【iko】四畳半とセーラー服と機関銃この作品は児童に対する性的虐待および性交渉を促進する目的で書かれたものではありません。
また特定の組織との関わりをおすすめするものではありません。
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日当たりの良い四畳半。
そこには再びTシャツハーフパンツ姿という部屋着で仁王立ちする岡聡実十九歳の目の前で、やはり再び土下座するワイシャツにスラックス姿の成田狂児四十四歳が居た。
「せっかくやし、ええやろ?」
「イヤです」
「そこをなんとか」
「イヤや」
そうしてどちらも譲らないまま、またもや三十分以上が経過していた。
その間、狂児はずっと土下座をしたままだ。
「やから、ヤクザが簡単に土下座とかせんでください」
「簡単やないから頭下げてるんや」
土下座のまま、頭を上げない狂児に、聡実は何度目かのため息をついた。
聡実の足元には、セーラー服が広がっていた。
以前、狂児はどこからともなく聡実の高校時代のブレザーの制服を持ってきた。
そのとき一緒に持ってきたのが、体操服とセーラー服だった。
体操服は、結局そのまま聡実の部屋着になり、ブレザーに関してはその後、ラブラブな恋人同士のちょっとしたスパイスとして使われていた。
だがさすがにセーラー服に関しては、そのままずっと放置されたままであった。
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約二週間ぶりに、狂児は聡実の四畳半を訪れていた。
少し前まで、恋人同士の甘い時間を過ごしていたはずであった。
そしてタンスの奥にしまわれていたセーラー服を取り出して、今に至る。
「ブレザーも体操服も着てくれたやん」
「それはそれ、これはこれです」
「絶対に似合うって」
「セーラー服ですよ?」
「きっと可愛いやろうなあ」
狂児は頭を上げ、デレっとした顔で見上げると、聡実が冷めた目で見下ろしてきていた。
「似合っても嬉しないわ」
「ああ、その冷たい目。ゾクゾクするわ」
「変態か」
「変態でかまへん」
「変態やん」
「男はみんな変態やで!」
「僕も男ですよ」
「聡実くんかて、まあまあ変態なの好きやん」
狂児の言葉に、聡実がギロッと睨みつけた。
「……その目たまらん」
「クソ変態ヤクザ」
聡実が小さく舌打ちした。
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結局また、聡実が折れた。
折れざるを得なかった。
狂児はいつまでも頭を下げたままだったからだ。
「……今回きりやで」
「ホンマに!?」
大きく呆れたため息をつく聡実に対し、狂児は満面の笑顔で聡実を見つめた。
「その代わり」
「その代わり?」
「今回はオサワリ禁止です」
「なんで!!」
「うるさ」
狂児の大声に、聡実はまたため息をついた。
「ちょっとも?」
「ちょっとも」
「……なんでや」
冷たい聡実の目線に、狂児はガックリとうなだれた。
「……そんなん恥ずかしいからに決まってるやろ」
「恥ずかしいのがええんちゃう?」
「……その代わり」
「その代わり?」
「オサワリはしてあげます」
「ホンマに!?」
「……うるさ」
狂児の大声に、聡実はまたため息をついた。
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胡座をかいて、背を向ける狂児を見つめ、聡実はまた小さくため息をついた。
手にはセーラー服。
しかも安物のコスプレ用ではなく、きちんとした素材でできている。
どこからこんなものを、とは言わない。
狂児の仕事を考えれば、セーラー服を手に入れることなど簡単だろう。
だが聡実のため息は、それが理由ではなかった。
男である自分が着ると言うことは、当然それは女装になる。
やはり狂児は女性の方がいいのだろうかと、つい考えてしまう。
それを問えば、そうではない、聡実だから良いのだと力説する姿が見える。
だが事実、聡実は男であり、それが多少なりともコンプレックスのようなものになっていることには変わらない。
狂児の背中を見つめれば、全身からワクワクと期待したなにかが感じられ、聡実はまた小さくため息をついた。
「なあ、狂児さん?」
「おん? 着替えた?」
「いや、まだですけど」
聡実はすうっと息を吸った。
「セーラー服の僕なんか見て、楽しいですか?」
自分でも少し冷めた声だと思った。
「聡実くん?」
「はい」
「そっち向いてええ?」
「はい」
聡実の声に、狂児は胡座のまま振り返った。
「なに考えとるん?」
「なにって」
「俺は聡実くんやからええんやで」
狂児はジッと聡実を見つめた。
「知ってます」
「そんなにイヤ?」
「……そんなにでもない」
「コスプレなんて恋人同士のちょっとしたアレやん」
狂児は聡実を手招いた。
聡実が近づくと、狂児は腕を伸ばし、聡実の細腰を引き寄せ、胡座の上に座らせた。
「ええよ、着なくても」
「なんで? あんなお願いしてきたくせに」
聡実が見つめると、狂児は少し笑った。
「そりゃお願いはするさ」
