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    @SyachOmc

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    ょ!!!!!

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    よっしさん。の四神カーミモチが好きすぎて……。
    当作品はいわゆる三次創作になります。ファン小説です。自己解釈、捏造部分を多く含みます。
    ⚠︎流血表現有

    【rf四ネ申パロ】「猫って水嫌いなんじゃないの」

     肌を刺す日光が眩しく水面を反射する。他者の手によりぱしゃぱしゃと跳ねる飛沫を眺めながら青龍は言った。
     太陽のあたたかさを浴びて少しぬるくなった水は、それでも火照った肌には冷たくて気持ちが良い。きっとこの中に入れば、茹だるような暑さにも耐えられそうな、そんな気がした。
     覗き込む水面は穏やかに揺れて、肩を並べた二人は、互いに水面越しに表情を窺う。

    「私をなんだと思ってるんだ」
    「猫」
    「即答するんじゃない。違うから。……この暑さの方が私は嫌ですけどね」
    「ああ、猫だから」
    「白虎です」

     慣れた悪態を受け流し、それでもしっかり返答をしてくれる優しさに、毎度甘えているのは青龍の方で。弾んだ笑みに合わせて揺れる肩がなんだかおかしくて、青龍もつられて笑った。
     何気ないやり取りが落ち着く。しかし、媚びを嫌い、素直さに欠けた青龍は決してそれを口にすることはない。ただ、白虎も同じであれば嬉しいなとは思う。絶対に言わないけれど。ただでさえ長い時間を共に過ごしたのだから、多少なりとも情は湧いてくるというもの。
     時折水を掬っては投げ、飛沫を作っていた白虎は思い立ったように腰を上げた。
     共に山を偵察していた際に見付けた川。緩やかなせせらぎと煌めく水面に惹かれ、休憩がてら涼しんでいたところだ。
     拭っても拭っても汗が滲むほど周囲には熱気がこもっており、そんな空間に痺れを切らしたであろう白虎は豪快にも衣類を解き始めた。
     反応を示すより先に肩に掛けていた毛皮が青龍の方へと投げられる。柔らかな素材が顔に顔面にヒットするが衝撃に反して痛みはない。

    「うわっ」
    「それ、預かっててください」

     落とさぬよう慌てて受け止め、告げられた言葉に表情を歪める。不服さを示しながらもふかふかの表面に軽く顔を埋めれば心地好い感触が肌を撫でて心地が良い。しかし、毛皮なだけあってかなりの熱がこもっていた。
     これを常に身に付けているのだから彼が暑がるのも無理はない。
     驚く青龍など露知らず、躊躇いもなく半身を晒した彼は、今し方解いた布の一部を川に浸し、そのまま水気を絞ってから自らの肌を丁寧に濡らしていく。
     上昇し切った体温を調整しているのだろう。首元から肩へ。そして腕。可能な限り水に触れる姿は猫というより、何処かイヌ科を彷彿とさせる。名高い白虎とは程遠い無防備な姿に青龍は思わず呆れまじりに笑った。

    「なにやってんの、もう」
    「めちゃめちゃ気持ちいいですよ。ほら、あなたも」
    「ええ……嫌だよ。僕はここで見てるからお構いなく」
    「水、嫌いでしたっけ」
    「そういうわけじゃないけど。何か、水ってさあ……玄武を思い出さない? だから、……ねえ?」
    「あっはは! 可哀想。玄武が泣きますよ」
    「んふふ。冗談です」

     大人しく水が掛からない距離まで下がりその場にしゃがみ込む。履き物越しに、熱された石が足の裏を温めていくのを感じながら、青龍は鍛え上げられながらもしっかりと引き締まった白虎の肢体が少量の水気で濡れていくのをただぼんやりと眺めていた。
     少しでも日光を防ごうと自身の武器である傘を開く。毛皮を腕に抱えながら申し訳程度に出来た日陰に収まり、ふと向けた視線の先。白虎の腹部に大きな円形の傷跡に意識が注がれた。

    「……」

     傷跡は表面だけではない。背後までくっきりと残された痕跡は見るからに深く、過去にその肌を〝何か〟が貫通したことを物語っていた。塞がっているとは言え、いまだ生々しく肌の上で主張している。
     当然出血はない。変色もなく、古傷と称するに相応しい程彼の肌色と同化しているが、青龍にとっては記憶に新しいほどその出来事は深く刻まれていた。
     円形。それは青龍が今しがた開いた傘の直径と一致する。

