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    tooko1050

    透子
    @tooko1050
    兼さん最推し。(字書き/成人済/書くCPは兼さん右固定。本はCP無しもあり)
    むついず、hjkn他
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    tooko1050

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    「訣れの歌が終わる前に」設定でクリスマスネタ。
    タイトル、正確には前夜祭ですけど語感重視ということで…!

    良かったら保護かねさんにプレゼントあげて下さい☺️

    ##むついず
    ##リグレット

    聖誕祭の夜「うー……?」
     陸奥守が何やら一生懸命本を覗き込んでいる和泉の姿を見つけたのは師走に入ったばかりのある日のことだった。くろのすけは側に居らず、多分ちょっと離れているか、本刃が好きで一人行動をしている最中なのだろう。
     すっかり本丸の生活空間に慣れた和泉は秋には畑の収穫に混ざって芋掘りをしたし、最近は皆が忙しければ自分でご飯や御八つを乗せて貰った盆を厨から広間、居間となっている小部屋へ、食べ終わればそれをまた厨や食堂の洗い場へと、そんなことも安心して任せられるようになっている。
     把手の付いた盆は、一度それはもう盛大に引っ繰り返して、事態を把握できずぽかん、としたかと思うと、次には今度こそ酷い目に遭っても仕方がないと過去の「ひどいこと」を思い出して怯えた彼に早速用意されたとっておきの盆だ。そうして道具や気遣いの助けを借りながら小さな経験を重ねた今、一人で何かしているからといって心配する必要は随分減った。
     うっかり寂しい思いをさせていないか、危ないものをそれと知らずに触れていないか、それだけは常に気にしているが、そのくらいで済むようになったのだ。

    「何ぞ調べもんかにゃあ?」
     声を掛けるとぱっと振り向いて嬉しそうに笑う、その顔を見れば疲れが吹き飛ぶということを知ってもう半年が過ぎると思うと驚きだ。
    「あー!」
     今日は軽い遠征で上がりの陸奥守はさっき戻ったばかりだ。隣へ腰を下ろせば「おかえり」とすっかり定番になった挨拶が待っている。柔らかくて甘い匂いや、たまに誰かに付けて貰ったらしい香の類の香りまでするようになった彼からの出迎えは、いつだって最上と思うほどに優しくて温かくて幸福だ。
    「お、珍しいもん読んどるのう」
    「うー」
     頁が捲れないように押さえたそれは絵本だった。
     真っ赤なモコモコの服を着て、寒さに赤らんだ顔には立派な白髭を蓄え、雪車ソリには沢山の荷物を積み、トナカイと一緒。
     そう、かの世界的に有名な、冬、師走を代表するお爺さんである。
    「ん、ん」
     これはなあに、と聞かれているのが解った。世俗に疎い和泉が知るはずもないイベントである。
     さて、これに何と答えるのが一番だろう。油断しきっていた陸奥守は真剣に考えた。
     一般家庭の子供に教えるようにするべきか、真実…… いやでも、真実も何も、この本丸でのクリスマスの立ち位置と言えば大幅に人数が増えてからは今年が初のことで、「各家庭」自体が事情を探り探りだ。
     言わずもがな、「お兄ちゃん」な和泉守はサンタクロースにも聖ニコラウスにも夢も希望も最初からない。悲しいくらいにキッパリない。だからイベントに便乗して何かしたいとなれば、それは友愛・敬愛としての贈り物だろう。陸奥守だけの特権があるとすれば恋刃こいびとへのことになるものだからすっかり忘れていた。
    「そんお人はじゃな、えー……」
     更に忘れていた。

     果たして和泉に「外国」の概念は…… 多分、まだ、ないんじゃないかなあ?

