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    再掲/当作品は、実際の人物や環境とは一切の関係性はありません。ご本人様、周囲の迷惑になる行為はおやめください。
    ⚠︎モブ生徒(クラスメイト)が出ます。
    ⚠︎自己解釈、ご都合主義、諸々あります。
    ⚠︎作品の転載等はおやめください。

    本日もろふまお日和で。 収録日。神妙な面持ちで三人は顔を見合わせていた。
     普段の収録日とは打って変わって、辺りは比較的静かで騒がしさとは程遠い。慌ただしく行き交うスタッフの姿も見られない。

    「ッスー……、……そんなことあります?」

     やや重苦しい空気の中、最初に口を開いたのは加賀美だった。
     低く響いた声が静寂を裂いたことにより、ようやく発言の場が得られたと、すぐさま反応を見せたのはこれまで気まずそうに俯き気味だった甲斐田だ。

    「いや、本当っすよ〜! 全員が勘違いするとか、有り得んって普通〜」
    「流石に染み付いてたなぁ、収録の習慣みたいなの。俺ガチで今日勘違いしとったもん」

     後頭部で両腕を組み重心を椅子の後ろに掛けた不破は至って通常運転。先程までの神妙な面持ちは何処へやら。加賀美の切り出しにより、リラックスした状態で呑気に言葉を紡いだ。
     毎週決まった曜日。決まった場所で行われる収録。今この場に居合わせた三人に加え、本日不在となった剣持を合わせた四人が所属するユニット「ROF-MAO」は、毎週木曜22時に放送される公式番組を持っており、その人気は右肩上がり。
     本来ならここで収録が行われる予定だったのだが、剣持のやむを得ない都合により本日は中止となっていた。
     事前に知らされていたにも関わらず、こうして三人が集まってしまったのはすっかりその習慣が身についているからなのかもしれない。
     なんとも言えない空気が広がっていたものの、言葉にすればするほどなんだかおかしくて、加賀美は思わず笑みを弾ませた。

    「俺と甲斐田は分からんでもないけど、社長まで勘違いするのは珍しくない?」
    「そうなんですよねぇ……。全然忘れてました。いや、正確には前日まではちゃんと覚えてたはずなんですよ。なのに当日にはすっかりすっ飛んでて、気付いたらここにいました」
    「んははっ、おもろ。そんなこともあるんやな」
    「でもどうするんですか、これから」

     いつもの調子で会話が弾むものの、現実に引き戻すような甲斐田の一言で二人は途端に言葉を詰まらせた。どうするかと聞かれたところで、帰る以外に選択肢はないのではないか。そんな思考が巡る加賀美に対して顎に指を添えて思案の素振りを見せた不破はすぐに閃いた様子で自らの手のひらを拳で叩く。

    「いいこと思い付いた」

     その一言に加賀美と甲斐田は顔を合わせ僅かばかり表情を曇らせた。

    「不破さん。あなたがそうやって何かを提案する時って割とろくでもない内容だったりするんですけど大丈夫そうですか」
    「あぇ、マジすか。それは知らんかった。社長俺の事詳しいなあ。いや、でも大丈夫ですって、今回は!」
    「え、社長、これ絶対やばいやつだ! 先に言っとこ。僕は嫌です!!」

     甲斐田の焦りなどお構い無し。拒む言葉すら受け流し、彼は言葉を続けた。

    「今日、もちさんがいないのって、文化祭があるからっすよね」
    「うわぁ……」
    「ええ、まあ。スタッフさんからはそう伺っておりますが」
    「このまま帰んのもなんだし。俺ら三人で遊びに行かん?」

     甲斐田は思わず頭を抱えた。そんなこと、剣持が許すはずがない。バレたあかつきには己だけが強く咎められる理不尽な未来がみえていた。
     反射的に拒む言葉を繰り返し、助け舟を求めて加賀美の方へと視線を向ければ彼もまた悩む素振り。好奇心旺盛で、本来の年齢を忘れさせる程の少年らしさこそあれど、彼はメンバーの中で一番の常識人。その冷静な判断でこの場をおさめてくれるはず。内心焦りを感じながらも彼の言葉を待った。

    「文化祭か。久しい響きですね」
    「そうでしょ〜。二人も青春、足りてないんじゃないの」
    「大変興味深いですが、流石に本人の許可無しに行くのは宜しくないのでは?」
    「そう! そうそうそう! そうですよ不破さん! 絶対もちさんに怒られるってぇ……!」