    「……青龍?」

     違和感に気付いた白虎の呼び掛けから逃げるように、反射的に視線を逸らす。
     そんな仕草に一度疑問符を浮かべた彼だが、特に気にとめる事なく再び身を清めていく。その隙に再度視線を戻しつつ自らの膝を抱えた青龍は途端にしおらしく、彼の姿を見守った。


       ◇◆◇


     四神が一角。今でこそ青龍としての立場を確固たるものとし、その膨大な神力を巧みに操り威厳を保ってはいるがその昔、若さ故の苦難もあったわけで。
     特に覚醒してからと言うもの、その力は酷く不安定で、未熟な器を持った青龍は力を上手く扱えず度々暴走をみせていた。
     その都度三人の制止が入り、神力が身体に馴染むまでの間、何度も手を煩わせていたというのは最早懐かしい話。
     美しく高貴な存在でありながら仲間思いで優しい白虎は、一切傷付けることなく窘め、青龍の暴走を手慣れた様子で制御していたことから、次第にその役目は白虎のものに。
     彼が居るなら安心だ、と。そんな怠慢が生んだ事件だった。

     暴走している間の記憶は朧気。しかし、完全に意識が無いと言えば嘘になる。
     底から目覚めた“青龍”に意識を操られている様な、深い微睡みの中で浮遊しているような不思議な感覚。思考を働かせるより先に体が動いて無我夢中で力を振るう。
     この時も、敵も味方も分からぬまま、立ちはだかる白虎に牙をむき続けていた。
     恐怖心のような、焦りのような。形容し難い感情が身を蝕む。

    「青龍!」

     何度も紡がれる名が、どこか遠いところから聞こえる。光も届かないほど深い海の底に沈んだ青年は、その声を何処か虚ろと聞いていた。
     強く振りかざした傘を白虎は咄嗟に構えた腕で受け止める。ビリビリと骨までを振動させる重い一撃に、表情を歪めた。それでも一方的な攻撃はやまない。
     白虎に反撃の意思はなく、それを示すようにひたすら相手を名を呼び掛け、降り掛かる攻撃を受け流し、白虎としての神力を発動しないまま素の力で青龍を受け止め続けていた。
     何かに怯え、まるで行き場をなくした小動物。強く威嚇して、決して誰も近付けない。白虎には彼がそう見えていた。
     放っておけないと言えば聞こえはいいが。新たな仲間を、白虎はただただ優しく受け止めたかったのだ。

     迷いと恐怖に揺れるふたつの淡い翡翠。目の前にいるはずの白虎が一切見えていない。
     身軽さに関しては青龍の方が遥かに高く、反動で宙を舞い一回転した彼は一度白虎から身を離し体勢を持ち直す。刹那、地を蹴り再び距離を詰めた。
     風を切る音と、傘を振りかざす音。

    「本っ当に……! 手の焼ける人だな……!」

     言葉など通じない。そんなこと、これまでの暴走で身を持って理解しているつもりだ。それでも白虎は呼び掛けることをやめなかった。
     不安定ながらも全力の神力が乗った彼の動きは桁違い。素早い青龍の動きに息を呑めば一拍遅れて攻撃に身構える。眼前に突き立てられた先端。間一髪のところで傘を掴み防いだその一撃。どくり。強く心臓が騒いだ。
     その拍子に白虎の頭部から出現したのは獣の耳、それから尾。途端に感覚が研ぎ澄まされる。
     見開いた双眸に鋭い瞳孔が青龍の些細な動きをもとらえた。
     本来の姿に近付いた白虎をみて、青龍は無意識か、故意的か、挑発的に口角を上げた。頬を侵食する鱗が硬質な音を立てて更に広がっていく。怪しく煌めく翡翠が細められ、同時に白虎の手から傘が引き抜かれた。
     ただでさえ精一杯だと言うのに、より力を解放した青龍の気配に、白虎は思わず舌を打つ。
     今回ばかりは一筋縄ではいかないようだ。しかし、仲間に対して四神の力をぶつけるなんて、そんな事はしたくはない。
     どうする。どうしたらいい。いつもならそろそろ彼が力尽きる頃だが。そんな気配はまるで感じられない。
     思考を巡らせたところで答えは出ない。肌を刺す殺気に全身が粟立つ。せめて動きを封じることが出来たら。一人では無理だ。あの二人がここにいれば。
     白虎に焦りが滲む。嫌な汗が背筋を這った。このまま更に力を発揮されてしまったら。

