一葉の書置き「尊主、これを」
王座に座る主に対し、灰蛇が恭しく差し出したものは、一枚の木の葉だった。枝先から生え出したばかりのような、若々しい春の緑色をしている。むろんケビンの目からすれば、それが灰蛇がそこらで拾ってきた植物の葉ではないことはひと目で分かる。崩壊エネルギーを帯びるそれは、実際には葉ではなく、葉の形をした道具の一種だ。
どこで入手したか聞くと、火を追う蛾の基地の一つで発見したのだという。そこはケビンが量子の海に沈む前、スウと華と最後に会議をした場所だった。
「預かろう」
ケビンが葉を受け取ると灰蛇は下がっていった。広間が再び静寂で満ちた。王座に深く腰掛けたまま、手の中で葉をもてあそぶ。薄暗い空間の中で葉は微かに発光しているように見える。
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