     期待通りの言葉に全力で首を縦に振る。これで突撃しようものなら間違いなく自分に全ての責任が及ぶ。それだけは避けたい。かと言って同意を示した二人を見送って一人だけ帰るという選択肢もないのだ。ここは何としてでも加賀美を味方につけたい甲斐田は早急に帰宅することを促す。

    「ねっ、帰りましょう、もう! 文化祭の話はまた次の収録で聞けばいいから!」
    「行くのと聞くのじゃだいぶ違うぞ。馬鹿か」
    「口悪!」
    「まぁ、アレか。要は、バレなきゃいいってことやろ」
    「えぇ~……」

     人差し指を立てて名案だとばかりに告げた言葉に最早返す言葉も出ない。僕ではこの男を止められない。そう察して再度視線は加賀美へ。不破の言葉に、衝撃を受けたような、この世の大発見をしたような、そんな表情。

    「えっ、社長……?」
    「なるほど。賢いですね、不破さん。そうか、確かにバレなければ問題はない……」
    「いやいやいや!」
    「さぁすが、しゃっちょぉ! そういうことっすよ!」
    「剣持さんにバレないように文化祭を楽しむ。何だかゲームみたいでワクワクしますね」

     予想外の展開に甲斐田は絶望した。膝から崩れ落ちてしまいそうだ。不破の一言により、少年心を擽られた加賀美は途端に乗り気な姿勢を見せる。もう駄目だ、おしまいだ。甲斐田はついに頭を抱えた。

    「ほな、決まり。行くぞ、甲斐田!」
    「行きましょう! あの日の青春を取り戻しますよ!」
    「なぁんでこうなんのぉ……!!」


       ◇◆◇


     東京から神奈川までは片道数時間程。オフで運転をするのは嫌だと断固拒否をした甲斐田により、交通機関を使っての移動となったが、決して苦では無い。寧ろ、かつて同級生と搭乗した修学旅行の飛行機で感じたワクワク感に少し似ていた。もっとも、大した移動では無いのだが。
     ろふまおの収録は早い。だからこそ移動に時間を掛けたところで何ら問題はなく、到着する頃には寧ろちょうど良い時間になっているはずだ。
     ただ、残念なことにそれぞれが自宅へ帰ってラフな格好に着替える余裕は無く、三人は収録時に着用しているいつもの装いのままとなってしまった。
     不破や加賀美はまだしも、甲斐田の和装はかなり街中で人の目を引いてしまう。
     その視線に耐えられず、甲斐田は少しでも目立たないようにしようとその高い背丈を誤魔化すように背中を丸め、歩行の際は二人の影に隠れていた。見兼ねた不破は「学校ん中入れば紛れるって。人も多いだろうし」と曖昧なフォローの言葉を掛けた。
     たまにはいいことを言う。加賀美は同意を示しつつ、彼の咄嗟の対応に感心したが、途端に上機嫌となった甲斐田の単純さには思わず苦笑いを零す。

    「何年振りやろ、文化祭」
    「多分、私含め、ここに居るみんながそう。大人になってから行く機会ってなかなか無いですからね」
    「やばい、僕もちょっとワクワクしてきた」
    「だから言ったやん。楽しむぞ、甲斐田〜!」

     結局雰囲気に流された甲斐田の心も、目的地に近付くにつれて弾んでいく。次第に、三人の中で妙な結束力のようなものがうまれ始めた。


       ◇◆◇


     日が天高く登る頃。剣持は忙しなく校舎を走り回っていた。昼間の気温は未だ高く、滲む汗によりシャツが肌に張り付いて気持ちが悪い。
     いつもは無駄に広く感じる廊下に人、人、人。各々の目的地へ行き交う様はまるでゴミのよう。それもそのはず、今日は自身が通う学校の文化祭。
     普段は閉鎖的な雰囲気のあるその高校は、何かとイベント事には全力で、毎年手の込んだ出店がいくつも並んでいた。大学の学園祭と引けを取らない、立派なものとなっている。
     それを知ってか、来客の数は毎年ながら予想以上だ。男子校という物珍しさもあり、女性客の数も目に見えて多い。そして、滅多に校内ではお目にかかることの無い他校の女生徒やお姉さま方に当校の生徒も浮かれに浮かれていた。実に嘆かわしい。