    「っ!」

     迫る気配。目で追っていたはずの彼の姿が消えた。
     そして、視界の端に見えるのは見慣れた頭部と、龍の、角。
     一瞬迷い。その隙を突いた青龍は白虎の胸部を狙い、力任せに傘を突き立てた。呼吸をする間もない。動揺により僅かにバランスを崩した白虎は、避けることも、受身すらも取れなかった。せめてもの防御とばかりに身を捩ったことが幸いして急所は免れたものの、腹部に触れた先端はそのまま奥へと貫通する。力いっぱい。肉を抉るように。

     視界が一瞬の暗闇を映し出す。そして。

    「……ッ、」

     噛み締めた唇から吹き出す鮮血。広がるのは鉄の味。早打つ脈動とともに腹部は熱を増して、次第に地面を赤く染め上げた。

    「ぁ、……?」

     痛みを感じるより先に、身体は鈍く硬直し、意識が遠退いていく。歪んだ視界で最後に見たのは、これまで絡むことのなかった翡翠の視線。その瞳は今にも泣き出しそうなほど、驚きに見開かれていた。

       ◇◆◇

     突然の出来事に、青龍は我に返る。状況を飲み込むことも出来ないまま、突き立てた武器から伝い落ちる温かい赤に、手が震えた。

     なんだ、これは。……血? この人は、一体。

     白虎の身体が脱力と共にぐらりと崩れ落ち、全ての重みが青龍へ。
     伝わる熱に反して、脳が、身体が、一気に冷えていく。握り締めた傘は、確かに彼を貫いている。
     停止していた思考の隅で、白虎を殺めた事実だけが巡り、震えはやがて全身へと広がり噛み締めた歯牙同士が小刻みに触れてカタカタと音を立てた。
     早く、抜かないと。本当に死んでしまう。
     青ざめた青龍は手放しかけた傘を再度握り、腹部から引き抜こうと力を込めた。

    「抜いちゃダメです! そのままで降ろして!」

     聞き慣れた声が響く。大きく羽ばたく翼の音とともに空から現れたのは紛れもない、朱雀と玄武だ。
     瞬時に状況を理解したであろう玄武は、必死の形相で指示を放った。未だ放心気味の青龍は震える身体で白虎を支え、傷口に触れないようにそっと地面に彼を横たわらせる。

    「なかなか戻って来ないと思って様子を見に来たら……! どういう状況ですか、青龍さん!」
    「俺も気になるところではあるけど、そんなん後でええやろ。とりあえず、処置からや玄武」
    「っ、……分かってますよ」
    「ぁ……の、……すみ、ません、」

     多量の出血のせいか、青白さを増す肌。死の近付く気配に背筋が震えた。身動き一つも行わないその姿はまさに死人そのもの。冷えきった指先に反して、嫌に滲んだ汗が不快に背筋を伝う。
     真っ先に口許へ手のひらをかざした玄武は安堵の表情を見せ「まだ息はあります」と。
     次いで傷口の確認。緊張で強張る玄武の表情に、改めて事の重大さを思い知る。仲間を失う恐怖心により視界が歪む。
     深く息を吐き出した玄武は、集中力を高めつつ小さく術を唱えた。


    「いいですか、青龍さん。タイミングを合わせて傷を塞ぎます。カウントダウンに合わせて武器を引き抜いてください」

     上手く言葉が発せず、ただひとつ頷いた。治療や術式に長けた彼に任せればきっと大丈夫。現にこれまでも世話になってきたのだ。しかしこれ程までの深い傷の治療は初めてなのではないか? 様々な不安が渦巻く中、青龍は震える腕を叱咤して、柄をキツく握った。
     その姿を合図に、玄武はカウントダウンをはじめる。全身が心臓にでもなったかのように脈が暴れた。

    「3、2、1……!」
    「っ!」

     ずるり。勢いのまま傘を引き抜いた。生々しい血肉の感触が柄を伝って手のひらに触れる。一瞬ほど現れた風穴に、喉が鳴ったが、小さな煙を上げて傷口はすぐに塞がっていった。
     凹凸が残る傷口。あくまで応急処置に過ぎない。それを知っているからこそ未だ緊張感は拭えない。すぐに回復し、目を覚ますなんて都合の良い話は存在しないのだ。
     暫し張り詰めた重苦しい空気が漂うが、それを切り裂くように声を上げたのは玄武の方。

