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    nezumoto_

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    nezumoto_

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    ボツになった宝石パロ 🎍愛され前提サン武

    #サン武
    sanmu

    宝石パロサン武(ボツ)しあわせが壊れる音は酷く高くて単調なのだと、目の前の宝石は語った。





    「三途」
    「ハイ」

    日光を照り返してプリズムを放つ頭を見ながら、三途は姿勢を整えた。

    「お前、博物誌に興味ある?」
    「はくぶつし」

    はた、と問われた言葉をそのまま鸚鵡返しにすると、自分より僅か低い位置でにっこり笑うその石が「ウン」と頷いた。

    「ちょうど、探してたんだよ。席が一個空いたから……」
    「席、というのは」
    「こないだ、あったろ、新型の月人の初観測日……」

    そこまで聞かされて、ああ、と三途は数日前のことを思い返した。
    確かにあった、そんなようなことが。
    あの日は、ひとり、連れていかれたやつが──。

    「つまり、穴埋め?」
    「せっかく言い方選んだのに」
    「はァ、でも俺、やりたかないですよ、ンなこと。観察日記でしょう、要は。硬度が低レベルの奴がやるような。」

    例えばあの、転んだだけでヒビを作る、青いヤツとか。

    「そうでもねェよ。大事なことだもん。それにヒナちゃんだって、お前とそんなに変わらない」
    「アイツは6半、俺は7半ですよ」
    「僅差じゃん」
    「1度ちがう」

    はァ、と大袈裟にため息をついた三途を見て、彼は「変わんねーじゃん」と眉を顰めた。
    1度違えば、実力差も変わるのだ。
    そりゃ確かに、ここにいる誰よりも硬度が高い石からしてみれば、僅差かも知れないが。

    「ムーチョにはもう許可取ってる」
    「はァ!?」

    ついでのように呟かれた最重要事項に、三途は素っ頓狂な声を上げた。
    ムーチョこと武藤泰宏は三途の今のパートナーだ。
    許可を取っている、とはどういうことだ。
    つまり、つまり?

    「安心しろって、パートナー解消する訳じゃねェよ。お前には今まで通り戦闘に出てもらうし、その時のパートナーもムーチョだ。ひと仕事増えるだけだよ」
    「ひと仕事、の”ひと”がデケェんだよ!」
    「うるせうるせ。もう決まったの、みんな異論ないってさ。」
    「俺にはある!」

    ギャイギャイと騒ぎ立てる三途に、それまで面倒臭いことこの上ない、とでも言いたげな顔をしていた目の前の石がふと凪いだ水面のような目付きをして、下から三途を覗き込んだ。

    「頼むよ」
    「……マイキー、俺は」
    「俺たちじゃ、あいつのこと止めてやれない」
    「…………無理だろ、俺に代われって?」
    「代わりになって欲しいんじゃない」

    眼孔に嵌った、底なしの黒い宝石が狼狽える三途を映している。
    相変わらず、綺麗な宝石だと思った。

    「あいつのこと、ひとりにしないで欲しいんだよ」





    このほしは6度流星が訪れ、6度欠けて6個の月をうみ痩せ衰え、陸がひとつの浜辺しかなくなったとき、すべての生物は海へ逃げ、貧しい浜辺には不毛な環境に適した生物が現れた。
    月がまだひとつだった頃繁栄した生物のうち、逃げ遅れ海に沈んだ者が、海底に棲まう微小な生物に食われ、無機物に生まれ変わり、長い時をかけ規則的に配列し結晶となり、再び浜辺に打ち上げられた。

    それが、自分たちなのだと言う。

    緒の浜から類稀に産まれ落ちた自分たち「宝石」は、死を覚えず、今日まで星を越えてやってくる月人を駆逐しながら、学び舎で生きている。


    ぼんやりとこのほしの成り立ちを思い返しながら、不機嫌極まりない形相をした三途は靴の踵を鳴らして「新しいパートナー」の元へと向かっていた。
    この学び舎のトップであるブラックダイアモンドの万次郎から直々に博物誌を編むことを押し付けられ、下げていた刀を取り上げられ、白紙を挟んだバインダーとペンを持たされて部屋を追い出されたのが約10分前。
    「新しいパートナー」は恐らくまだ自室にいるだろうと背中を勢いよく押し出されたが、件の彼とほぼ面識のない三途に、自室までの道のりなんてものは記憶されていなかった。
    仕方なく片っ端から部屋を回って、目的までの道を歩んでいる。