     悪ノリもいいところ。こういう機会でしか体験できないからと言って、剣持のクラスの出店は事もあろうに〝メイド喫茶〟となった。何が悲しくて女装をしなければならないのか。提案者や、それを同意した過半数のクラスメイトを脳内で何度も蹴り飛ばしたのは良い思い出。
     出店が決まってからと言うもの、暫し気が重かったが、何がそんなに楽しいのか〝メイド〟になりたい変態は多く、幸い剣持は裏方に回ることが出来た。つまるところ、キッチン担当だ。
     冷房が効いてるとは言え、この人口密度に火を扱うとなれば最早プラマイゼロ。むしろマイナス。酸素を奪われただただ暑苦しい。

    「あ、剣持! お疲れさん。そろそろ休憩交代しようぜ。朝から働きっぱなしだろ」
    「ん、ああ。お疲れ。もうそんな時間?」
    「結構繁盛してるよな。後は俺たちがやるから暫く回って来たらどうだ?」

     籠る熱気に軽い目眩を覚える中、ひょっこりと顔を覗かせたクラスメイトの言葉に時計を確認する。もう時期昼を回る頃。これから更に忙しくなる時間帯だ。それなのに今キッチンを抜けるのは気が引けると言うもの。
     しかし多少の申し訳なさこそあれど、自身もそれなりの働きはしたはずだ。

    「ああ……うん。じゃあ行ってこようかな。忙しくなったらまた呼んで」
    「おー、助かる! 行ってら~」

     暫し悩み、歯切れ悪くも小さく頷けば身に付けていたエプロンを解く。特に気に止める様子もなく、クラスメイトは緩やかに手を振り剣持を見送った。
     教室を後にしたものの、特に見たいものもない。ましてや共に回る約束をした友人がいるわけでもなく、剣持はただ、人の流れのままに廊下を歩く。まずは水分補給だ。そう思い立って、歩を進めていた。
     そういえば、と。朝からスマホを見れていなかったことを思い出し、ポケットからスマホを取り出す。通知欄にいくつもの知らせが並ぶ中、真っ先に目に映ったのはディスコードのメッセージ。5分程前に届いたものだった。
     見慣れたグループ名をタップすれば、加賀美のメッセージが開かれる。〝今なにしてます?〟

    「何って。文化祭だって伝えた気がするんだけど。えー……今休憩に入ったところ、っと」

     いつもならしっかりと用件を添えた簡潔的なメッセージを残してくれるはずだが。まさかまたろふまおの企画か? いや、収録は延期になったはず。
     しかし、面白さを追求し続けるスタッフの姿勢は言わずもがな。剣持の知らない間にドッキリやらなんやら進んでると言うのは有り得ない話ではない。
     微かな違和感を滲ませる加賀美のメッセージを訝しげに思いながらも、疲労も相俟ってそれ以上深く考える事はせず、簡潔に現状を伝えることにした。

    「既読はや」

     送信ボタンを押した瞬間、すぐに加賀美がメッセージを入力していることを伝える文字が浮かぶ。思わず突っ込みを入れつつ剣持は喉の乾きを癒すため飲食店を運営するクラスを一つ浮かべてから、その場所を目指して歩く速度をはやめた。

     人混みを掻き分け、ようやく手に入れたオレンジジュース。購入するのにも一苦労。程よい酸味と甘みが喉を潤し、空腹までも癒してくれる。
     加賀美からは〝分かりました〟とだけ届いて、より一層違和感が大きくなったものの気にするだけ無駄だと一蹴し、その後の返信はしていない。
     何処もかしこも熱気が充満していて、心が休まらない。
     外の空気を吸おう。そう思い立って剣持はそのまま校舎を抜ける。
     新鮮な酸素を吸い込み人の少ない日陰を見付けるやいなや、人の邪魔にならない場所へとそっと腰を下ろした。
     折角の文化祭。もう少し回りたい気持ちもあるのだが、一人だとどうも気が乗らない。仲の良い人を事前に捕まえておくべきだったな。
     ぼんやりと人混みを眺めていると一際人が集まっている場所に意識が注がれる。全体的に賑やかではあるが、あの場所は更に騒ぎが見られた。騒ぎと言うより、黄色い声。あそこは確か、射的のコーナーがあったはず。