    「ふ、……ふさがりましたぁ……」

     彼は安堵とともにその場にへたれ込み、滲む汗を拭う。一方、意外にも終始落ち着きを見せていた朱雀はいつもの調子で白虎の表情を覗き込み、玄武に名を呼ばれるやいなや、待ってましたとばかりにその身体を抱き抱えた。「丁重に運ぶんですよ!」の一言に朱雀は上機嫌に返事を残す。

    「先届けてくるわ!」

     そう告げて朱色の翼を広げて飛び立つ。白虎の安否は? 意識は? 一体どこへ連れていったの?
     放心から抜け出せずにいる青龍は血痕だけが残された地を呆然と見下ろす。手のひらに残る体液の温かさ。一際熱を持った肌と、脱力し硬くなった身体、そして徐々に浅くなる脈。青白い顔。全てが脳裏に焼き付いて離れない。
     対して傷一つない身体。血の気が引いた表情に異常なまで滲む汗。傍から見たら実に滑稽だったに違いない。この手で仲間を深く傷付けたにも関わらず、当の本人は何も出来ずにいた。痛みなど一切ない身体が白虎の優しさを表しており、その分自身への情けなさと罪悪感が込み上げて仕方がない。ただひとつ、強く締め付けられる心臓だけが苦しかった。
     口を開かぬまま俯いた青龍の背を玄武は優しく叩いた。

    「大丈夫ですよ。傷はちゃんと塞がりました。あとは向こうに任せましょう。あの人はこれくらいで死ぬ人じゃない。でしょ?」
    「……、……」
    「うわぁ……この顔、元気な白虎が見たら笑うだろうなあ……見せてあげられないのが悔しいや」

     悪態なんかつけやしない。しかし、いつもと変わらぬ調子で紡がれる音に救われていたのもまた事実。

    「とにかく。暴走が落ち着いたようで良かったです。あとは白虎さんの回復を祈りつつ、その力をコントロール出来るように努めてください」
    「……うん」
    「よし! それじゃあ、僕らも行きましょ」

     力無く小さく頷く。白虎の血で濡れた拳を強く握り、青龍は込み上げた思いを固く、密かに自身に言い聞かせるように強く誓った。


       ◆◇◆


    「──‬龍、」

     手放した意識の中、心地良い低音が鼓膜を擽る。懐かしい響き。あの時とは違う、落ち着いた音だ。
     抱えた被毛に顔を埋めて僅かに唸る。悪夢にも等しい、されど深く大切な思い出。落ちた思考が徐々に現実へと呼び戻される。

    「青龍」

     重たい瞼を持ち上げれば、視界いっぱいに映る白虎の顔。鋭い双眸がこちらを見詰める。陽の光を浴びて煌めく琥珀は曇りなく美しい。あまりの近距離に輪郭のぼやけたそれに心臓が大きく跳ね上がった。

    「わ」
    「あんなに見詰めてきたかと思えば、今度はうたた寝ですか」
    「え? あれ……」
    「この暑さでよく眠れますね。今はだいぶ涼しくなりましたが。……全く、一体どちらが猫なんだか」

     驚きのあまり仰け反った身体。高く昇っていた日は僅かに落ちて、辺りは暖かな朱色に染められつつあった。
     上手く思考が働かず、暫しぼんやりとしていると呆れた白虎は指先を構えたのち青龍の額に狙いを定める。そして容赦なく強く肌を弾いた。

    「ッだぁ……!!」

     デコピンなんて可愛い響きではない。鈍く響いた音と、額を襲う鈍痛に声を上げた青龍は反射的に患部をおさえた。
     じんじんと痛みが長引く中、一気に覚醒した頭で彼を恨みながら記憶を手繰り寄せる。
     水を浴びていたはずの白虎の姿は整えられ、主張していた傷は布の下へ隠されていた。思わず安堵したのも束の間。悪びれる様子もなく白虎はおもむろに片手を差し出す。
     なかなか痛みの引かない額をさすり、恨めしげに細めた瞳を向けつつも意図を察した青龍は躊躇いの末、その手を握った。そのままやんわりと引かれ、大人しく立ち上がったものの妙な気まずさを感じる。
     どれもこれも、あんな夢を見たせいだ。
     抱えていた毛皮にはすっかり自身の体温が移ってしまった。しかし、自身が持ち続けるのも違う気がしておずおずと差し出せば、白虎は満足気に口元を緩めなにを言うわけでもなく素直に受け取る。すぐに肩へと掛けられた虎柄のそれは、定位置に落ち着き謎の安心感すらあった。

