部屋の中でガタガタ音がする。ああきっと母さんが起こしにきたんだろうなって、ぼんやり思う。いつも思うけど、そんな乱暴にしなくたって起きるのに。
布団、剥がされるんだろうなあ。僅かな抵抗というか、無意識に寝返りを打って掛け布団を身体に巻きつける。だってまだ起きたくない。学校だってのはわかってるけど。
起きなよって遠くで聞こえる声が母さんと違うってこと、まだ頭が起きてなさすぎて気付けなかったんだ。オレはただ起きたくない一心で、固く目を瞑って、布団が持って行かれるのに耐えようとした。
「こーら、もう! 起きてってば!」
布団を引っ張られて、眩しさに耐えられなかった眠気がどこかに行って、その声が母さんのものじゃないって、その時やっと気付けたんだ。
「ふぁ?! あ、え!? まっ、ハァ!?」
眩しすぎる中、ちょっとだけ目を開けたそこには、片想い中の幼馴染、シュウの制服のスカートが少しだけ見えた。
母さんだと思っていたらシュウだった! 最悪すぎるサプライズに動揺しすぎて、オレは思わず後退り、盛大に壁にぶつかった。だはは、と爆笑するシュウは可愛いけれど、それに見惚れている場合ではなかった。
寝癖とか、目ヤニはまあ、いい。よくはないけど、子供の頃からの仲だ。今更隠すようなものでもない。問題は。
畳んだ足を少し動かして、股間を確認する。
………ウン、勃ってる。
「おはよ、ルカ」
「おは、おはよ。あー…と、母さんは?」
「わかんない。けどなんかすごく急いでて、僕がルカ起こしに行こうか?て言ったら、お願いって」
寝坊でもしたのかな? って笑いながら続けるシュウは、自然な動きでオレのベッドに腰掛けた。距離が近付いて、バレるんじゃないかって、勝手に身体が強張った。
オレが目をまんまるにして緊張してるから、シュウも少し不思議に思ったみたいで、無言で首を傾げた。何もないよ、の意味を込めて首を振る。まさか、朝勃ちしてるから近寄らないでなんて言えるわけがない。
「じゃあはやくご飯食べに行こ。学校行く時間になっちゃうよ」
「うん…うん、先に行ってて」
「え、何で? 一緒に行けばよくない?」
その通りである。階段を降りてリビングに出るだけ。別々に行くのは不自然だ。
でも、じゃあ一緒に行こうと立ち上がってしまえば、勃っていることがバレるのは避けられない。オレのプライドにかけて、なんとかシュウにだけは、片想いしている女の子にだけは、朝勃ちはバレたくなかった。
必死で頭を回転させて、なんとか別行動を取れる理由を探す。
「あ、あー…トイレ行ってから行くから」
「途中でしょ」
「着替えてから」
「今着替えなよ。そんな気にするものでもないでしょ」
「顔洗って」
「洗面所一階じゃん」
完敗だ。そもそもシュウに口で勝てるわけないのだ。半ば諦め。
バレるの覚悟で一緒に出てトイレに駆け込むか、なんとか力づくでも先に部屋を出てもらうか。オレが選択する前に、シュウがオレの腕を掴んだ。
遅刻するでしょ! と引っ張られたその腕。けれどオレはバレたくない一心で抵抗してしまい、腕を自分の方に戻そうとしてしまった。
シュウは突然のことで対応ができずバランスを崩す。慌ててオレは腕を広げて、シュウをキャッチできるように体勢を整えた。
「シュウ!」
「わ、あ」
シュウは無事オレの胸に収まった。
思わぬ形で身体が密着して、皮膚の感度だけ百万倍になったような心地になる。シュウの胸って、こんな柔らかいんだ、とか、ふわっと香るいい匂いがオレの好きな香りだな、とか、抱き留めた腰が思っていたよりずっと細くてセクシー、とか。
時間にして数秒もない。けれど、童貞のオレがシュウと密着して、普通でいられるわけもなく、ちんこがさらに大きくなってしまった。むくりと、シュウの柔らかなお腹の下で。
「えっ」
「う、う、うん。あの、ええ…っと」
「なにこれ」
「なにって、わ、あ、あああ!」
シュウがお腹の下に手を入れて、オレのちんこに触れた。オレを見上げてするりと撫でて、ぱちぱちと数回まばたき。睫毛本当に長いよなあ、って、そうじゃなくて!
オレを見つめるシュウの丸顔が、面白いくらいに赤く染まっていく。ひゅ、と喉が鳴る。
「あ、えーと…ごめんね? あの、ぼく、」
「シュ、シュウ!ごめん!オレが悪いの!」
「いや、ううん…ええと、とりあえず出とくから…うん、下で待ってる、よ」
オレの身体に触れないようにゆっくりと立ち上がったシュウは、思ったより自然な動きでドアノブに手をかけた。ギ、と音を立てて扉が開き、シュウがその向こうに消えていく。
…と思ったら、ひょっこり顔だけ覗かせて、楽しそうな笑みを浮かべてこう言うのだ。
「んふふっ、ルカも男の子なんだね」
叫びたい。全てを投げ出して、逃げたい。でも、さっきの少し意地悪な笑顔が可愛すぎて、見惚れてしまった。
勃起したちんこと、呆然とする中学二年生の男一人。母親が怒鳴り込みにくるまで、あと数分。