    「……」

     ずず、とストローを鳴らし、早くも氷が溶けて味が薄くなったオレンジジュースを嚥下し意味もなく端を噛む。こんな暑い中よくやる。他人事のように思いながらもやけに気になって仕方がない。
     女性の比率が多い中、輪の中心にいる人物を特定しようと目を懲らす。
     よくは見えないが、背丈が高い。亜麻色の柔らかい髪が日光に照らされながら揺れていた。

    「アッハッハッ!」
    「…………」

     よく通る声。弾けた笑みにどこか聞き覚えがある。誰かと似ている気がした。そう、何処かのいかずちのゴリラのような。こんな特徴的な声が他にもいたなんて。少なくとも同学年にはいなかったはず。やはり来場客だろうか。
     飲み終えた容器を捨ててから、剣持は半ば好奇心のまま再度人混みの中に身を捩じ込んだ。向かう先は射的コーナー。

    「しゃちょお!! もうちょい! エイム! ズレてるよぉ!」
    「ここかッ!? 見てなさい、不破さん!」
    「うおぉ〜っ!! 当たったぁ! えっ、僕もやせてください!」
    「……」

     見慣れた顔ぶれがいた。それも三つ。
     射的銃を構え、狙いを定めた男はコルクを放つ。狙い通り的に触れたそれは難無く商品を倒して行った。そして湧き上がる黄色い声援。耳を刺す高音に剣持は思わず顔を顰めた。
     何やってんだコイツらは。

    「まだだ! まだ行ける……!」
    「んは! 社長、商品なくなるで、流石に!」

     学生が多く並ぶ中、180を超えた背丈の男が二人。そしてホストらしい煌びやかなオーラと派手な髪。オマケにどれも端正な顔立ちと来た。見紛うことなく、己が所属するグループのメンバーだ。

    「〜……」

     大人とは信じ難いはしゃぎように、剣持は思わず片手で顔を覆う。このまま記憶を消して立ち去りたいところだが、そうもいかないのが現実。

    「剣持」
    「お、わっ、……何、どうしたの」
    「やたら騒ぎになってるなと思って見に来た。何あれ、芸能人?」
    「……さあ?」
    「見た事はねぇけどすげぇオーラあんな〜、あの三人。コスプレイヤーか? 新人のタレント?」

     肩に腕を回され重みが掛かったかと思えば、別のクラスの友人が興味津々に騒ぎの輪へ現れた。
     スーツと和装、そして派手な紫。この場にそぐわない格好の三人組は友人の言う通り、一見へんてこなコスプレ集団だ。剣持からすれば見慣れた光景ではあるのだが、やはり悪目立ちをしている。もっとも、その違和感をかき消しているのが三人の整ったビジュアルなのだが。認めたくはない。
     貴重な女性達の目を引いた三人に、男子生徒の妬みの視線が集まるもののその中には女性同様、憧れの眼差しすらも混ざっていた。ただ言えるのは、今は彼らに構いたくないということ。
     さて、見なかったことにして教室へ戻ろう。そう思い、踵を返した瞬間。

    「あっ、もちさん」
    「うわ……」

     甲斐田が声を上げた。反射的に跳ねた肩と、零れた声。そのまま素知らぬ振りをして歩みを進めたいところだが。

    「なぁ、剣持。お前の事呼んでね?」
    「人違いです」
    「あ、ほんまや。もちさ〜ん」
    「あっ、ちょ、二人とも……!」

     つられて不破が反応を示す。先程の勢いとは打って変わって焦りを見せる加賀美の声が少し気になるところ。このまま無視、無視をしよう。そう考えていても、阻害するように友人は続けた。

    「いや、でもすげぇ見てんぞ。〝もちさん〟ってお前のあだ名だろ……あ、こっちきた」
    「違う違う違う。あんなやつら知らないから俺! う来るなぁ……!!」

     意識はすっかり剣持の方へ。射的を中断した三人はずかずかとこちらへ歩み寄る。怯える小動物の如く身を縮こませて拒否を示すのもお構い無しに眼前まで距離を詰めた三人に剣持は狼狽えた。

    「剣持さんにバレないようにするんじゃなかったんですか」
    「あぇ、そうでしたっけ。そんな話、したようなしてないような」
    「あ、やば。そうだった。……も、もちさん。違うんですよこれには事情が……」