    「帰りましょう。これ以上暗くなると大変ですから」
    「……ずっと待ってたんですか? 僕が起きるまで」
    「いいえ? ちょうど長く水に触れたい気分だったので」
    「あっはは……! ふやけるよ」
    「暑かったもので」

     柔らかな表情。歩き出した彼の後を追うように歩を進めた。心地よい温度まで下がった風が亜麻色の髪と、毛皮を揺らす。耳飾りからは小さな金属音が鳴って、それだけで懐かしい気持ちが押し寄せた。
     一歩後ろをついて歩く青龍は、一人感傷に浸る。会話がなくとも不快感はない。長年の絆がそこにはあった。

    「ああ、あと」
    「はい?」
    「過去のことをいつまでも引き摺る必要はありませんからね」
    「……え?」
    「この傷は決してあなただけの責任ではない。私だって力を使わなかった。そしてあの二人だって……大事な時にあの場にいなかったわけで。……条件が重なって起きた不慮の事故です」
    「……うん」
    「あなたは強くなった。それだけで十分。むしろ、結構いい思い出になってますしね。死ぬ瞬間ってこんな感じなんだ〜ってなったもんな」
    「んふ、なにそれ」

     視線を寄越さぬまま、ぽつりぽつりと紡がれる言葉があたたかく胸に広がり自然と目頭が熱くなった。何もかもお見通しだと言わんばかりの低音に擽ったさすら感じる。単語一つ一つに優しさが滲んでいるのがいっそ腹立たしいほど。
     彼らしい感想も相まって、堪えきれなかった笑みを小さく零しながら青龍は地を蹴った。先程の仕返しの意も込めて、広い背に躊躇いなく手のひらをぶつけ隣へ並ぶ。

    「ったぁ……!」
    「ほんっとゴリラだなぁ、あんたは! 普通そんな感想出てこないって。いやあ、神力を使わず四神に立ち向かうなんて、怖いもの知らずのゴリラだ」
    「いい話をしていたのに……! なんて可愛げの無い……! しかもゴリラは関係ないだろ」

     悪態を吐きつつ追い越して、身軽な動作で振り返る。
     呆れ混じりに返された言葉に怒りも、咎めの意思も感じられない。

    「あんたを、……皆を守るために強くなったから、僕は」

     呟いた台詞は、意地悪く吹いた風に掻き消された。

    「ん? ああ、すみません、ちょっと風で聞こえなくて。もう一度お願いします」
    「えぇ? 何も言ってないです〜」
    「絶対言ってただろう。今更隠し事ですか。そんな子に育てた覚えはありませんよ」
    「だーかーら! 父親ヅラすんなって。もぉ〜」

     弾けた二人の笑みに合わせて木々がざわめく。再度隣に並んだ白虎が深い紫苑を乱雑に掻き混ぜた。あれほど煩わしく感じた手付きが今は心地好い。胸を擽られる感覚も拭えず、照れ隠しに手のひらを払えば反省の色のない笑みがまたひとつ弾ける。


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    Replies from the creator

    ょ!!!!!

    DONEValentine/収録前のとある出来事。内容もオチはないです。何気ない日常の妄想😌
    ⚠︎ご本人様、関係者等の迷惑になる行為はおやめください。
    【rfmo】チョコレート、みんなで食べてもいいじゃない「ねえ、甲斐田くん」
    「なんだい、もちさん」

     収録日。もはや見慣れた顔ぶれ。先に事務所に到着していた甲斐田と剣持は準備室にて残りのメンバーを待つと同時に収録開始までの時間をそれとなく潰していた。
     机に突っ伏し意味もなくぼんやりしているところに突然剣持が声を掛け、甲斐田はおもむろに顔を上げ声の方を向く。

    「今日ってさ、バレンタインだよね」

     特にこちらを見るわけでもなく、落ち着いたトーンのまま告げた予想外の言葉。思わず瞠目してしまう。まさか、媚びの象徴とも呼べるイベントに彼自ら触れてくるとは。思わず居住まいを正し、曖昧ながらも頷き返事をする。
     まさか、今になってチョコレートが欲しかった、なんてぼやくのだろうか。はたまた、沢山貰ったのだと自慢をしてくるのか。全く予想がつかない。動揺も相まって、答えなど出るはずもなく形容し難い妙な緊張感を感じながら次の言葉を待つ。次いで紡がれた“チョコレート”の単語に、一瞬で背筋が凍ったのは言うまでもない。
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