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    yotou_ga

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    ジュナカル。晴れの日と雨の日とカルナさん。転生現パロ。

    麦秋至 カルナは晴天が好きだ。
     晴れた休日の朝はベランダに出る。そっと目を閉じ、瞼の裏に父の輝きと熱さを感じる。深く息を吸えば温められた初夏の空気が肺を充たす。二階の高さから、風にそよぐ木々の囁きを聞く。
     今世では普通の大学生として生きるカルナには、勿論、人間としての父親が居る。彼のことも現世の父として尊敬している一方、この魂の最初の父親、天空に浮かぶ太陽神のことも、今も深く敬っていた。
     チチチと鳥の声が耳に届く。頬に浴びる痛いほどの日の光。微かに感じるアカシヤの香り。薄らと目を開くと、差し込んだ陽光が眩しくて、ぱちぱちと瞬いた。大地を遍く見渡すスーリヤの威光が、今の世でもまた自分と共にあることを感じ、思わず口元に笑みが浮かんだ。
     カルナには過去の記憶がある。子供の頃の、という意味では無く、そのずっと前。前世と、そこでの生を終えてなお、英霊として生きた記憶。人理を見上げる天文台で、世界を守るために、マスターと、他の英霊と共に戦った記憶。そんな記憶の全てを保持したまま、何故かカルナは、この現代に生を受けていた。
     どうしてこうなったのかは分からない。カルナの魂は英霊の座に刻まれ、サンサーラの輪から外れた筈だ。しかし今再び、この魂はただの人間として、人の胎から生まれてきた。
     六歳で全ての記憶を思い出したとき、カルナは首を傾げはしたが、まあそういうこともあるのかとあっさり受け入れた。生まれたのならどうあれ、生きるだけだ。父に恥じぬように、己が納得できるように。
     そうして今にちまで生きてきた。昨年の春からは大学に通っており、それに伴って一人暮らしも始めた。夜はバイトをしている。稼いだ金で鉢を少しずつ増やしており、ワンルームの室内とベランダはだんだん植物で賑やかになってきた。ほどほどに忙しく、それなりに充実した、申し分のない日々だった。
     ただ一点を除いては。
     欠落が。居るべき者が居ないという現状が、カルナの中に決して小さくはない不満を抱かせていた。
     別に、サーヴァントとして現界したときに、いつも必ずあの男が居たわけではないのだろう。しかし今、カルナの中に残っている英霊としての記憶は、カルデアで過ごしたあの時間のみだ。あの数年。かつての生では敵同士だった異父弟と、共に戦う仲間として背を預け合ったあの幾ばくか。されど、魂に刻まれたまま、座に還っても失われることのなかった、喜びに満ちた記憶。遙かな過去から、恒河の砂の如き時を経て、漸く手の温度を知った、カルナの唯一。弟と呼ぶには近すぎて、恋人と名付けるのはいささか照れくさい。目を瞑ればいつでも姿が思い浮かぶ。声が聞こえる。匂いを覚えている。
     ベランダの欄干をなぞって、小さく溜息を吐いた。自分がこの世界に生きているのだから、アルジュナもきっと何処かには居るのだろう。幼い頃からそう思ってきたが、未だあの男には出会えぬままだ。いつ会えるのか。期待する気持ちに、年々諦観が混ざってきている。
     自分だけが呼び出されたこともあった。あの男だけが呼ばれた戦いもあったのだろう。だから今回も、居るとは限らない。居ないのなら仕方が無いが、けれど不満を抱くのもまた当然だった。
    「スーリヤよ」
     あの男はこの世界に居るのだろうか。心の内で、天に座す父に問うた。応えはない。



     カルナには、もうひとつ好きな天気がある。
     朝は晴れていた空に、昼前から雲がかかり始め、三時を過ぎた頃には重い曇天となった。じっとりと空気が水を含んで重たくなる。カルナはベッドに腰掛けて本を読んでいたが、ふと天井の照明がチラついた。
     顔を上げると同時、窓の外で轟音が響いた。
    「雷か……」
     本に栞を挟んで立ち上がった。サンダルを履いてベランダに出る。再び雷光が雲の中を這うのが見え、ゴロゴロという音が町の空を覆った。
     カルナの瞳が紫電を見上げる。パリッ、と暗雲に走る光を、目を細めて。ベランダの植物たちは、自然のもたらす恐ろしい音に怯えるように縮こまっていた。烏が鳴き交わし、雨をしのぐ場所を求めて飛んでいく。
     やがて最初の一滴が、欄干を握るカルナの手の甲に落ちた。
     雷霆はアルジュナの父、延いてはアルジュナに属するものだ。故に、カルナは好ましく思う。
     すぐに本降りになった。ざあざあと、雨粒がコンクリートや屋根を叩く音が、世界を包み込んでいく。その世界の片隅、ワンルームのベランダに立つカルナは、空を見上げたままに目を閉じた。
     雨が額を、頬を、首筋を伝う。生ぬるい滴がカルナの輪郭をなぞる。目尻を通り、顎の下で密やかに、音も無くまろび合う。
     その向こうに彼の指を思い浮かべる。弓引く者の力強い指が、穏やかに自分に触れてくる、あの瞬間。確かめ合う接触。全身を濡らす雨の温度で、あの男の体温を思い出す。
     透明な玉が、カルナの色の薄い唇を滑る。流れていく。服の下にまで染み込んで、カルナに触れる。欄干を叩いて、不思議な音色をカルナの耳に届ける。沸き立つ土の匂い。初夏の午後が、現実から切り離され記憶に結びつく。
     潸々と降る五月雨の隙間に、カルナがほっと息を漏らす。髪も睫毛もびしょ濡れて、ひたりと肌に貼り付いていた。少し眩む。雨は心地良いが、長く浴びているのは良くない。体温は下がるし、心拍は上がる。
     夢路から目覚めるように、カルナは瞼を開いた。雨粒が鼻梁を叩く。シャワーを浴びるべく、室内へ引き返そうとして。
    「あの」
     欄干の向こう、下の方から掛かった声に、サンダルが足音を立てるのを止めた。
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