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    yotou_ga

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    マフィアパロなジュナカル。モブめっちゃ死ぬ。

    コアントローをひとさじ そもそもが、土台おかしな話だったのだ。組織は長男が継ぐべきだった。彼が賭博でヘマをしていなければ、実際そうなっていただろう。次男は上に立つ男ではないのは確かだが、それでも三男とどちらがマシかと言われれば悩ましい。三男は、上に立つことができてしまう人間だった。彼自身の心を欺し切ったまま、全てを取り繕ったままで。
     だからこんなことになっている。
     廊下の角から身を乗り出して引き金を引いた。銃口から放たれた弾が肉を引き裂き、骨を砕き、命を殺していく。昨日まで仲間だった男たちの冥福を祈りながら、それでもカルナは一切躊躇わなかった。
     両手に銃を携え、通路を行く。過越の夜のようだ。いや、あれは初子を打つのだったか。それにカルナは、血に塗れたドアの向こう側に隠れていた人間をも見逃しはしなかった。誰一人逃がしてはならない。
     叫び声が聞こえる。何が起こった、ボスがおかしくなった、カルナがこっちに来ている、殺せ、殺せ、殺せ! ドタドタと足音。迂闊に飛び出てきた男は額を撃ち抜かれて頭が弾け飛んだ。白い壁に血と脳漿が跳ねる。.45ACPの空薬莢が床に散らばる。慣れていることとはいえ、酷い臭いで、鼻がおかしくなりそうだ。
     たったふたりで、屋敷の全員を殺すなど、正気の沙汰ではなかった。けれど成し遂げられる確信がカルナにはあった。アルジュナが決めたなら、自分は幾らでも彼の矛となる。決断の障害となるものを、カルナは破壊するだけだ。
     一階がカルナの狩り場だ。玄関から進み、二階にあるボスの部屋へと向かう。向かってきた者を殺し、アルジュナから逃げてきた者を殺すのが役目だった。
     腕を銃弾が掠る。飛び散った血が顔に降りかかる。緋色がカルナの白皙を汚す。しかし何者も、カルナの歩みを止められる者は居ない。革靴が立てる死神の足音は途轍もなく恐ろしく、自ら命を絶つ者すらもあった。
     絶叫も断末魔も、銃声も、夜を騒がせていた全ては、やがて花が萎むように消えていった。呼吸をひとつひとつ、丁寧に摘み取り、遂に全てを殺し尽くしたカルナは、二階へと続く階段を登る。通路にも死体は転がっていたが、ボスの部屋の前が一番酷かった。開いたドアの手前に、手足が吹き飛んだ幾つもの死体が折り重なっている。滴っては広がっていく血溜まりがカルナの爪先を汚した。
    「終わったぞ」
     死体の山を乱雑に退かし、カルナは部屋の中へ声を掛けた。中にも死体がある。すぐに返答があった。
    「ええ、お疲れ様です」
     アルジュナは、部屋の一番奥にある執務椅子に背を預けて、片手で額を覆っていた。頑丈な机は、アルジュナが盾に使った所為で銃痕だらけだ。あちこちがえぐれ、ささくれ立っている。カルナが近付くと、アルジュナはゆるゆると首を横に振った。
    「すみません」
    「何を謝る」
     カルナは首を傾げた。アルジュナの黒い瞳が、指の隙間から彼を見る。
    「いえ……、いえ」
     何か言いかけて唇を噛んだ。カルナはぱちぱちと瞬くと、銃を片方、ホルスターに仕舞いながら、アルジュナの椅子へと近付く。
     アルジュナの椅子。彼の役割、役目、責任、嫌悪。顔を覆っていた手を掴み、カルナはアルジュナをそこから立ち上がらせた。
    「オレを道連れにすることを躊躇するな。オレは望んでお前の隣に立つ」
    「……ええ、そうですね。お前はこの先いつだって、私の隣に立つのでしょう」
     アルジュナが立ち続ける限りは、とは、どちらも言わなかった。そんなものは自明だからだ。
     立ち上がったアルジュナをカルナは抱き留めた。アルジュナは右手に小銃をぶら下げたまま、カルナの襟元に鼻を埋め、硝煙と血の臭いの向こう側にある彼の匂いを嗅いだ。
    「怪我をしていますね」
    「大したことはない。舐めれば治る。お前の方こそ」
    「それこそ、舐めておけば治りますよ。でも舐めている時間もありませんから、これで」
     アルジュナが顔を上げて、カルナの顎に指を添えた。カルナがすっと目を細める。黒手袋を填めた左手が、アルジュナの背中を引き寄せる。
     最初の接触は躊躇うように。けれど一度確かめたあとは、もう我慢などできなかった。
     舌を絡め、吐息を奪い合う。硝煙と血の臭いの中で。死体が二度と動かない眼球で見詰める前で。血塗れの床に曖昧なステップを踏みながら、唇を貪り合った。
    「これはエゴだと、分かっているんです」
    「知っている、そんなことは」
     口付けの合間に、吐息でできた会話を交わす。お互い右手には武器を携えたまま。アルジュナは銃のことも嫌っていたが、結局、彼が自分の人生を真に選び取るために必要だったものも、また銃だった。
     人の人生を食い物にすることが、アルジュナに与えられた役割だった。本来なら長男が継ぐべき立場だ。そうじゃなくても次男が。けれどお鉢が回ってきたのはアルジュナで、結果、彼は似合わない椅子に座ることを求められた。唯一の幸運は、カルナを傍に置けたことだ。彼は先代ボスの右腕だったから、この立場に収まらなければ、彼を手に入れることはできなかった。
     ずっと、アルジュナは役目を演じてきた。部下の誰も、アルジュナが心底、この組織を憎んでいるなど知りもしなかっただろう。完璧な笑顔の裏を見抜いたのはカルナだけだった。そしてカルナが居たから、アルジュナは遂に椅子を蹴る決意を固めたのだ。
     人身売買も、麻薬も、抗争も。きっとアルジュナが潰しても、そこにまた別の蠅が集ることは分かりきっていたけれども。それでも、どうしたって、嫌だったのだ。
    「お前の決断を全て肯定するわけではない。だがそれでも、オレはお前と共に居る」
     カルナが口の端に笑みを乗せるから。アルジュナも、苦みを目尻に湛えたままで、そっと笑い返した。
     血みどろの部屋で、血塗れの姿で。唾液を啜り、背を撫でる。絡まる舌先を離すのが惜しかった。だがそうも言っていられない。夜は長いが、すぐに誰かがこの惨状に気付く筈だ。
    「行きましょう、カルナ」
    「ああ、行こう」
     アルジュナがカルナの手を取り、カルナは彼に従って部屋を出る。死体たちの恨みがましい視線を越えながら。正面のドアを開け放ち、夜闇の中に、ふたりは身を躍らせた。
     地獄の鐘の音が聞こえた。まるで祝福のそれだった。

    END
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