    「あっ!三途じゃーん!ねェ聞いたよ、お前、物書きになったんだって?」
    「ゲッ……」

    部屋からひょっこり顔を覗かせた二対のタンザナイトに、三途は持てる筋力を総動員させて顔を顰めた。

    「あんなに戦闘楽しそうだったのにカワイソー。蘭チャンだったら1文字目でギブだね。」
    「うるせぇな……仕事が増えただけだワ、テメェらと違ってデキるイイコだからな」
    「兄ちゃんコイツ調子乗ってるぜ。増えた仕事が雑用じゃ世話ねェよな。しかも相手はあの」
    「黙れクソ紫ども。それ以上言ってみろ、粉々にして海に撒いてやる」

    手に持っていたバインダーを差し向けて威嚇すると、彼らはしばらくそんな三途を見つめてから顔を見合せ、勢いよく吹き出した。

    「見ろよ竜胆!随分短ェ刀になっちまったなァ!」
    「よう三途、刀どうしたン!?ぺらぺらの板と紙しかないけど!」
    「ヂッ……」

    三途の手の中でバインダーがミシミシと音を立てる。資材調達係の九井に板と紙は希少だから、と言われていたことなど頭の中に欠片ほども残っていない。

    「アァおもろ!イイもん見たあ。」
    「オモロいもの見せてくれたお礼に、お前が探してる奴のこと教えてやるよ!」

    感謝しろよな、と鼻を鳴らした竜胆に三途は舌を出した。
    いらぬ親切とはこのことだ。

    「お前が探してるの、ブルーフローライトの花垣だろ?ならさっき部屋出てったよ。マイキーの部屋の方に行った。」

    三途は竜胆から提供された情報にキョトンとした。
    つまり、三途の部屋探しはこのままいくと無駄になるところだったらしい。
    どうせろくなことを教えないと思っていたが、意外にも役立つものが手に入った。

    「……助かった」
    「うわ、三途がデレた。いらね~」
    「悪夢?」
    「やっぱテメェらはスクラップだ!」


    ブルーフローライトの花垣武道は、浜から産まれてこの方、1度も戦闘に立ったことがない。
    何せ彼の硬度はこの学び舎で最低の4度だ。
    本人は戦闘に出たがっていると聞くが、そんなことは到底無理だ、と三途は鼻で笑った。
    転んだだけでヒビを入れ、他の宝石とぶつかりでもすればバラバラになるような奴が刀を握りたいと思うだけでも図々しいのに、と、さほど話したことも無い花垣のことが、三途は嫌いだった。
    同時期に産まれたサンストーンの橘日向が自ら花垣のパートナーとして博物誌づくりを名乗り出た時は、どうせろくなことにならないと思った。
    実際、なった。
    数日前の月人との戦闘で、日向は硬度の低い花垣を庇って砕かれ、月に行ったのだ。
    誰も花垣を責めなかった。
    それが三途は嫌だった。
    何故誰も責めない。何故お前は責められない?
    お前が弱いから、ここ数年砕かれることのなかった仲間が砕かれて、連れていかれた。
    ふつふつと沸き立つ怒りは花垣にぶつけられることは無かったが、消えることも無く三途の中で渦巻いている。
    なのに、あろうことか三途は花垣のパートナーにされ、博物誌づくりなんて弱者の役目を担わされることになった。
    ずかずかと廊下を行きながら、三途はへらへらと気の抜けた笑いを浮かべる脳内の花垣に中指を立て舌を出した。
    頻繁に万次郎に戦闘に出たいという申し出をしているらしいし、今回もまた、わざわざ部屋にまで赴いてそんな馬鹿みたいな提案をしに行ったのだろう。
    弱い奴は嫌いだ。だって弱いから。
    力がない奴は、何も出来ない。役に立たない。
    博物誌作りなんてものも、大層なモンじゃない。そもそもこの役目が作られたのは、硬度が低い花垣にも戦闘以外で何か仕事を与えてやりたいという万次郎はじめいくらかの宝石の善意と気遣いで、別になければないで困ることは無いのだ。
    なのにその意思を汲まず、剰え戦闘に出たいなんて図々しい要望を吐く花垣のことを、いつまで経っても好きになれない。
    硬度が高くて強い宝石があいつを庇って月に連れていかれるくらいなら、花垣が大人しくその身を差し出せばいい。
    以前ぽろりとそんな言葉をこぼした時、万次郎に本気の拳を食らった。
    口の両端が砕け飛んで、挙句池の中に落ち、そこに棲まう貝に食べられて取り返すこともままならなかったせいで、三途の口の両端は歪なひし形に割れている。上手くインクルージョンが気に入る代わりの石も無かったし、不自然にそこだけ色や模様が違うのも嫌だから、服飾係の三ツ谷に頼んで口元を覆えるような布を作ってもらい、それで隠している。
    なんで俺が、至極当然のことを言っただけでこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ。
    それもこれも全部、花垣が脆くて弱いせいだ。
    顔を合わせたらまず1番にあいつを殴ってやる。硬度も半分近く俺の方が上だし、きっと粉々になる。
    そうしたら見晴らしのいい丘にばらまいて、月人を釣る餌にしてやろう。
    そんな悪巧みをしながら万次郎の部屋の前に立ち、ノックをしようと片手を上げたところで、扉の奥から忌々しい宝石の声が聞こえた。