     気付けば注目の的。言葉を失った剣持は恐る恐る振り返る。いつも通り変わらぬ態度の不破と、慌て言い訳を探る甲斐田。そして悩ましげに額を押さえる加賀美。そして剣持の横では困惑しきった友人が一人。

    「剣持? 知り合い、か……?」
    「っはぁ〜〜……」

     もはや溜め息しか出ない。一先ず場所を移動しなければ。

    「ちょっと、……あー……うん。ごめん、俺この人たちと話がしたいからまた後で説明させて」
    「あ、うん」
    「俺……」
    「うるせぇ! 僕!!! あんたらほんっと、まじで覚えてろよ……!」
    「僕……?」
    「ああ、もうっ! めんどくせぇ〜〜……!! なんでもないから! おら、行くぞ!」
    「いたっ!」

     公私を分けて過ごす剣持にとって一人称の指摘は複雑なもので。友人に強引な誤魔化しを挟みつつ、一方の指摘を見せた甲斐田へは腹いせに背中へと強い平手打ちをお見舞い。上がる悲鳴もお構い無し。剣持は情けない大の大人三人を引き連れ、逃げるようにしてその場を後にした。


       ◇◆◇


     校舎裏。先程の賑わいから一変、人の波から外れたそこは静けさすらあった。
     年上とは思えない程申し訳なさに縮こまった三人は、気まずそうに視線を泳がせる。目の前には腕を組み立ちはだかる高校生。

    「なに。どういう事なの、これは」

     暫し沈黙が続く中、痺れを切らして口を開いたのは剣持の方。

    「あ〜、……っと。実は、」

     次いで口を開いた加賀美は、二人の代わりに事の発端を丁寧にひとつひとつ話し始めた。
     収録がないにも関わらず集まってしまったこと。提案は不破で、真っ先に乗り気になってしまったのは自分であること。そして剣持にバレずに過ごしそのまま帰る予定だったこと。
     静かに聞いていた剣持はやがて溜め息を吐く。

    「子供かよぉ……。普通有り得ないって、こんな。せめて一言連絡して」
    「すみません……。伝えたら嫌がるだろうなと思いまして」
    「そりゃあ、こうなる事は目に見えてたから、快くは思わないだろうよ」
    「あと正直、隠れながら楽しむって……ちょっと楽しそうだなと」
    「んはははっ! 正直過ぎ。そんなところで少年心むき出しにするんじゃないよ! 全く。カッコイイ大人を目指す人間が聞いて呆れる」

     加賀美の言葉に思わず笑みが弾む。おかげで咎める気が削がれてしまった。その空気感を感じ取ったのか、隅で一番怯えていた甲斐田の表情が明るくなる。安定の単純さだ。

    「まあ、来たからにはしょうがないよね。なるべく目立たないように過ごしててください」
    「あ。許してくれるんだ」
    「え、なに。甲斐田くんだけこっぴどく叱ってもいいんだぞ」
    「いやっ、なんでもないです」

     そろそろキッチンに戻るか、と。スマホを取り出し時間を確認してから適当に三人をあしらおうとした矢先、不破が思い出したように声を上げた。

    「もちさんのとこは何やってんすか」
    「ああ、それ気になりますね」
    「あー……」

     裏方に回っているとは言え、あまり口にしたくはない単語。反射的に煮え切らない態度を見せたおかげで三人の興味はより強くなる。剣持の言葉を待ち、期待の眼差しが向けられた。
     言葉を詰まらせ、小さく唸ると何度目かも分からない溜め息の後、諦めた様子で剣持は答える。

    「……メイド……喫茶、ですね」
    「うおぉ! マジ!? え、もちさんのメイドっすか!」
    「現実でもあるんだ、文化祭でメイド喫茶って……。やばいアニキ……! レアなもちさんのメイドだ……!」
    「んなわけないだろ! 死んだ方がマシだわ、そんなの! 僕は裏方だから。作ってるだけだから。あんな変態共と一緒にしないで欲しい。そもそも野郎の女装になんの需要があるってんだ。考えてもみろ! 見たくもない野郎の女装姿を何時間も見せられる不快さを! ライバーじゃない。ショタでもない。高校二年のクラスメイトだぞ!」
    「うわ、なが。分かった分かった。分かったから落ち着いてくれ」
    「え、ちなみにそれは俺らもお邪魔してもいいやつ?」
    「僕も行きたい……!」

