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    うたこ

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    うたこ

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    黒猫男子きょう何食べたい?企画のお話。
    さじゅさんとう゛ぃれさんが出ます。

    たいやき。 飽きませんか? と聞かれて何のことを聞かれているのか分からなかったのは昔の職業のせいだろう。昔はそこそこ真面目にお仕事をしていたから、当たり前だと思っていたのだ。
     そういうもの、だと思って居なければ飽きるかもしれない。張り込みなんて。
     言われてみれば、ほとんどの時間は、動きの無い現場をただ見張っているだけだ。退屈でつまらない仕事だ。
     厄介な資産を回収してこいとルダンに命じられて、面倒そうだけど、仕事だからしょうがない。サボりながらやるかと出向いた先には先客がいた。資産を持っているのは没落貴族の娘だそうで、その資産というのは値の張る宝飾品だそうだ。よくある話だが、家宝の古式ゆかしく豪華なアクセサリーには多くの人の恨み辛みが宿っていた。よって幻想銀行に相応しい資産というわけだ。持ち主を不幸にするとか、取り殺すとかそういうアレ。まだ彼女の家が栄華を誇っていた頃にはその家宝の宝石を巡ってどろどろした争い事がたくさん起こったのだそうだ。そうして沢山の怨念を取り込んだ宝石は意思を持つようになったのか、更なる不幸を呼び始めた。彼女の両親も、突如気の触れた侍女に刺し殺された。
     そんな物騒な宝石でもお値段はとてもよろしいので親の作った借金のかわりに寄越せと金貸しの連中も狙っている真っ最中だった。で、手入れのされていないお屋敷の周りをうろうろしながら時々怒鳴り声を上げている。
     連中が毎日、娘を脅しつけるせいで資産を預けて融資を受ける、という彼女にとっては渡りに船のはずのローカパーラ側の申し出を聞いて貰うことができなかった。取り立てにいったのがヴァーナキィ姉妹のような若い娘ならまだ話を聞いてもらえたかもしれないが、生憎とそちらもそちらで面倒そうな仕事のまっただ中。仕方なく、屋敷を見張れる場所から機会をうかがっている、というのが現在サージュの置かれている状況である。まぁ、見た目が若干ちゃらんぽらんで、ゴロツキっぽいから警戒されてるのは否定できない。
     今日は、そろそろ動きがありそうなので、一人だけだと対応できないかもしれないと相棒役に来客の予定がなくなって暇になったヴィレスを連れ出した。
    「どうして私なんです?」
    「資産がアレじゃなかったらラシュリィに説得してもらったんですがねぇ」
     若い娘の方が話は聞いて貰えそうではあるのだが、すっかり疑心暗鬼になった宝石の持ち主は肌身離さず資産を持ち歩いている。銀行員とて人の子なので、時折資産の思いに捕らわれることがあるため、サージュはラシュリィよりヴィレスの方が向いていると判断した。
     どうやら一番最初に宝石に呪いをかけたのは姉妹の妹だそうだ。家宝を受け継ぐ姉をうらやみ、憎み「殺して奪いたい」と強く思った。そして、実行に移した。姉の血を浴びた宝石は身につけた者に対して、まず殺意を抱かせるようになっている。
     殺意を銀行に預けているヴィレスなら、資産に惑わされることはない。
    「つまり、私が資産の回収役ということですね?」
    「そういうことです」
     説明しながらチンピラ達がバリエーションのない脅し文句を窓のから内に向かって怒鳴っているのを眺めていると、ふわっと温かい湯気が顔にかかった。
    「なんです?」
    「ここに来る前に銀行に来たお客様にいただいた物です。なんでも、刑事さんだそうで」
     刑事、と言う単語を聞いて少しだけ心が動いた。
     やだやだ、もう忘れたい、無くなってしまえばいいと思っている過去なのに。
     邪魔なだけで……今は邪魔で……昔は、大切ではあったけれど。
    「その国ではあんぱんを張り込みの時に食べるそうです」
    「はい?」
     張り込みの時の食事に決まりがある世界、なんてあるんだろうか。なんの意味があって? あんぱんとは何だ?
    「張り込みに行くと言ったところ、あんぱんではないがよく似ているということでその方がくださった物です。オーブンで表面を焼くと美味しいと教えていただいたので、せっかくなので焼いてきました」
     ヴィレスが渡してきたのは、紙にくるまれた温かな……何か。
    「……魚?」
     の形をしている。
    「鯛焼きと言うそうで、中には甘く煮た豆が入っているスイーツです」
     平然と淡々とヴィレスが言う。
     張り込みの時の食事が甘く煮た豆のスイーツで魚?
     わけがわからないが、異界には様々な場所があるそうだからそういう場所もあるのだろう、たぶん。
     いくつか貰ったのか、ヴィレスはサージュに渡した分とは別に、自分の分はしっかり確保していた。いただきます、と両手を合わせてからぱくりと背びれの辺りに食らいついている。
    「なかなか、いけます」
     張り込みをしているんであって遠足してるんじゃないんですが……。
     とはいえ、ずっと気を張っていては身がもたないし、最悪、資産さえ回収できりゃいいだけなので窓の外を眺めながら、温かな魚の形のスイーツにサージュも口を付ける。
     甘い生地の中に、さらに甘い餡が入っている。
     豆を甘く煮るという習慣がないので食感と味のバランスがなんとも不思議な感じがするし、甘さも普段食べるようなスィーツに比べると控えめというか中途半端だ。なんか変な食べ物だな、とは思うが手を汚さずにカロリーを摂取できるのは確かに便利だ。
     ヴィレスを見ると口から尻尾の部分だけ出してもぐもぐと口を動かしている。無表情ながらに少々楽しそうに見えるので、堪能しているようだ。
     中に入っているのは赤黒い豆だ。
     ちょうど、今回収しようとしている資産と同じ。