    「戦闘に出たいです」

    ぎり、と不穏な音を口布の奥から漏らす。
    あいつ、懲りずにまた、馬鹿みたいな提案を。

    「……タケミッちは、今でも充分役に立ってるよ。」
    「ならもっと役に立ちたい。」
    「タケミッち」
    「戦闘に出れないなら、俺を月人の餌にでもして」

    お、と三途は歯を食いしばるのを止める。
    なんだ、実物が言うなら問題ねェじゃねぇか。
    仕方ねぇから砕くのはなしにして、縛り付けるくらいで勘弁してやろう、なんて急いだ気遣いをする三途の耳を、石が砕けるけたたましい音が貫いた。

    「二度と言うな」

    万次郎の怒鳴り声と共に扉が勢いよく開かれる。
    自分の部屋の前に立っていた三途を見た万次郎は不機嫌な顔を隠すこともせず、ああ、とか細く声を出した。

    「……ゴメン、ケンチン呼んでくれる」



    糊を破片に塗り広げながら、龍宮寺が「お前なぁ」と万次郎を見やった。
    寝台に腰をかける花垣の顔の左半分が派手に砕けている。

    「……タケミッちが悪い」
    「だからって砕くこたねェだろうよ、お前自分の硬度がいくつか分かってンの?」
    「タケミッちが月人の餌にしろとか言うから!」

    耐えきれない、と声を荒らげた万次郎の言葉を聞いて、龍宮寺もぴくりと眉を顰めた。
    三途はそんな様子を数歩後ろでじとりと静観している。
    インペリアルトパーズの龍宮寺も、万次郎には及ばないがそれなりに硬度が高い。
    万次郎と龍宮寺はパートナーを組んでいて、昔から息のあった行動が板に着いた戦闘をするから頼りになる。
    それでいて砕けた部位の修復にも長けているから、万次郎と合わせてツートップのような立場に立っている。
    それなのに、こちらもやたらと花垣を気にかけるから、面白くない。
    そもそも、花垣をやたらと気にかけるのは何もこの2点だけではなかった。
    服飾係の三ツ谷も、そのパートナーの八戒も、場地も松野も、万次郎の次に硬度が高いイザナですら、その他の宝石だって、何故か弱い花垣のことをよく気にかけて可愛がる。
    強者の余裕だとか、年上からの目かけにしては距離が近い。
    花垣が戦闘に出ないのだって、もちろん硬度の低さもあるけれど、それ以上に周りからの異常じみた庇護から来ている。
    何がそんなにいいんだ、弱くて脆くて役立たずなのに。
    思わず漏れた舌打ちに、今気づいたと言わんばかりにこちらを振り向いた万次郎が、龍宮寺に修復されている花垣に声をかける。

    「ゴメンね、タケミッち」
    「……いえ、俺こそ、すいません。……疲れてンのかも」
    「ううん。タケミッちはよくやってくれてるよ。大丈夫だよ。……あと、ね、ほら、さっき言っただろ、新しいパートナーのはなし……」
    「あ……、その、俺、あの、」
    「博物誌作りもさ、人数が多いと助かると思うンだよね。行動範囲も拡がるし、共有できる情報も増えるだろ。お試しと思ってさ、まずは1ヶ月、三途と組んでみねぇ?」
    「…………俺、」

    ぎゅ、と特攻服の裾を握って、花垣が三途を見る。
    色や模様だけ見れば、美しい宝石だ。
    あわい青は日光を取り込むとゆらゆら揺らめいて、緑だったり、時たま紫になったりする。
    月人はこの宝石がお気に入りだそうで、出現すればまず1番に狙われるのはいつも花垣だった。
    大抵、いつも一緒に行動する日向か、そうでなければ松野が庇って刀を取るのだ。
    花垣はいつも、それを見ているだけ。
    仲間が戦っているのを見ているだけで、何もしない。何も出来ない。
    役に立たないくせに、引き連れてくる厄介事は多い。
    嫌いだ、その目が。その色が、模様が。