     途端に弾んだ声音が二つ。特有の媚び発作を起こした剣持を宥める加賀美をよそに、詰め寄る二人からは妙な圧。両手を前に出して距離を保てば剣持はすぐさま拒否を示した。

    「なんか分かんないけど来るな! 僕が裏方だろうが、来るな! あんたら三人が来たら絶対面倒くさいことになるんだから!」
    「えぇ……でも俺らお腹すいたっすよ。昼も回ってる頃やし」
    「もうそんな時間なんだ。……もちさぁん、僕らお腹すいちゃったなあ……?」
    「ですってよ、剣持さん」
    「くっそ……勝手に押し掛けといて……。このカス」
    「ふっははは! 口わっる」


     立場を弁えない図々しい大人に呆れ果てたものの、それを突き放さないのが剣持刀也という男。「ここで待ってて」と。それだけを残し、その場を後にした彼。一度見捨てられたのかと甲斐田は一人絶望していたが、数分後、剣持は再び姿を現した。制服の上からしっかりとエプロンを身に着けて。

    「え、剣持さん、これ」
    「お代はいいから」
    「おわ〜まじっすか、もちさん! え、いいんですか、こんな」
    「こんな僕らのために……!」
    「んははっ、うざぁ。そういうのいいって。一応先輩なんでね、僕は。ひれ伏せ」

     剣持が手にしたトレイの上には四人分の飲み物と、ポテトフライ、更にはホットドッグまで。加賀美は瞠目したのも束の間。何処か申し訳なさげに眉尻を下げ視線を送ると、剣持は片手を揺らしていつもの調子で言葉を返した。
     嬉々としてそれらを受け取った不破と、言葉通り軽くひれ伏した甲斐田。各々、感謝を述べつつそれぞれに手に食べ物を配ると周囲は香ばしい匂いに包まれた。
     途端に忘れかけていた空腹を思い出し、甲斐田の腹は情けなく鳴いた。

    「すみません。お代はあとで渡しますから」
    「社長真面目過ぎ。別にいいのに」

     子供のようにはしゃぐ二人を横目にこそりと小さく告げた加賀美に、剣持はまたひとつ笑みを弾ませる。容易くは引き下がらない頑固さを見せる彼に折れて、結局剣持は彼の律儀な姿勢に甘えることにした。

    「じゃあ今度半分だけ」
    「ええ、そうしてください。ありがとうございます、本当に」
    「どういたしまして。じゃあ、僕は仕事に戻るから後は好きに見て回って。うちの学校結構すごいからさ。じゃ、また後で」

     言うやいなや、すぐさま立ち去ろうとする剣持に、加賀美は思い出したように口を開く。

    「あ、剣持さん。折角なんで、終わったら打ち上げでも行きません?」
    「えぇ〜。打ち上げぇ? うーん、……こっちでもあるんだよなあ、打ち上げ」

     予想外の誘いに瞳を瞬かせた彼は、いつも通り反射的な拒否を示すわけでもなく何処か申し訳なさげ。駄目元の誘いだったがやはり無理か。少しだけ肩を落としつつもすぐに切り替え、加賀美は大人しく持ち場へと戻る剣持の背中を見送った。
     頑張る学生の姿は眩しいものがある。〝青春〟不破が紡いだ単語を思い出し、なるほど、と加賀美は懐かしさを感じながら意味もなく一人頷いた。
     
    「……今回のカッコイイオトナは間違いなく剣持さんですね」
    「間違いない」
    「怒られなくて良かったあ、本当に」

     三人は近くのベンチに腰掛け、からからに乾いた喉をアイスコーヒーで潤す。遠くで聞こえる人々の声を心地好いBGMに、熱々のホットドッグを頬張る瞬間は間違いなく至福で。美味しい。三人は口々に感想を零していた。


       ◇◆◇


     存分に校内を回って数時間。時には足を止めてステージを眺め、飛び入り参加の響きにつられステージへ上がろうとした加賀美を止め、時には同僚への土産を選び。モデルやコスプレイヤーだと勘違いされ、何故かその都度写真を撮られる場面も。
     存分に文化祭を楽しんだ三人は心地好い疲労感を感じていた。メイド喫茶という興味深い響きの誘惑に負けそうになりつつも、恩を仇で返すことは出来まいと、あれ以降剣持と顔を合わせる時間はなかった。
     来場客も減りつつあり、屋台を閉じるクラスもちらほら。