    「手助けが必要そうにも見えませんが、二人で挑まないといけないくらいには手強いんでしょうか?」
     ヴィレスが家から出て来ない小娘にイキっているチンピラ連中を横目に見ながら、今度は水筒に入れてきたお茶をカップに注いでのんびりと飲み始める。
    「手強くはないですが……」
     最後の一切れを口の中に放り込むと、ヴィレスがお茶の入ったカップを手渡してきた。
    「白湯じゃなくてお茶です」
     なんでそこをドヤってるんです?
     うけとってそっと口に含むと、お茶はまだ温かかった。
    「チンピラはどうでも良いんですが、私、割と欲深いんで」
     ヴィレスが首を傾げる。
     あの資産は、見た人間に「持ち主を殺してでも欲しい」と思わせる。あの宝石を姉から奪った妹は、姉に対する恨み辛みも抱えていたからそう思ったんだろう。欲しかったのは石だけだろうか。サージュはそうは思わない。全てが失われてしまっているから欲しい物の内訳なんてわからないが、姉の持っている何もかもを欲したからこそ、資産になるような呪いがかかったはずだ。きっとそれは、サージュが「正義感」を大切にしていた、その思いよりも遙かに強い。殺せば、自分が滅びることだってわかっていただろうに、それでも殺し奪わなければ気が済まないほどの渇望。底のない貪欲だ。
     そうでなければ、あんな石ころが人を取り込み殺すようになんてなるはずがない。
     一度、遠目に見ただけで、ぞわりと背筋が震える欲が、一瞬だけだけれど内に浮かんだのだ。
    「制服に対魔法防御が織り込まれているとはいえ、ちゃんと回収できるかわからないんですよ。面倒なのは嫌なんで、だったら最初からヴィレスを連れてきた方が良いと思いまして」
    「欲、ですか……?」
     この男に欲が無いとは言わないが。
     それでも、必要なのに自分自身だけでは悪漢達と組むということすら決められなかったサージュよりずっと淡泊だろう。彼が殺意を預けた理由と自分が正義感を預けた理由は全く違う。納得して要らないと判断して銀行に預けたはずなのに、時折ふっと預けたことに後ろ冷たさや寂しさを感じるくらい、未練がましく執着している自分と、預けることになんら躊躇のなかったヴィレスは違う。
     お茶を片付け終わるのと同時に、窓の外に動きがあった。
     こそこそと娘が建物から出てくる。怯えきっているが抱きしめるように抱えているのはあの宝石だろう。彼女は彼女で、資産を手放すことを恐れている。全部、石ころの思うつぼ。苦笑いが浮かんでしまう。
    「ヴィレス、資産の回収をお願いします」
    「承知しました」
     窓を開けて外に飛び出しざまに剣を抜く。対になった双剣をかちりと合わせる。
    「ヴァイシュラヴァナ、開門」
     宝石の放つ瘴気にあてられたのか、正気を失った視線が見えた。銃口が向く先は、もちろん出てきた娘だ。
     殺して、奪う。娘を見た金の取り立て屋の男の頭の中には、今、それしかない。
     地に足が付いた瞬間に資産魔法を展開する。魔法を使える銀行員とはいえ銃のスピードと勝負するのは分が悪い。万が一のことがあっては仕事も増える。人の死は面倒事を引き寄せるし、だったらここでほんの少し働いた方がマシってものだ。
     銃声よりも早く、時間をあやつ有る刃を持つ刀を、投げる。
     回転する刃が娘の首を跳ね飛ばすのとほぼ同時に、弾丸がその首があった位置を通過した。
    「間一髪ですねぇ」
     仕事が面倒にならなかったことに安堵して残った一振りで、駈けながらチンピラ共の首を払っていく。若い女一人を脅すためによくまぁ、この人数で来たものだ。結局、全部で六個の首を刎ねた。
     ここまで思いが強くなるにはどこまであの石は人の血を吸ったのだろう。たくさんの人間の欲をかき立て、それを吸って、さらに足りないと貪欲に血を求めるのか。宝石の意思は漂い、病原菌に空気感染するようにその場にいる者に「欲しい」という思いをかき立てさせる。制御できないような強い気持ちではないけれど、胸の内のどこかが焦げ付くのを感じた。
     一体何を欲しているのか。どうしてそんな思いをするのか。
     全く、魚の菓子の中に入ってる豆を変わらないような見た目の石のくせに、面倒な思いをさせてくれる。
    「とりあえず、これを人目につかないところに捨ててきますから、とりあえず彼女をローカパーラに……」
     首の無くなった男達を足蹴にしながら振り返ると、ヴィレスが平然と女の首と胴体を別々に抱えていた。
    「どうやら、私にも欲はあるようです」
    「そうでしたか?」
     宝石の放つ魔法に感化されたようだ。様子を見る限り問題はなさそうだが。
     何やら少し深刻そうな顔をして、ヴィレスが頷いた。
    「やはり、白湯よりはお茶が出た方が良いな、と思いました」
    「さっさと彼女をお連れしてください」
     追い払うように手を振ると、ヴィレスが「では、後ほど」と言い残して去って行く。あの状態で連れて行ったらまた副頭取あたりに文句を言われるだろうなと思うが仕方ない。資産に心を捕らわれた状態では、宝石を預けることに同意はしてくれないだろうし、まずは資産と本人を離して落ち着かせなくては。
     落ちている双剣の片割れを拾い上げる。
     大切な商売道具だ。そっと大事に仕舞う。今のサージュは幻想銀行の銀行員で、働くのが嫌いな人間だ。昔、見ていた夢なんか、要らない。
    「張り込みなんかしたせいでしょ、たぶん」
     独りごちて、あの豆の魚の変な菓子を思い出す。悪くはなかったが、あれを食べながら張り込みをすることには全く憧れは湧かない。どうせなら馬鹿話でもしながら食べるものだろう、アレは。魚に甘く煮た豆が入っているのだ。どうかしている。
    「今の方がずーっとマシってもんです」
     自分に言い聞かせるようにそう言って、サージュはチンピラ共を空き家に放り込んでドアを閉めてから、背を向けると、ちゃっちゃと時間を巻き戻した。
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    うたこ

