忘羨ワンドロワンライ【朔月】「次の朔月は、夜明け前に冷泉で潔斎を行い卯の刻から冥室で朔月の楽の奉納を行うため、朝餉は思追が運んでくる」
静室での夕餉の後に藍忘機にそう言われ、魏無羨はキョトンと目を見開いた。
雲深不知処では年に二回、朔月に楽の奉納を行うことになっているらしい。本来は宗主が務める仕事だが、藍曦臣が閉関しているため藍忘機が行うのだろう。青蘅君が閉関中は長らく藍啓仁が務めてきたそうだ。雲深不知処には古くからの祭事が幾つも残っているが、潔斎まで行うものは珍しい。
「随分と厳格なんだな。朝餉くらい自分で取りに行けるぞ?」
魏無羨は数日前に結丹した。結丹の際に体に掛かった負荷は大きく、結丹したとは言えまだ回復は十分ではない。そのため、藍忘機は膳の準備から湯浴みまで甲斐甲斐しく世話をし、随分と魏無羨を甘やかしている。魏無羨が朝餉は自分で取りに行くというのに『だめ』と返して、藍忘機は言葉を続ける。
6143