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    うたこ

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    うたこ

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    こっそり、ひっそりりおさんの企画に参加。
    これ……腐? 要素ある? かな?
    原作が強いから、普通の日常風景にしかなってなくてすません。

    りおさんの企画のモブさん視点のアポヴァカ兄弟の話 何かお手伝いしましょうか? と声をかけてから相手があのアポロンⅥ様だと気付いた。
    「それはありがたい。酒類にはあまり詳しくなくてな」
     少年のような見た目に反する落ち着いた話し方だ。メディアで見る時はいつもキリリとした表情をしているけれど、今日は少し困った様に眉を寄せている。ずらりと並ぶワインボトルやガラスケースに入った琥珀色の蒸留酒を眺めて、声をかけるまでは首を傾げていた。
     私が働いているのはちょっと値の張るお酒を扱う店だ。とはいえ、私はただのアルバイト店員でしかない。エプロン姿の私にもアポロンⅥ様は礼儀正しい。
    「今日は弟の祝いの酒を買いにきたのだが……」
    「どのようなお祝いですか?」
    「あぁ。勲功賞だ」
     自分のことのように、誇らしげに胸を張る。
    「それは……おめでとうございます」
     よくわからないけど、きっとすごい賞なのだろう。アポロンⅥ様の表情にはなんの曇りもない。
    「弟さんは、どのようなお酒がお好きでしょうか?」
    「うむ。よく飲んでいるのはパワフルワンという酒だそうだが……」
    「え?」
     一瞬混乱して、アポロンⅥ様の顔をまじまじと見てしまう。
    「何か?」
    「……いえ」
     人の好みはそれぞれだから、と心の中で唱えつつ、でもそのお酒って手っ取り早く酔うためのやつだよね? という一般論が浮かんでしまう。あと、なんかお祝い感がないような……。いやいや、人の好みに文句を言ってはいけない。でもうちの店にはそういうタイプのお酒、置いて無いしなぁ。
     ならば、違う方向から考えてみよう。
    「その手にお持ちなのは、一緒にお召し上がりになるものですか?」
     この店に来る前に買ってきたのだろう、アポロンⅥ様は品の良い紙袋をお持ちになっている。
    「これか? 仲間に良い甘味がないか聞いたところ、Ⅸに勧められたものだ」
     最近話題の本格的なチョコレートを使ったガトーショコラが有名なお店だ。
     あぁ、あの美しいアフロディーテⅨ様とは確かに似合う。大人の味のケーキで、私も大好きだ。お高いので時折買えるだけだけど。お祝いには相応しい。なんといっても香りがすばらしくて、甘み控えめ、ほんのりとした苦みが心地良い。
     パワフルワンとは合わない。たぶん。
    「甘い物とお酒は相性が悪いのではないか?」
     ふむ。
     Ⅵ様としてはつまみのつもりで買ったわけではなく、お祝いとして買ったケーキということのようだ。
    「そう思われてる方も多いですが、実はそうでもございません」
     甘いものをつまみながら飲む人もけっこういるし、何よりそのガトーショコラはカカオの味が濃い。苦みと甘みのバランスが良いので、とても合うお酒がある。
    「こういったタイプの葡萄酒はよく合いますよ」
    「そうなのか?」
     渋みの効いた赤ワインと高カカオのチョコレートの組み合わせは、香りを楽しみながら優雅な気持ちにさせてくれる。なんというか、時間がゆっくり流れるような、そんな贅沢な感じがする。店長だったらもっと芳醇な香りがとかふくよかななんとかが、とか説明できるんだろうけど、私にはそこまでの知識がないのが口惜しい。
     でも美味しいのは知ってる。私も試したから!
     なんか幸せな気持ちになるから!
     合うと思う赤ワインをいくつか特徴と共に紹介して、Ⅵ様にお好みの物を選んでもらう。