    DONEにーちぇさん(@chocogl_n)主催の合同誌に載せていただいた、ディアエンのダンシャロです。
    エンブレムの最後は悲劇的な結末になることが確定しているので、互いを思う二人に幸せな時間がありますようにと思い書きました。書いたのが8月でGAの発表もまだだったので、今開催中のイベントとは雰囲気が異なるかもしれないです。
    インターリフレクション 白く清潔なテーブルの上に置かれたマグカップから、フルーツの香りが漂う湯気がふわっと湧いた。ほのかに異国のスパイスの匂いも後から追いかけてくる。
    「先生、ヴァンショーです。あったまりますよ?」
     この香りは昔、嗅いだことがある。
     何百年も前の風景、ガス灯や石畳の町並みが一瞬だけ脳裏に浮かんだ。へにゃっとした緊張感の無い少年の笑い顔と一緒に。
     懐古趣味なんてらしくねぇなぁ。
     頭に浮かんだ人物と風景を追い払ってマグカップに口を付ける。
     甘い。
     ヴァンショーは葡萄酒に柑橘系の果物とスパイスを加えて煮るのが一般的だが、出されたものには甘いベリーがたっぷりと入っていた。この医療都市にそびえ立つパンデモニウム総合病院には、もちろんしっかり空調が完備されている。真冬の今も建物内に居る限り、さほど寒さは感じない。大昔、隙間風の入り込む部屋で飲んだヴァンショーとはありがたみが随分違う。
    9331

    うたこ

    DONE黒猫男子きょう何食べたい?企画のお話。
    さじゅさんとう゛ぃれさんが出ます。
    たいやき。 飽きませんか? と聞かれて何のことを聞かれているのか分からなかったのは昔の職業のせいだろう。昔はそこそこ真面目にお仕事をしていたから、当たり前だと思っていたのだ。
     そういうもの、だと思って居なければ飽きるかもしれない。張り込みなんて。
     言われてみれば、ほとんどの時間は、動きの無い現場をただ見張っているだけだ。退屈でつまらない仕事だ。
     厄介な資産を回収してこいとルダンに命じられて、面倒そうだけど、仕事だからしょうがない。サボりながらやるかと出向いた先には先客がいた。資産を持っているのは没落貴族の娘だそうで、その資産というのは値の張る宝飾品だそうだ。よくある話だが、家宝の古式ゆかしく豪華なアクセサリーには多くの人の恨み辛みが宿っていた。よって幻想銀行に相応しい資産というわけだ。持ち主を不幸にするとか、取り殺すとかそういうアレ。まだ彼女の家が栄華を誇っていた頃にはその家宝の宝石を巡ってどろどろした争い事がたくさん起こったのだそうだ。そうして沢山の怨念を取り込んだ宝石は意思を持つようになったのか、更なる不幸を呼び始めた。彼女の両親も、突如気の触れた侍女に刺し殺された。
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