    「……分かりました」

    ぽつん、と呟かれた了承の言葉に、万次郎は表情を明るくした。三途はその真反対だ。

    「よかった。三途、タケミッちのことよろしくね。」
    「…………っス」

    1ヶ月経ったら、やっぱり粉々にしてやろうと思った。






    「あの、三途クン」

    後ろからとたとたと追いかけて来る花垣の呼びかけには応えず、三途は自分本位に草むらを分けていく。
    見たことの無い虫だとか、植物だとかを書きなれていない字で紙に書き込んでいく作業は単調でつまらない。

    「三途クン!」

    ついぞ花垣の指先が三途の服の裾を掴んだので、三途は止まらざるを得なくなった。
    そのまま振り抜いて花垣をバラバラにしたって良かったけど、また万次郎に余計なヒビを増やされたくなかったから、大人しく立ち止まる。

    「……ンだよ、」
    「あ、あの、すみません、いきなり、嫌でしたよね、こんな……」
    「分かってンなら尚更だな。なんで俺がこんなカスみたいな仕事……」
    「はは……」

    おずおずとへらついた笑みを浮かべた花垣は、ふと三途の持つバインダーに手を伸ばして、それをゆっくり取り上げた。

    「……あ?」
    「あの、大丈夫ですよ、何もちゃんとやらなくたって、俺、一人で大丈夫です。戻って怒られちゃうなら、そこら辺お散歩してたらいいです。」

    コイツ、暗にサボってもいいっつってんのか?

    「……バレたら俺がマイキーにバラバラにされる。」
    「何か聞かれても二手に別れたって言えば大丈夫ですよ。ごめんなさい、付き合わせちゃって。」

    三途が呆けている間に花垣は2つ分のバインダーを抱えて、来た道を戻って行った。
    小さくなる背中を追いかけることもせず、三途はただぼうっと頭の中に巣食う違和感に首を傾げた。
    あいつ、前はあんなナヨナヨしてなかったはずだ。
    誰に対しても厚かましくて、遠慮も知らなくて、調子に乗りやすい奴だった。
    橘日向が月に行ったことが、よっぽど堪えているんだろうなと思った。
    だからなんだ。俺には関係ねぇ。
    第一、 原因はアイツだ。アイツが弱いせいだ。
    俺がアイツを気にかける必要なんてない。
    本人が言ったんだからわざわざクソみたいな仕事を手伝う必要も、ない。
    三途は透き通った髪をぱらぱらと風に舞わせて、花垣とは逆の方へつま先を向けた。
    あまり行ったことがない虚の岬の方に行けば、見たことがないものもあるだろう。
    何も真面目に、なんて思ってはいないが、王たる万次郎直々の指示だから、何の収穫もなしというのも三途自身のポリシーが許さない。
    ひとつやふたつ珍しいものを見つけて、適当に時間を潰して、花垣も校舎に戻った頃に報告だけすればいい。
    そう思案して暇つぶしにかかる三途の頭に、花垣の青色などとうになかった。



    キィン、と、耳障りな高い音が岬に響いて、三途は閉じた瞼を開いた。
    横たわっていた体をゆっくり起こす。
    黄昏時だった。間もなく夜になるだろう。
    まずい、と急ぎ立ち上がった三途は衣服に着いた土や草を叩き落として後ろを見た。
    岬に来た後、特にめぼしいものもなくて結局収穫はゼロのまま、寝こけてしまったのだった。
    海沿いは特に夜が来るのが早い。光が主な養分の自分たち宝石は、日が落ちると力も出なくなる。
    こんな時に月人に遭遇などすれば一溜りもない。加えて三途はいつも持っている愛刀を今日は取り上げられたのだ。バインダーだってない。完全な丸腰である。
    一刻も早く、校舎に帰って、それから───

    「三途クン!」

    突如視界に割入ってきた青色と自分を呼ぶ声に、下げていた視線を上に向ける。
    向けた、瞬間。

    「……あ?」

    キィン、と先程聞き知った音叉がまた響いて、三途の視界を煌めく雨が埋めつくし、何かが体当たりをしてきたせいで体がぐらついて柔らかな草原に這いつくばった。
    呆然と目をやれば、顔中にヒビをいれた花垣と目が合う。
    咄嗟に見上げた空には後光の刺した暗雲が浮かんでいて、矢の雨が降り注がんとしているところだった。
    ───月人!
    条件反射で腰の後ろに手をやるが、いつも提げている刀はない。

    「ンで、こんな黄昏時に!」

    最悪だ。最悪だ!
    刀も持ってなくて、日も低くて、しかも、しかも、こんなドブがいる時に!
    三途は怒りで脳天が砕けそうになるのを感じながら、自分を押し倒している花垣を押し退けた。

