて唸った。
    「ッ、オイ…………頭痛薬、ねぇのか」
    「頭痛薬?あったかな……なんだよ、頭痛いの?」
    「偏頭痛持ちなんだよ、クソ…………」
    顔を青くして頭を押えるタケミチに、「ちょっとまってて」と立ち上がった武道は棚に置いていた救急箱を引きずり出すと中をゴソゴソと漁り始めた。ガンガンと脳みそに釘を打ち込まれているかのような強い痛みに目眩さえ感じて、思わずぺたんこの煎餅布団に横たわって体を縮こまらせる。
    「えっと、これ……あ、これか。ほら、あったぞ……って、大丈夫かよ?」
    「早く寄越せ……」
    布団の上で頭を押えて蹲るタケミチに、ペットボトルの水と共に未開封の頭痛薬を渡してやる。震える手で箱を雑に開封して、中に入った2シートのうち1枚を取り出すと、10錠分を手のひらに開けて口に放り込み、水で押し流した。その様子を呆然と見ていた武道がハッと我に返ったようにタケミチの手から薬を取り上げる。
    「ンだよ……!」
    「これ規定2錠!馬鹿なの!?」
    「るせぇな、ンなちょっとで効くか……!頭に響くから黙れ……!」
    「流石に飲みすぎだって!寝てれば治るだろ!」
    残った薬は救急箱に入れてタケミチから遠ざける。恨みがましいような目でそれを見ていたタケミチは、血の気の引いた顔で武道に視線をやった。
    「そんなんで治ったら苦労するか……!」
    「どうなっても知らないからな!もう……ひとまずもう一回寝ろよ。俺夜勤だし、また少ししたら出るから。」
    「は……?出てくっつったろ、こんな場所に長々いてたまるか……」
    「出てくはいいけど、帰れるのかよ?どうやって来たのかもわかんないのに。」
    呆れたような顔で首を傾げてこちらを見る武道に言葉が詰まる。悔しいことに、ここがどこなのかも分からなければ壊れた携帯では部下に連絡を取りようもなかった。
    「ってかさ、思ったんだけど。多分、そう簡単には帰れないンじゃねぇかなぁ……」
    「何言ってンだ……」
    「ん〜、多分だぞ?多分だけど……ここはさ、お前がいた世界とは違う世界なんじゃねぇかなあ。」
    「は?」
    思わず素っ頓狂な声が出る。違う世界だって?理解を拒んだ脳が、またズキズキと痛み出す。
    「ほら、あるだろ。パラレルワールド?的な。そういうオカルトっぽいのは直人が得意だけど……だってほら、お前がいた世界では東卍は反社なんだろ?で、お前はそこの幹部。でもこっちでは東卍は真っ当な大企業。反社なんかじゃないし……上手く言えねぇけど、元々の世界でお前は……うーん、死んだ?のかな。よく分かんねぇけど、それがきっかけでこっちに飛んできたとかじゃないの?」
    腕を組んで考え込むような素振りをした武道が「ちがう?」とタケミチの顔を覗き込む。1から100まで理解しえない仮定に、タケミチは額に青筋を浮かべた。
    「は……?何ふざけたこと言ってンだ。パラレルワールド?映画の見すぎだろ。そんなことあってたまるか……!」
    聞き分けのない子供の癇癪のようにスーツの上着を投げつけたタケミチが立ち上がる。けれど直ぐに強烈な目眩にふらついて、その場でぐらりと倒れる体を武道が慌てて受け止めた。
    「ッぶな……!急に動くなよ!どっかぶつけたりしてるかもしれないんだぞ!」
    「クソ、が…………はなせ、帰る……!」
    「動けないくせに歩こうとするなよ、も〜!」
    力が抜けて指一本動かせず武道に凭れかかるしかできないタケミチを、ため息をつきながら布団に横たわらせる。
    「うーん……ひとまず、知り合いの人とかに連絡してみたら?お前一人じゃ無理だって。」
    電話アプリを立ち上げた自分のスマホを横たわったタケミチに渡し、傍らにあぐらをかいて座り込んだ。スマホと武道を交互に見たタケミチは、回らない舌を打ってキーパッドを打つ。
    「誰に電話するの?マイキーくん?それとも千冬?」
    「は……?なんでお前が千冬を知ってる……」
    「ダチだもん。てか、相棒?」
    「ダチ……?あいつは俺の部下だ。軽々しい間柄にすンじゃねぇ。」
    「え、部下ァ!?︎︎ 似合わねぇ……」
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