「ヤクザが土下座までしたやん」
「土下座で聡実くんがお願い聞いてくれるなら、なんぼでもするよ」
「軽い土下座やな」
「聡実くんにしかせえへんよ」
狂児は微笑み、聡実を強く抱き寄せた。
「俺はな、きみが好きなんや。きみやからええんや。聡実くんがええんやよ」
「僕も狂児さんやからええです。狂児がええ」
「やからなんぼでもお願いはするけど、ホンマにイヤやったら無理強いはしたくないねん」
「そんなに無理とちゃいます」
「でも変なこと考えとるやろ」
狂児は少し苦笑いした。
「ちゃんと全部話してほしい」
「そんなんちゃいます」
聡実は少しうつむいた。
「いくらでも聞くよ、恋人の話は」
聡実は、小さく息を吐き出すと、狂児を見つめた。
「狂児さん」
「おん?」
「好きです」
「俺も」
「アンタは僕の最初のオトコや」
「そやね」
「そんで、僕はアンタの最後のオトコや」
「最初のオトコでもあるヨン」
狂児がニッコリと微笑んだ。
その笑顔の頬に、聡実は軽く口づけた。
「聡実くん!?」
「着替えるから離して」
「聡実くん!?」
「……うるさ」
聡実はグイッと近づけてきた狂児の顔を、少し笑いながら押し返した。
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「はあ~~~~~」
狂児はヤクザらしからぬ目をキラキラとさせ、目の前で仁王立ちの聡実を見上げた。
当然聡実はセーラー服だ。
「天使やん」
「お迎えか?」
「こんな可愛い天使のお迎えなら、歓迎や」
狂児は手を伸ばすと、スカートの裾先に触れた。
「オサワリ禁止やでっ」
聡実は手を伸ばして、狂児の手を叩き落とした。
「いったぁ」
「オサワリ禁止やって言ったろ」
「スカートやん、まだ触ってないやん」
「オサワリ禁止!!」
元合唱部部長の聡実の声が、四畳半に響いた。
「いやぁ、それにしても可愛いなぁ」
狂児は立ち上がり、聡実の周りを回った。
「似合うわあ」
「あんまり嬉しくないな」
「似合うてるで」
「セーラー服似合っても、嬉しないって」
「可愛いなぁ」
「もううるさいなぁ」
「可愛いなぁ」
狂児はニコニコしながら、さらに聡実の周りを回った。
「ホンマ可愛いよ」
「やから、嬉しないって」
聡実は、狂児を睨むように見つめた。
「……もう脱いでええでしょ」
「なんで!」
「うるさ」
「今日このままおってよ」
狂児は胸の前で手を組むと「オネガイ」と微笑んだ。
「オサワリもしてくれるんやろ?」
「仕方がないですね」
聡実は大きくため息をついた。
「ホンマ!?」
「狂児さんのオサワリは禁止ですよ」
「……覗くのはええ?」
「はっ!?」
「覗いてええ?」
狂児はニコニコと聡実を見つめた。
「クソ変態ヤクザ」
狂児の言葉に、聡実がギロッと睨みつけた。
「……その目たまらんなあ」
狂児はニッコリと微笑んだ。
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そしてまた聡実は仁王立ちとなった。
ただし足元には、寝転がった狂児がいる。
しかもワクワクと目を輝かせている。
「クソ変態ヤクザ」
聡実は少し足を伸ばすと、狂児の肩を足先でつついた。
「サトミサン、積極的やん」
「ちゃうわ」
「ヤクザ足蹴にするなんて、聡実くんだけやで」
「ヤクザやのうて、僕のオトコを足蹴にしとるんです」
「なんて!」
「は?」
聡実は首をかしげた。
「もっかい言うて」
「どのへんを?」
「僕のオトコってやつ!」
狂児は寝転がったまま、ニコニコと見つめた。
「自分で言うてるやん」
「聡実くんから聞きたいんや」
聡実は大きくため息をついて、また狂児の肩を足先でつついた。
「僕のオトコなら、もう少しシャンとしてください」
「する!! なんぼでもする!」
「してへんやん」
「今はムリや」
また狂児が微笑んだ。
「なあ、もうちょっとこっちきてや」
「変態」
「こんな堂々と覗けるんやから、もっと見たいやん」
聡実はため息をつくと、狂児の頭の上に移動した。
「はあ~~~見えてまう」
狂児はわざとらしく両手で顔を隠した。
「見たかったんやろ、ちゃんと見てや」
「失礼しまーす」
狂児は両手を外すと、上を見上げた。
「……絶景や」
「楽しそうやな」
「聡実くん、ボクサーなんやね」
「いつも見とるやろ」
「見とったわ」
「……なあ、本当に変態ちっくなんやけど」
「変態でええわ」
聡実は、またため息をついた。
「もうええやろ」
「もう少し」
「……中身には興味あらへんの?」
「中身!?」
「そうや」
聡実は、ジッと足元の狂児を見下ろした。
「中身」
「……中身?」
聡実はほくそ笑むと、また狂児の肩を足先でつついた。
「特別サービス、欲しない?」
「欲しいです!!」
狂児はガバリと起き上がると、聡実の足元に正座した。
「なんで敬語」
「欲しいです!!」
「なんで繰り返したし」
「大事なことやからや」
狂児は聡実に手を伸ばした。
「ほんなら、もう触ってもええ?」
「……ええですよ、サービスです」
聡実はクスリと笑うと、狂児の太ももを跨ぐように、腰を下ろした。