    「退け硬度4!」

    傍らに刺さった矢を引き抜き、月人が並び立つ暗雲を睨めつける。
    刀がないなら、アイツらが放ってくる矢を武器にしちまえばいい。
    薄く息を吐いて肩に助走をつけ振りかぶる。
    高い曲線を描いた矢は狙い通り一際大きな月人の頭を貫いた。
    三途はそれにフン、と鼻を鳴らす。
    そうだ、俺は刀なんてなくても闘える。俺は強い。
    だが矢の刺さった月人が通常通り霧散して消えないのを見て、三途は頬が引き攣るのを感じた。

    「霧散しない、新型なんだ、だから三途くん、逃げ」

    矢継ぎ早に告げようとする花垣の言葉が途切れ、代わりにまた音叉が響く。
    一斉に放たれた矢が花垣の頭を砕いて、フローライトの破片が舞った。

    「クソ!だからテメェと組むのはイヤだったンだ!」

    無数の手が砕けた花垣の破片を持ち去ろうとするのを、三途は片っ端から矢を引き抜いては投げてを繰り返して防ぐ。
    だが1本矢を投げれば、数十本新たな矢が降ってくる。
    いくら硬度と靱性の高い三途でも固くて鋭利な矢が肌を掠めれば傷がつくのは当然だった。
    こんなドブのせいで、この俺が!
    一際怒りを込めて再度矢を投げようとした三途の体が不意にがくりと傾いて、前のめりに倒れ込む。

    「クソ、が……!」

    二股に分かれた矢先が三途の右足に齧り付いて刈り取ったのだった。
    重心を片方失った体は呆気なく崩れ落ちて、立ち上がろうにも敵わない。
    弾け飛んだ足を手繰り寄せながら三途は恨めしさに精一杯の舌打ちをした。
    キリキリと三途に向かって照準が定められる矢先に、無駄だと分かってはいてもずりずりと後退りをする。
    ここで、終わるのか?
    こんなところで?こんな無様に?
    ……こんな、ドブと一緒に?
    ビュン、と矢が風を切って放たれた音に、三途は悔恨で破顔した。
    終わりたくない。砕かれたくない。
    あんな無様な姿になりたくない。
    視界が暗くなる。
    ──黄昏時の空を切り裂くような高い音が響いて、来たる衝撃に目を見開いていた三途の目の前で、忌々しい蛍石が散った。
    頭を砕かれて再起不能になっていたはずの花垣が、三途の脳天を穿とうとしていた矢に向かって背を差し出している。
    脆弱な花垣の上半身が真っ二つに割れて三途の体に降り注いだ。

    「タケミッち!」

    刹那、空を飛んだ黒耀が次々に月人の首を刎ねた。
    きっと上空の暗雲を観測して急いでやってきたのだろう、単身で舞う万次郎と、その他数点の宝石たちがぞろぞろと三途たちの元へ走ってくる。

    「今回はまた派手にやられたな」
    「新型?初めて見た、本当に霧散しないんだ……」
    「場地さん!破片こっちにも飛んでます!」
    「これ三途の?タケミッちの?どっちだ」
    「パーちんそれはタケミッちの破片」

    口々に言葉を交わしながら、弾け飛んだ花垣と三途の破片を集めていく仲間たちに、三途は顔を見せたくなくて折れていない片足の膝に額を押し付けた。

    「まさか組んだ初日に遭遇するなんてな、しかもこんな夕方に」
    「……隊長」

    三途の片足と欠片を布に包みながら災難だったなと呟いた武藤に、三途は言葉を返さなかった。



    「はい、オッケー」
    「すみません、1日に2回もこんなこと」
    「いーんだよ。役得役得!」

    ニシ、と笑った三ツ谷に今しがた修復されたばかりの花垣は眉を下げて微笑んだ。

    「油断してました、まさか2日続けて来るとは思ってなくて」
    「まあ仕方ないよ。俺達も予兆を見つけるのが遅れた。夜も近かったしな。」

    ふと、花垣の視線が隣の寝台に腰を下ろしていた三途の方に向けられる。

    「……三途くん、あの、ごめんなさい。」
    「……テメェのせいで散々だ。無生産な仕事に巻き込まれて、挙句の果てには砕かれて、あれで庇ったつもりかよ?何も出来ねぇドブが、調子に乗って守った気になってんじゃねぇぞ」
    「おい三途」

    場地が三途の悪態を咎める。
    三途はそれに嘲るような笑いを返した。

    「事実だろ。」

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