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    赤い糸を結ばないと死ぬマナマナの話

    9/12イントロのみ

    #とうひゅ
    #橙ひゅ

    狼は愛の夢を見るか 運命の赤い糸というのは、言わば呪いだ。
     幼い頃教えられた伝承は、「運命の人とずっと一緒に居られる」なんて可愛らしい御伽噺だった。でも成長するにつれ、マナマナの血を絶やさないよう子孫繁栄の為に作られた厄介な掟であることが、ありありと分かる。
     ひとつ、一定の年齢に達したマナマナは、赤い糸を結ぶ相手を選べる。合意が得られて始めて、成立となる。
     ひとつ、赤い糸を結んだ相手は一生添い遂げるパートナーとなり、他者へ好意が移らない。
     ひとつ、赤い糸を一度結んでしまうと原則解消することが出来ない。解消する場合、相応の代償を負う。
     ひとつ、適齢期を迎えても尚誰とも結べていないマナマナは、寿命が減っていく。
     ――これが呪いと言わずして、何と言うのか。プリマジが盛んになった影響か、恋愛よりもプリマジを見ている方がいい、なんてマナマナも出始めた昨今には到底合わない風習だ。それでも、この呪いが消えてなくなるわけじゃなかった。

    「(これを作った人は、よっぽどお気楽な恋愛をしてたんだろうね)」

     例えば、好きな人に別の好きな人が居たら。その人のことを諦められなかったら。寿命をただ削って孤独に死んでいくだけだ。
     ――まさにひゅーいが、そうであるように。



     
    「……もう一度言ってくれる?」
     
     よく通るはずの橙真の声が、上手く頭に入って来ない。プリマジをした後の身体は、いつだって風邪をひいたような倦怠感に襲われる。本来イリュージョンをしつつ歌い踊ることは想定さえていないからだろう。だからこそ早く座りたいのに、楽屋に入った途端呼び止めた橙真の顔がいつも以上にマジだったから、残り少しの体力で何とか聞き返すことが出来た。

    「その指の糸、俺と結んでくれ」

     さっきよりもはっきりとした声だった。しかもひゅーいがはぐらかさないよう、わざわざ薬指から赤い糸が伸びる左腕を掴んで。息が詰まるひゅーいを笑うように、宛先の見えない赤い糸は宙を伸びやかに揺蕩っていた。
     確かに、ここ数日橙真の様子は可笑しかった。まさか、この糸が見えているだなんて。ひゅーいは橙真に気付かれないよう奥歯を嚙み締めてから、誤魔化すようにあっけらかんと笑った。
     
    「あ~、橙真にも見えちゃってるんだ? 別にゴミとかじゃないから。あんまり気にしないで」
    「赤い糸、誰かと結ばなきゃいけないんだろ」
    「……誰かから聞いたの?」
    「みゃむが教えてくれた」

     取り繕うように笑っていた顔が、気まずいそれに変わる。みゃむが余計なこと――もとい、真実ではあるのだが――を言ったせいで、橙真は正義感に見舞われてしまっているのだろう。
     本来、チュッピはマナマナの持つこの呪いは見えないはずだった。ただ最近、プリマジスタであればチュッピでもこの糸が見えてしまうことが、まつりやみるきに聞いて判明した。とはいえ誰に聞いてもタイミングがバラバラで、人によって見えない可能性もあったが、どうやらマナマナと過ごす時間が長ければ誰でも見えてしまうのだろう。現に、橙真も恐らく数日前から見え始めてしまったに違いなかった。

    「(はあ、どう言い訳しよう)」
     
     真面目で愚直な橙真が、この伝承を聞いて黙っているわけがなかった。それでも、ずっと見えなければいいのに、なんて淡い期待を抱き続けていたのは確かだ。問題を先送りにした結果、ひゅーい自身がこの状況を作ってしまったと言っても過言ではなかった。
     
    「橙真には関係無いよ。お見合いとか、マッチングアプリ的な? 面倒なシステムがあるんだよ、マナマナにはさ」
    「それも聞いたよ。寿命が縮むって……あんたが最近体調悪そうなのも、それが原因じゃないのか?」
    「……みゃむってば、そんなことまで話したんだ」
    「みゃむもまつりがパートナーになったって聞いた」
    「……それは……」
    「だから、あんたが俺でいいなら、パートナーになる」

     聞きたくない、それでも一番欲しい言葉が投げられて、唇が引き攣る。どんな顔をすればいいのか分からなくて、無理矢理腕を振り払った。きっと、橙真のことを拒絶したように見えただろう。でも、それでいい。
     
    「(俺がいいならって……。むしろ、俺は橙真だけがいいのに)」

     橙真はきっと、この呪いが齎す影響を知らないのだ。いわば狼が番を作るのと一緒で、結んでしまえば他の人と人生を共にすることは出来ない。その重さを理解しないまま、目先の弱っている友達を助けたいだけだ。

    「やさしいね、橙真は」
    「そういうんじゃない……むしろ、いいのか? ひゅーいは、俺で」
    「……うん」

     ひゅーいの返答に、橙真は安心したように胸を撫で下ろしていた。慌てたように手を洗いにいった姿を横目に見ながら、ひゅーいはこっそりとマナマナ、と呟く。何もない空間から、指についてる糸と瓜二つのそれが現れて、ひゅーいの手に収まった。

    「(ごめん、橙真)」

     橙真が、こんなところまで堕ちる必要なんて無い。ひゅーいという鎖で人生を縛ってしまうぐらいなら、一人孤独に死んだ方がマシだ。
     もう一度マナマナと呟いて一時的に本来の糸を見えなくさせると、一見何も無くなった薬指に新しく出した糸を巻き付けた。異物感が拭えないそれはマナマナが触れば偽物だと気付くだろう。でも、チュッピである橙真に分かりっこない。
     それでいい。もし誰とも結んでいないことがバレたら、今度こそ相手を探せばいいだけの話だ。

    「ごめんひゅーい、とりあえず手は洗ってみたけど、他に何か……」
    「あっはは、別にそんなこと必要ないよ。ほら」
    「わっ……」

     作り出した赤い糸は、しゅるしゅると器用に橙真の薬指に巻き付く。ひゅーいと橙真の間が一本で繋がって、暫くすると繋ぎ目は空間に溶けていった。
     実際に本物が結びつくとどうなるか見たことはないが、文献によると相手同士が近くに居ないと繋がっているところは見えないらしい。その場しのぎにしては、割と本物っぽく作れたな、とひゅーいは安堵した。

    「これで俺達、パートナーだな」
    「……うん」

     嬉しそうに笑う橙真に、歯切れの悪い返事をする。胸が痛まないかと言えば、嘘になる。それでも、これは橙真のためだから。そう言い聞かせる度に、ひゅーいの中の毒林檎が少しずつ身体を蝕んでいくようだった。
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