    「そろそろ帰りますか。いやぁ……流石にはしゃぎ過ぎた」

     疲労とは裏腹に満足気な加賀美に、同意を示す二人。自然と足は校門へと向かっていた。

    「あとで剣持さんに改めてメッセージを――って、あれ、」
    「あ。いた。うわ〜本当に見付けやすい、この三人」
    「もちさん!? お疲れ様です!」
    「店、もう終わったんすか? もしかしてこれからクラスの打ち上げなんかな」

     歩みを進めていると、見慣れた深い紫苑の髪が視界に入る。制服姿に、肩には竹刀入れ。瞬時に存在を認識すれば、彼もまた三人の存在に気付いたようで軽い足取りでこちらへ歩み寄った。

    「好評だったからすぐに完売。で、店は閉じて他の奴らはクラスの打ち上げ」
    「剣持さんは?」
    「打ち上げは不参加にして、そのまま帰り。参加しないから早めに戻れました。行くんでしょ、あなたたちも打ち上げ」

     至って普通の態度。何食わぬ顔で紡がれた言葉を理解するのに数秒。反応を確認することなく校門へと歩を進めた剣持は、立ち止まったままの三人を呼び、次いで急かしの言葉を掛けた。

    「これ、僕らのために打ち上げ断って、早上がりしたってこと?」
    「要約するとそういうことやんな?」

     こそり。甲斐田が耳打ちする。そして頷いた不破はにまにまと意地の悪い笑みを浮かべた。

    「え、何その顔。こわ」
    「いやあ、剣持さん。あなたがようやく打ち上げに参加してくれて嬉しいですよ、私は! それにクラスの打ち上げを蹴ってまで!」

     わざとらしく上げた声に、剣持は次第に表情を不快に歪める。予想通りの反応に笑う加賀美と、その後ろで少し焦りを見せる甲斐田。

    「何なんだよこいつら、うぜぇな! 片付けが面倒で抜けてきただけだから! 勘違いしないで頂きたい!」
    「そうやって〜。素直じゃないんだから、もちさんは」
    「いやあ、可愛いところもあるんですね、剣持さんも」
    「う゛ぁ! カス共! 打ち上げはなし! このまま帰ってやる!」
    「あっはっは! 冗談ですって。ほら、行きますよ剣持さん!」
    「嫌だこの大人、怖い〜……! 誰が助けてください! 怖い大人に拉致されてます……!」

     逃げ腰になった剣持の両腕を加賀美と不破が掴む。有無を言わさず連行する姿は拉致にも近い。
     しかし本気で拒否をするわけでもなく、されるがままに引きずられて行く剣持の耳が少し赤かったことは、甲斐田だけが知る話。
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    👏👏👏👏☺☺☺☺☺☺💖💖💖💖
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    ょ!!!!!

    DONEValentine/収録前のとある出来事。内容もオチはないです。何気ない日常の妄想😌
    ⚠︎ご本人様、関係者等の迷惑になる行為はおやめください。
    【rfmo】チョコレート、みんなで食べてもいいじゃない「ねえ、甲斐田くん」
    「なんだい、もちさん」

     収録日。もはや見慣れた顔ぶれ。先に事務所に到着していた甲斐田と剣持は準備室にて残りのメンバーを待つと同時に収録開始までの時間をそれとなく潰していた。
     机に突っ伏し意味もなくぼんやりしているところに突然剣持が声を掛け、甲斐田はおもむろに顔を上げ声の方を向く。

    「今日ってさ、バレンタインだよね」

     特にこちらを見るわけでもなく、落ち着いたトーンのまま告げた予想外の言葉。思わず瞠目してしまう。まさか、媚びの象徴とも呼べるイベントに彼自ら触れてくるとは。思わず居住まいを正し、曖昧ながらも頷き返事をする。
     まさか、今になってチョコレートが欲しかった、なんてぼやくのだろうか。はたまた、沢山貰ったのだと自慢をしてくるのか。全く予想がつかない。動揺も相まって、答えなど出るはずもなく形容し難い妙な緊張感を感じながら次の言葉を待つ。次いで紡がれた“チョコレート”の単語に、一瞬で背筋が凍ったのは言うまでもない。
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