熟考の末俺にとっては大き過ぎるベッド。もう慣れた光景だ。靴を脱いで寝巻き姿となった俺は、大の字になって寝転がる。
今は一人しかいないこの空間で、俺は先程の出来事をぼんやりとした頭で思い出していた。
「…夢、じゃない…よな…」
最初彼から言われた時は何も考えられなかった。元々諦める筈だった物が急に目の前に現れて、俺がずっと欲しかった言葉を…シドは伝えてきた。
『好きだ、リンク』
「好き、かぁ……あ〜〜!!」
気恥ずかしさを飛ばすように枕に顔を埋める。変な熱が上がり、若干汗ばんでいるのが自分でも分かるくらい、俺の心は動揺していた。
「って事は、今日からシドは俺の……」
──恋人、になったのだ。
「っ〜〜〜!」
自分で想像しておきながらまた恥ずかしさに2度目の枕ダイブ。人がいたら絶対引かれるであろう言動をしながらも、俺自身は幸せに浸っていた。
勿論すぐ返事はした訳だが、問題はここからだった。なんせ自分には恋愛経験というものは無いに等しい。武道以外の事については初心者程度の知識しか無い。
(勿論手は繋ぐ…それからハグ、かな…?次に、き、キス…は、するのか!?)
経験が浅すぎて、まだ先の事であろうシドとのスキンシップを妄想し始める始末。こんな姿、絶対彼には見せられない。
(キスをして、それから──)
「リンク、待たせてすまない」
「ひぁ!!?」
自分の世界に浸っていたら、突然扉が開いてシドが入ってきた。思わず変な声が出てしまったが、それを聞いたシドは気にしないとでも言うように、優しく笑っていた。
「悲鳴まで可愛いな、キミは」
「かっ…!可愛くないから!」
いそいそと寝る準備を始めるシドに文句を言いつつ再び横になり目を閉じればかちゃり、と装飾を外す音が聞こえる。それが不思議と俺の心臓を刺激した。
(いや、こんなのいつもだろ…!変に緊張する必要ないじゃん!)
友人が親友になって、そこから諦めていた恋人へと変わった瞬間、シドの行動一つ一つに心臓が痛くなる程敏感になってしまったらしい。暫くしてすぐ隣でベッドが軋む音がした。慌てて距離を取れば、流石にシドも違和感に気づいたのかはぁ、と呆れたような声を出した、
「どうした?さっきから様子が変だゾ」
「……どうせ分かってるクセに」
緊張している顔を見られたくなくてそっぽを向き、加えて布団を頭まで被りながら反論する。昨日まで隣に並んで談笑してたのが幻と思える位、彼に近づけなくなっていた。
…けど、その距離をシドは容易く縮めてくる。視界が暗くなった、と思った時にはもう彼の顔は耳の傍にあった。
「リンク」
「……何」
「オレは、随分と浮かれているみたいだ」
「え…ひゃっ」
少し掠れた声色に反応した途端、シドは俺の髪に顔を埋めた。くすぐったさにまた情けない声が漏れる。
「今日から、恋人同士になったんだな」
「そう、だけど」
「こんな風に触れ合っても、いいんだな」
「…当たり前じゃん」
俺の手にそっとシドの手が重なる。今まで以上に近い距離とシドの声、体温、仕草全てが俺の心をもっと掻き乱した。
「…凄く、凄く嬉しい。キミから返事を貰えると思っていなかったから」
「そんなの俺だって…告白、されると思わなかったよ」
互いに臆病だな、とシドが困ったように笑う。振り向けばその顔は緊張を含んでいて。
(なんだ。シドも同じ気持ちだったんだ)
そう思ったら、さっきまでグダグダと悩んでいたのがなんだか馬鹿らしくなって。
「シド」
思い切って両手を広げた俺を見て驚く顔が視界いっぱいに映る。これから俺達は沢山の初めてを体験するんだろう。それで心臓が痛くなるなら本望じゃないか。
「今日はお前に抱きしめられて、寝たい」
「っ…本当にキミは…そういう所も、愛おしいが…な」
…まずは体温が混ざり合うくらいの抱擁から、始めようか。