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    ex_manzyuu88

    @ex_manzyuu88

    (らくがきと小話用)
    あんスタ(腐) 十条兄弟(右固定)と巽要中心

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    ex_manzyuu88

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    もう続きは書かないだろう、燐ひめの導入

    『無題』 珍しい事もあるものだ、というのがそれを見た天城燐音の感想だった。
    視線の先。レッスンルームの隅っこで、長い足を器用に折りたたんで体育座りをしているHiMERUがすやすやと寝息を立てている。
    随分と穏やかな寝顔は年相応にあどけない、というには元の造りのせいで少々艶っぽい。涎でも垂らしてくれればまだまだ子供だと笑ってやれるのに、長いまつ毛が影を落としている様は美人女優顔負けである。
    無防備な寝姿は見せる癖に出来るだけ離れた隅っこに陣取るところも、懐ききらない猫みたいでこそばゆいと思った。
    ライブでファンサービスをする以外で触れれば未だに振り払われる現状──振り払われるのは主に燐音だけだが、こんな風に気の抜けた姿を見せてくれるようになったのは彼にとってもユニットにとっても良い兆候だろう。
    その証拠にニキとこはくの視線も珍しいHiMERUの姿に集まっている。
    「なんや、珍しいこともあるんやね」
    帰り支度を終えたらしいこはくが、可愛らしい小動物でも見ているような声でそう言った。
    わざわざ燐音の隣まで来て必要以上に声を落としたのは、HiMERUを起こさないように考慮したものなのだろう。
    続いてやってきたニキもにへらと表情を崩して、起こすの可哀想っすね、なんて宣った。
    いつもならば適当にヘッドロックでもかけてやるところだが、今回ばかりは燐音も、恐らくはこはくもニキと同意見。
    「しょうがねぇ、しばらく寝かせといてやるっしょ」
    「あ、珍しく燐音くんが優しい」
    「なんだァニキ、そんなにハグされてぇのかよ」
    わざとらしくにじり寄った燐音に、ビクリと反応したニキが上体を逸らして逃げを打つ。
    「嫌っすよ、燐音くんのはハグじゃなくて絞め技じゃないっすか」
    「2人とも静かにせんかい。HiMERUはんが起きてまうやろ」
    こはくの呆れた声に視線を戻しても、幸いなことに眠り姫よろしく寝こけたHiMERUに起きる気配はなく、思わず安堵の息が落ちる。
    燐音の記憶にある限り、本日のレッスンルーム使用者は自分たちが最後だ。
    ならば多少鍵を返すのが遅れるくらい構わないだろうし、 あんなに穏やかな寝顔を見せてもらえるなら、少々の小言を貰うくらいなんてことはない。
    むしろ、彼が寝てしまうほどの無理をさせただろうかと、柄にもなく心配になる。
    「でも、コイツらはピンピンしてっしな……」
    どうしたものか、と腕を組んだ燐音は誰にも聞き咎められないようにゆっくりと息を吐いた。
    あの体型では無理もないが、HiMERUは案外体力がない。
    ソロ時代の映像は彼ではないからあてにならないが、徹底管理された身体はアイドルとしての見栄え第一に作られて、見かねたニキが昼飯だという珈琲に生クリームを絞ったら、渋々といった顔で飲んでいた。
    ちなみに、燐音がテレビで聞きかじった知識からバターを入れてやった時は、さっさと新しいのを注文した挙句、きっちり2杯分奢らされたので、それ以降食についてのお節介はニキに任せると決めている。
    久々に時間通りに集まった4人でのレッスンは、やれるときにやっておけと休憩を最低限にしたせいで確かにハードだったけれど、それでも全員の体力を考慮した上で組まれていたから無理を通したものではない。たぶん、きっと、恐らく、燐音の感覚では。
    いつものHiMERUならば、疲れた顔など欠片も見せず涼しい顔をしてお先にと帰ってしまっただろうが、それも彼の事情を鑑みてやれば致し方ない事だ。
