Lip,Summer,Ripple真っ白い壁と煌々としたライト、上品な香りが混ざり合う空間。平日の真昼間だというのに、百貨店の一階にあるコスメフロアは大学生くらいの若い子から上品なマダムまで、幅広い年層で賑わっていた。デートの依頼で訪れたことは何度かあるものの、さすがに男一人で飛び込む勇気は今のところまだない。
――じゃあ、男二人だったら?
「ねぇ、この色とさっきの色、どっちがいいと思う?」
『夏らしいリップが欲しい』。それが今回、真央が提示した“恋人代行”の報酬だった。先月、少しばかり厄介な女の子が多かったこともあって、最初に強請られたナイトクリームだけでは見合わず、こうして追加報酬を出す羽目になってしまった。そんな真央はいつもよりも上機嫌で、表情豊かにビューティーアドバイザーのスタッフと話に花を咲かせている。
4251