最近また一段と寒くなり、外へ出るにはマフラーが手放せなくなったし、心なしか、街ゆく人々はみんな肩をきゅっと上げて、身体を縮こませて歩いているように見える。
そんな私も例外ではなく、おしゃれよりも防寒と、しっかりめにマフラーを巻き、分厚いタイツを履き、肩をきゅっと上げて、身体を縮こませて歩いていた。
家に着いたらホットココアでも飲もう。録画していたドラマを見ちゃおう。帰路を急いでいると、帰り道のコンビニ前で見慣れた後ろ姿を見つけた。
ルカ・カネシロくん。うちのクラスの元気印って感じの、声とリアクションが大きい男の子だ。特別仲がいいというわけではないけど、それでも話しかけるのに躊躇しないのは、彼の人柄のお陰だろう。いつも彼の周りには誰かいて、今だって、他クラスの男の子三人と楽しそうに喋っていた。
声をかけようか一瞬迷って、やめた。特に話す話題もないし、早く家に帰りたかった。カネシロくん以外の男の子と、特に話したことがなかったのも理由の一つだ。気付かれませんように、と早足で通り過ぎて、その一瞬あと、カネシロくんの声が響いた。
「あ、今帰り?」
私じゃないかもしれない。でも、もし私だったら。
ぎこちなく、ゆっくり振り返ると、カネシロくんは笑顔で私に手を振っていた。へらりと笑顔を作って、返事をする。
「うん、帰るとこ………ん?」
「ん?」
目の前に不思議な物体がいた。確かにカネシロくんだけれど、その顔の下にもう一つ顔が、詳しく言うと、去年同じクラスだった闇ノシュウくんの顔があった。
闇ノくんはカネシロくんのコートの中にすっぽりおさまって、あろうことか何事もないような顔をしていたのだ。何事もありまくりですけど、何?
「ん? あれ? あ、シュウだよ! 闇ノシュウ」
「んはは、知ってるよ。去年同じクラスだったもんね?」
「あ、ああ…うん」
カネシロくんに後ろから抱きしめられている闇ノくんは、少し上を向いて笑って答えた。この流れでキスされても何も驚かない。それくらい二人は密着していたし、それが自然だった。
私が闇ノくんと顔見知りだとわかると、いよいよ私が何に混乱しているのかわからないというように、カネシロくんは闇ノくんの頭と私を何度も見比べた。
「あーいやー…えぇと………な、仲良しだね?」
「ブハッ!」
言葉を選んで言ったつもりが、横にいたお友達に吹き出されてしまった。当のカネシロくんと闇ノくんは、いまだにキョトン顔である。
「うん? ああ! そう! 寒くなってきたからね!」
「ルカのコートあったかいんだよ」
「そう………」
そういうものなの? いくら寒いとはいっても、男の子同士でそこまでくっついているのを見たことがないけど、彼らにとっては普通のことなの?
普通のことなんだろう。私が返事に困っていると、カネシロくんはぎゅうと闇ノくんを抱きしめる腕に力を入れて、挟まれた闇ノくんは笑いながら抵抗していた。
「あー…と、じゃあ、帰るね?」
「あ、うん! ごめんね引き留めて」
「いや、また明日ね」
「うん、…ん?」
片手を上げると、カネシロくんも片手を上げてくれる。闇ノくんはカネシロくんのコートの中で少しゴソゴソして、カネシロくんも不思議そうに視線を落としたところで、闇ノくんの片手がカネシロくんのコートから出てきた。
「またね」
「ああうん、ありがと。またね」
闇ノくんも笑顔を作って、私を見送ってくれた。そうだ、クラスメイト時代も優しいいい人だったなとここで思い出す。あまり接点はなかったけれど。
闇ノくんの手がまたコートの中に収まって、四人改め五人での談笑が再開した。私はまた歩き出す。
家に着いたらホットココアを飲もう。録画していたドラマも見ちゃおう。………って、思考を現実に戻そうとするけれど、頭の中はさっきの近すぎる距離感に占領されてしまっていた。しばらく、忘れられないだろう。