    短いとはいえそれなりの苦楽を共にしたメンバーにさえ、基本的にHiMERUが『HiMERU』を崩す事は無い。
    少なくとも燐音には事情を知られていると分かっているはずなのに精々他より当たりが強いくらいだし、少しの隙すら見せてくれる気はないらしい。
    案外抜けているというか、迂闊というか。隠しきれずに見えてしまっている部分もあるのだし、さっさと観念して年上(恐らく)にくらい甘えてしまえば良いのにと思うのは、そんなに傲慢な話だろうか。
    本当の意味で『HiMERU』ではない『彼』が気を抜けるのは、1人になれる空間。体型維持のためのトレーニングやスキンケア等と『HiMERU』を維持するための時間に違いはないにしろ、自身の家くらいなのだろう。
    今では寮で寝泊まりする事もあるようだから、そのぶん完璧なHiMERUで居なければならない時間が増え、精神的な負担が増しているのでは、という老婆心を飲み込んだのも記憶に新しい。
    『HiMERU』でいる事自体は苦痛ではないと本人が思っている以上、頼りたい訳でもないのに頼れと言われる方が苦痛になると思い、今まで見ないふりをしてやっていたのだが、もう少しだけ踏み込んでやるべきだろうか。
    そんな事をつらつらと考えながら、燐音は何となしに隣にいたこはくの頭に手を置いてみた。
    そのままわしゃわしゃと撫でてやっても、燐音の甘やかしを諦めているこはくはその手を振り払ったりしない。むしろそれを利用する強かさすらあるのだから、随分と頼もしいものである。
    ㅤ見た目以上に大人なこはくの事だから、自身を撫でる燐音の手が、本当は誰を甘やかしたいのか分かっているのかもしれないが。
    「……起きねぇな」
    「普段は視線にも敏感な人やのに、具合でも悪いんやろか」
    「お腹空きすぎちゃったんすかね?」
    「そりゃおめェだろ、ニキ」
    ちらりと伺いみたニキとこはくの表情には、確かな心配の色が滲んでいる。
    単なる居眠りでここまで心配される人間も早々居ないだろうに。目が覚めた瞬間、3人に見られていた──ましてや心配されていたと知ったら彼はどんな表情を見せてくれるだろうか。
    「燐音はん、顔」
    「そんなだからHiMERUくんに嫌われるんすよ」
    考えただけでニヤついてしまえば、何かを察したらしいこはくに軽く頭を叩かれる。
    「いや、あれは照れ隠しっしょ。俺っちには分かる」
    燐音はうんうんと頷いてみたけれど、帰ってきたのは2人分の白けた視線だけだった。
    けれど実際、メンバー内では燐音にばかり発揮される当たりの強さは、嫌悪から来るものでは無い。出会った当初の無関心とは違う、無意識的な一種の甘えであり、信頼でもある部分。
    あれを可愛らしいと思えるまでにはそれこそ紆余曲折あったけれど、今ではさらに先に在る本質に触れてやりたいとすら思っているのだから、笑い話にもならない。
    単なる共犯として選んだ時からそれ程経ってもいないのに。『彼』という人間を知れば知るほど、その危うさから目が離せなくなる。
    どうしたもんかねぇ、と口に出すつもりのなかった呟きが零れて、燐音の心情など知るはずもないニキがこちらを覗きこんできた。
    「そろそろ起こすんすか?」
    「いや、もうちょい」
    チラリと時計を見れば、ちょうど使用時間を過ぎた辺りを指している。
    HiMERUの帰り支度もあるとして、せめてあと15分。こういう時に普段から悪ぶっていると、都合が良い。どうせこれ以上下がる評価もないのだ。
    燐音が軽い調子で時間オーバーを謝罪して、バツの悪そうなHiMERUがご自慢の綺麗な顔を俯かせて後ろにいれば、大抵の人間は小言だって言い難いだろう。
    今回に関しては不可抗力とはいえ、彼は自身の美しさや他人に与える視覚的印象をよく理解している。美人は得だ、という言葉に嘘がない事を、燐音はHiMERUと出会って実感させられている。
    ──残り10分と少し。
    どうせなら、起こすついでに普段は触れさせてもらえない手触りの良さそうな髪を掻き混ぜてやろうと、燐音は笑みを深くした。
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