Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    82on82_asc

    腐女/25↑/字書き/brmy:恋真・逢由/rnst:タキユー

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    82on82_asc

    ☆quiet follow

    恋人代行業務の報酬を買いに行く二人と、その後の話。
    両片思い、恋人未満の二人の話になります。

    #brmy腐
    #恋真

    Lip,Summer,Ripple真っ白い壁と煌々としたライト、上品な香りが混ざり合う空間。平日の真昼間だというのに、百貨店の一階にあるコスメフロアは大学生くらいの若い子から上品なマダムまで、幅広い年層で賑わっていた。デートの依頼で訪れたことは何度かあるものの、さすがに男一人で飛び込む勇気は今のところまだない。
    ――じゃあ、男二人だったら?
    「ねぇ、この色とさっきの色、どっちがいいと思う?」
    『夏らしいリップが欲しい』。それが今回、真央が提示した“恋人代行”の報酬だった。先月、少しばかり厄介な女の子が多かったこともあって、最初に強請られたナイトクリームだけでは見合わず、こうして追加報酬を出す羽目になってしまった。そんな真央はいつもよりも上機嫌で、表情豊かにビューティーアドバイザーのスタッフと話に花を咲かせている。
    いつもよりもやや浮かれている真央を可愛いなと思う。俺の日頃の行いが悪いというのもあるけど、ここまで屈託のない笑顔を久々に見る事ができたから、一緒に買い物に来たのは正解だったかもしれない。
    元々、付き添うつもりなんてなかったのに真央が急に言ったんだ。『報酬をちゃんと僕が受け取ったのか、気にならないの?』って。品の無い話だが、前までは事前に聞かされていた金額を、現金で茶封筒に入れて渡していた。この時代には少々アナログすぎるが、手っ取り早い方法だったから。それなのに今更、真央からは、人を信用しすぎ、という回答が返ってきた。『僕がそれを少し安値で手に入れて、残ったお金をポケットマネーにしていたらどうするの?』って。そんなことを一番やらなそうな奴に大真面目に問われた時は、腹を抱えて大笑いしてしまいそうだったけど、純粋に心配してくれているのがなんだか嬉しくなってしまった。
    今も思い出しては笑ってしまいそうになるのを必死で堪える。そんな俺を真央は隣で怪訝そうに見つめていたが、スタッフから話しかけられると、またにこやかに愛想よい笑顔を返していた。
    「それで、恋。どっちの色がいいと思う?」
    「あー、そうね。俺は……、こっちかな」
    以前寮のみをしていた時に酔っ払ったミカさんが言っていた。『青みがかったピンクは人を選ぶけど、真央はよく似合うの』と。それはもうべろべろに酔っ払いながら。俺は指をさしながら、真央が左手に持っていた方のリップを選んだ。真央に似合いそうな色、というのが一番の理由だけども、夏っぽく透明感もあるのに繊細なラメが入っているから綺麗めなファッションにも合わせやすい、と、先程聞き流していた接客トークを思い出して、やっぱりこっちがいいなと思った。仕事上、真央はきちんと感のあるファッションに身を包むことも多いから、このリップの出番も必然的に多くなるだろう。その唇に色を乗せるたびに、俺のことを思い出せばいいのに、と念を込めて。
    「……じゃあ、こっちで」
    答えた俺の顔と手元のリップを交互に見た後、真央は先程よりも落ち着いた様子でスタッフに告げる。在庫を探しているスタッフを待つ間、真央は不思議そうに俺の方に視線を向けた。
    「まさか、どっちか選んでくれると思わなかった」
    「なんで? お前が選べって言ったんじゃん」
    「だって、話聞いてない感じだったし」
    「まぁ、確かに全部は聞いてなかったけど」
    俺が真央にそう返したところでスタッフが商品を持って俺達の元へ戻ってきたから、二人揃ってよそ行きの笑顔を貼り付ける。結局、真央が何を言いたかったのか分からないまま会計を済ませ、そのまま店の外へ出ると、張り付くようなじめっとした湿度に夏がそこまでやってきていると改めて感じた。あの茹だるような暑さを思い出すとうんざりしてしまうが、火花のように賑やかに弾けるサマーレジャーには心が踊る。
    (……真央はそういうの苦手なんだよな)
    自分の身を守るための術はあっても、あの華奢な身体は人波に流されやすい。プライベートビーチくらい静かな浜辺のパラソルの下で、ただただのんびりするならまだしも、シーズン真っ盛りの海に飛び込むなんてありえないと一蹴されそうた。今でさえ、俺の後ろで半分くらい身を隠しながら、人混みを縫って歩いている。それも役得だけども。
    たいした会話もせずに最寄り駅に着いて、ずっと俺が持ったままだったショップバッグを真央へ渡す。渡す瞬間に光る、白地に控えめに箔押しされたシルバーのロゴが涼しげに感じた。
    「今日は、ありがと」
    「ん。どういたしまして」
    お礼を言い合った後の沈黙に、デートみたいな名残惜しさを感じて戸惑う。目の前の真央も、視線を彷徨わせている辺り、そう感じているのかもしれない。でも、俺達は恋人じゃない。友達……でもないか。それなのに別れ際がこんなに寂しいだなんて、本当にどうかしている。
    「じゃあ、お疲れ」
    こんな時、先に踏ん切りをつけるのはいつも真央だ。真央が選ぶ方はいつも正解で、この場合、いつまでも未練がましく待っている俺の方がかっこ悪いヤツだろう。
    「じゃ、気を付けて。家着いたら連絡して」
    「……恋の客と一緒にしないでくれる?」
    「そりゃそうだけど、それでも連絡して」
    『お願い』と、普段客に見せる顔と同じように甘えた声で言えば、真央は小さく「はいはい」と呟いてから、後ろ手に手を振りながら帰って行く。真央は振り返りはしない。真央の背中がホームへ続く階段の門を曲がるまで見送ると、俺も帰路についた。