     ――保護者・陸奥守吉行、詰みである。



    「ほう?」
     誉を取って意気揚々凱旋帰宅のお兄ちゃんこと和泉守に相談したら、何やら微笑ましいと嬉しいと擽ったいと悪戯心を混ぜて溶かしたような表情が返ってきた。
    「ご存知の通りオレは夢も希望もないつまんねぇ男だが、雪はそういうの、喜ぶかも知れねえよな」
     やっぱりこのお兄ちゃん、自分のこととなると少しぞんざいが過ぎるきらいがある。まあそれはちょっと置いといてだ。
    「そう思うかの?」
    「おう。本丸の誰かからなんか貰えるってことがあいつにとってそりゃあ嬉しくて幸せなことなのは解るだろ?」
     もちろん、と頷けば和泉守は楽しげに微笑む。
    「贈り物し合うって話してる連中もいるからそれはそれで楽しむだろうし、寝てる間に魔法みたいにプレゼントが届くなんて経験どころか想像もしてねえよなあ。サンタを信じてる連中と一緒に大喜びするんじゃねえか?」
     和泉守のお墨付きとなれば決まったも同然だ。
    「おし、ほいたら夢のある方でえいな?」
    「おう、オレも一口乗らせてくれよ」
     さて、何を贈ろうか、の相談と並行して、真っ赤なモコモコのお爺さんについての説明はこんのすけとくろのすけを巻き込んで行われた。

     可愛くて楽しい場面に居合わせられなかったと知った主がちょっと拗ねたのは申し訳なかったが。



     そうして二週間ほどが過ぎ、いよいよ本日二十四日、クリスマスイブ当日だ。
     本丸のあちこちから夜の宴会を待ち望む声と、夜中のイベントへのソワソワした空気が漂っている。こんな日に悪い報せは一切お断り、と完全休日になっているから帰りを心配する誰かもいない。

     腕に縒りを掛けて奮闘している厨当番と、買い出しに忙しい付喪神達の中で、和泉は「どのケーキが食べたいか聞き取りをする」という大事な任務を任され、くろのすけとの慣れた二人組で彼方此方の部屋を訪ねて回っている。
     と言うのも、クリスマスの話題に興味を示す者が出た時点で早々に、全員分同じじゃ絶対好みの差や飽きが出るし、色々あった方が楽しいと思うと言い切ったのが他でもない主だったのだ。厨当番と買い出し当番にとっては若干不運だったが、主の意見となれば無碍にもできまい、現世の催し物に一番詳しいのは主だものね、と頑張っているのである。
     そんなわけで任命された調査任務、和泉に問われれば適当な返事をする者はいないからこれ以上ない適役、と味見部隊隊長の特別任務は順調に進んでいるようだ。

     どこへ顔を出しても歓迎されるし楽しい空気に和泉もご機嫌で、途中大倶利伽羅のところでは休憩代わりに寄って行け、と労われ、小烏丸には褒美の菓子を貰い、鶯丸からは「今日のための茶だそうだ」と紅茶を振る舞われ、と元気に「あいぼう」と一緒に任務を完遂した。

     お陰でパーティの主役級メニューであるケーキは無事に行き渡り、案の定「そっちは甘過ぎる」「ホイップよりバタークリームが好み」「酒入ってるのもあるぞ」等々、好みが外れて困ることも、争奪戦が起きることもなかった。
     主すごい……! と上座を見る目がイルミネーションばりに輝き、厨&買い出し部隊が大いに感謝され報われたのは余談である。



     そしていよいよ更けていく夜の大舞台の一発本番。
     今宵こそはの早寝と今宵こそが決戦の隠密部隊が動き出し、無事、サンタクロース役の保護者部隊が床に就く頃には、沢山の贈り物と、一年に一夜限り、不思議な訪いへの感謝の手紙がそれぞれの枕元で朝を待つことになった。



     翌朝。
     主からのサプライズプレゼントだった雪の景趣が連れてきた銀世界に歓声が上がり、あちこちから嬉しそうな声が上がる中、和泉の部屋にも沢山のプレゼントが届いていた。

     大事な大事な可愛い弟の嬉しそうな声で目覚める朝が特別であることに、和泉守が「サンタだけは信じても良い気がする」とそれは甘い口付けをくれたので、陸奥守もあの優しげな風貌のお爺さんに感謝した。

     来年も再来年も、是非ともこの本丸に彼が訪れてくれるようにと。


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