溢れる愛を、いつかキミへ滝を登りきり、飛び上がった先で彼は弓を構える。それを水面から見ていたオレは一瞬で魅了された。
なんて、なんて綺麗な色なのだろうか。と。
その日からオレが見る世界は一変した。何が、と問われても説明出来ないような景色が瞳に映り始めたのだ。同時に、オレの気持ちにとある変化が訪れていた。
それは決まって彼が里にやって来る時で──
(…あれは、あの、色は)
遠くで太陽に照らされ黄金色に輝く彼の髪が風に靡いた。靴が石に当たる音は軽やかで、合わせて鳴る金属音が何とも心地良い。彼のおかげでルッタの暴走は止み一時の安寧を取り戻した。
だがリンク本人はまだ安心している暇など無かった。
「…リンク、いつもすまないな」
「え?何が?」
「今日も魔物を倒して来たのだろう?」
彼はあまり喜怒哀楽が顔に出ない。そのせいで苦労する相手を倒して来た時でも、表情が変わる事は殆ど無い。加えて、
「当たり。でもこれくらい日常茶飯事だし、俺にとっては普通の事だからさ。シドは気にしなくていいよ」
と、不意に笑うもんだから。
どくり、とオレの心臓が一層強く鳴り響いた。
(また、だ。リンクの笑顔を引き金に鼓動がうるさく、そして速くなる…)
でもその煩わしさが、痛みが、逆に心地よくて。その笑顔をもっと見ていたくて。長いまつ毛と隙間から見える瞳を凝視した。
「…ド、シド。そんなに近寄られたら、なんだか小っ恥ずかしいんだけど」
「…!す、すまない!!」
いつの間にか彼に吸い込まれそうな程近づいていたらしく、目の前で気まずそうにそっぽを向いたリンクから慌てて距離を取った。だがすぐにリンクは大丈夫だよ、と言ってくすくすと笑いだす。
そんな仕草一つでさえも、オレの目には輝いて見えた。
「シドがぼーっとしてるの新鮮だったし、面白かったよ。ふふっ」
まるで大きな水槽に一滴、自分の知らない色が落ちてきたような驚きと、高揚感。
──この気持ちは一体何なのだろう。
「っ──リンクッ」
……何故この言葉が出てきたのか分からない。でも、今の己の心情を表現するのに相応しい、と直感が言っていた。
「オレは、キミの事を──」
──愛してる。
だが言葉は寸前で喉に引っかかり、止まった。自分の思考に自問自答してようやく、事の重要さに気付く。
(今、オレは、何を言おうとしていた…?)
「……シド?大丈夫?」
「っ……!」
心配そうに顔を覗くリンクの顔を、オレは初めて凝視出来なくなった。視界に映る度に知らない色が飛び出る感覚が訪れる。それに心臓が持たなくなりそうで、怖くなった。
「な、何でもないゾ!さ、先に部屋に行ってるからゆっくりしていってくれ!!」
「ちょ、シド!?」
とうとう耐えきれなくなったオレはその場から逃げるように立ち去った。リンクが何を言ったのかも聞けぬまま自室への道を進む。
(頬が、熱い)
火照った頬に手を触れる。
ぐちゃぐちゃになった感情とは裏腹に、脳裏に浮かぶ彼の顔を思い出し深いため息をついた。
(…愛してる)
愛してる、愛してる。
溢れる想いは声となりかけて、幾度も止まる。喉に魚の小骨が刺さるよりももっと痛く、でも不思議と心地よい痛み。
(これはきっと彼に出会わなければ、分からなかっただろうな…)
ようやく自覚した恋心に呆れるように笑ったオレは、リンクを迎え入れる為自室の扉を開けた。
──この愛がいつか、燦然と輝くキミに届きますように。