    後日、カフェ勤務を終え、帰宅しようとテナントビルのエレベーターで一階に降りた俺に、見知らぬ女の子が声を掛けてきた。多分、というか確実に、出待ちでもしていたんだろう。
    「あのっ、すみませ……、」
    またこのパターン。しかも今回は代行業務の依頼人というわけではなく、関わったことがあるのかも分からない、かなりグレーな感じ。この時期特有の湿度と同じ、陰湿そうな相手に内心うんざりした。でも、そんな相手でもいつかは客になるかもしれない。まぁ、審査次第だが。とにかく、特技であるビジネススマイルを急いで作り上げて対応しようかと思ったその時。
    「ごめん、恋。お待たせ」
    一度上に向かっていったエレベーターの扉が軽快な音とともに開き、不意に聞き馴染みのある声が俺を呼ぶ。俺も出待ちの子も驚いてその声の方を向くと、エレベーターから降りてきたのは、約束なんてしていないはずの真央だった。
    (……というか、そのリップって)
    ブラックの細身のダメージデニムに、同色のハイネックTシャツ、その上に真っ白なオーバーサイズのシャツを羽織ったモノトーンコーデの中に、パッと映える青みがかったピンクのリップ。その色は間違いなく、先日、一緒に買い物に出掛けた時に俺が選んだ色で。
    真央はいつもと同じ落ち着いた足取りで俺へと歩み寄り、いつもそうしているかのようにするっと俺の腕に自分の腕を絡めてみせると、出待ちの子に視線を向ける。
    「恋の友達?」
    「あーいや、違う……かな」
    「ふーん、そうなんだ」
    そう言った真央の声が想像よりも冷たかったのか、出待ちの子は顔を引き攣らせながら逃げるように去っていった。完全にその姿が見えなくなったのを確認してから、何の未練も残さずに、真央はさらっと絡めていた腕を離した。
    「どうして? ……って顔してる」
    「いや、本当に。約束なんてしてなかったのに、どうして?」
    俺がそう問うと、真央は呆れたように溜息をついてから言葉を続けた。
    「あの子、今日ランチに来てた子でさ。テーブルはゆらが担当してたんだけど、ずっと視線は恋に向けられてて」
    機嫌が良さげだった揺の接客に対して上の空、ってのが真央の一番の気に入らぬポイントっぽいが、友人と二人で来ていたという出待ちの彼女は、カフェ滞在中から『俺の名前』や『年齢』、『恋人の有無』までそわそわと気にしていたらしい。随分と熱烈だな、なんて緩い頭で“彼女から俺に向けられた歪み気味の愛”に感心したものの、実際に行動に移されたら話は変わってくる。
    「……だから、ちょっと意地悪したくなったのかも」
    「え?」
    俺に届くかも微妙な声で真央がぼそっと呟いた。それは思ってもいなかった言葉で思わず聞き返せば、真央は透き通るほど白い頬をわずかに赤く染める。
    「“イエロー”でも“出禁”でもない、ただのカフェを利用したお客様にこんなことするべきじゃなかったって今になって思うけど、見せつけてやりたかった……のかな」
    真央が話すたびに唇を飾るリップのラメがキラキラと瞬く。そのたびに、心の中を侵していた湿っぽさが徐々に晴れていく気がした。
    「でも、ほんとに助かった。ありがと。……あ、追加報酬はどうする?」
    礼を告げた後で、今月分の“恋人代行”の回数がもう上限に達していたことに気付き、ついいつもと同じように訊ねると、真央は心底不思議そうな顔をした。
    「え、なあに? その顔」
    「いや……。今回は、いい」
    「いいって……。でも、真央の手を煩わせちゃったし」
    妙に遠慮する真央にこちらも引かずにそう告げると、真央はまた頬を赤く染めながら薄く唇を拓いた。
    「……今回はサービスだから」
    「は? え、どういうこと?」
    サービス? あの真央が?
    頭の中でぐるぐると疑問符が浮かび上がる俺をよそに、真央はとうとうふいっと顔を逸らして、俺に背を向ける。照れ隠しだというのが隠し切れていないところがまた可愛い。突発的にその背中を抱き締めなかっだけでも偉いと思う。
    「……このリップの色が好みだったから」
    一瞬だけ二人の間に沈黙が流れたものの、それを切ったのは真央だった。――『リップの色が好みだったから』。束の間の気まぐれみたいなそんな理由に、ぶわりと俺の体温も上がる。疑似とはいえ恋人の俺が選んだ色のリップ。それを塗って、出待ちの女の子に見せつけてやろうだなんて……。
    あからさまな嫉妬と独占欲。数多の女の子達から幾度となく向けられ飽き飽きしてきた俺が、たった一人、ましてや同性から向けられたソレを嬉しいだなんて思う日がくるとは。
    まるで陽に光る波紋のように堪えていたものが波打ち、零れ落ちる。
    「ちょっ……、なっ、んんっ……!」
    背を向けていた真央の肩を押してこちらに向き直させると、意表を突かれ、薄く開かれていた唇をやや強引に奪う。角度を変え、重ね合わせながら、あれだけ艶っぽく見えていた先日贈ったリップは、思いのほかベタつきも少なく、この夏にはぴったりだと思った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘🙏🙏😭🙏✨👏👏👏💞💘💘💘💘💘💘💘👏💕❤❤❤❤❤😭😭😭😭😭😭😭💴💴😭💴💴💕💞💄🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works