無 「……と、まァ、こんな感じで。」
紹興酒の香りと皿を掠めるカトラリーの音。
暗めに灯された暖光の下、料理に手をつけず纏められた書類を読み込んでいる稀咲の目が、薄いレンズの奥で光を放つ。
「……随分とまァ……。ツキが見えたか?」
隣で酒を煽っていた側近の半間が、稀咲が机上に広げた書面を覗き込んでニンマリ口端を上げた。
「わお♡スゲー。向こう二年は安泰じゃねェの? やーっぱ、金を作る天才ってのは名前だけじゃねェンだなァ。ネ、稀咲サン。」
「慢心して足元を掬われるようなヘマだけはするなよ。最近はイヌがよく嗅ぎ回ってる。」
「そりゃモチロン。横から掻っ攫われちゃァ堪ンないですから。」
横に流した髪の毛先を指先で捌け、陶杯を傾けて酒を舐める九井の横、乾がニヤつく半間を見据えながら匙に乗せた炒飯を口に運ぶ。
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