    「では、それをいただこう」
     慎重に質問をいくつかしながら彼が選んだのは仲の良い兄弟が長年作り続けているちょっと稀少なもので、とはいえ高額では無いけれど決して庶民が普段使いできるお値段のお酒でもない。
     とはいえアポロンⅥ様は値段を気にしてはいなさそうだ。満足したような笑みを浮かべる。
     強くて清廉な笑みだ。不思議だけど、見ると嬉しくもなるし、それでいてきゅっと身の引き締まるような気持ちにもなる。
     これが太陽神の化身、ということなのだろう。まさしく太陽の強い光だ。
     大切なお祝いの品だからと専用の袋に入れて赤いリボンをかけていると、アポロンⅥ様の後ろから背の高い男の人がやってきた。
     うーん? どこかで見たことがあるような……?
    「え? お兄ちゃんがお酒買ったの?」
     驚いたような声をあげて、私の手元を覗き込む。
     お兄ちゃん、とⅥ様を呼ぶということはこの人がお祝いの相手、ということか。
    「うむ。いろいろ教えてもらってな。良い買い物ができたと思う」
     Ⅵ様の横で弟さんがちょっと眉を寄せた。
    「ねぇ、この高そうなお酒をあのコップで飲む気?」
    「他に無かろう? それにあれは大切なコップだ」
    「いやいや、お兄ちゃん。もったいないって。子供用のコップに入れるお酒じゃないから」
     は?
     このまあまあ高額なワインを子供用のコップに……?
     いや、人の趣味にケチをつけてちゃいけないけど。お酒は自由に飲むものだけど……!
    「ヴァッカリオが赤ちゃんの頃から使っていたコップだぞ?」
     あ~。そのコップに思い入れがあるのはわかるけど。
    「あの……! こちらをお使いください」
     本来ならワイン一本に対して一つだけ付けるはずのノベルティのワイン用のグラスを二つ、私はわしゃわしゃっと緩衝材に包んでワインを入れた袋の中に入れる。高いものじゃないけど、お酒の香りと色を楽しめるふんわりと丸い形のグラスだ。
    「いや、しかしそれは……」
    「ノベルティですから」
    「そこには、一本につき、一つと書いてあるぞ」
    「余ってるので!」
    「しかし……」
    「美味しいお酒は、美味しく飲んでいただきたいです。私、このお酒を造ってるおじいちゃん兄弟にお逢いしたことがあります。一生懸命造っているものだから、良い香りも是非是非!楽しんでいただきたいんです!」
     Ⅵ様の顔が曇る。
     私の気持ちはわかるけれど、ルールを曲げることには納得いかないんだろう。真面目な方だというのはよく知っている。ヒーロー活動の様子も、メディアを通して見ているからそこは知っているんだけど。
     いやでも、これは曲げられない。だって、このワインはすごく一生懸命作られたものだから。
    「二人とも生真面目だねぇ~」
     のんびりとした声が上から降ってきて、包装されたワインの隣にテーブルワインがぽんと置かれた。お手頃なお値段ではあるけれど、知る人ぞ知る白ワインだ。フレッシュな香りで、アポロンⅥ様の選んだ赤ワインとは対照的に、軽い口当たりでワイン好きの間では人気がある。
    「もう一本買えばいいじゃない。そっちおいらが出すから」
     ね? と言われて、はい、と反射的に答えてしまう。
     優しい言い方なのに何か説得力というか圧というかを感じた。
    「コップ大事にとっておいてくれたのは嬉しいけど、まぁ、お兄ちゃんとお揃いのグラスで酒を飲むってのもいいじゃないの」
    「お揃い?」
     ぱちぱちと瞬きをして、曇っていたアプロンⅥ様の顔がまたぱっと晴れる。一瞬だけかかっていた雲が晴れたみたいだ。
    「成る程。流石ヴァッカリオ。良い解決策だ」
    「おいらもお酒が沢山飲めて幸せってことで。ところで、お兄ちゃん、昔はルールを曲げるようなこと絶対無かったのに今ちょっと困ってたでしょ。な~んか、丸くなったよね」
    「少し周囲を見られるようになったのは、おまえのおかげだ。まだまだ考えが足りなかったようだが」
     仲の良い兄弟の会話を聞きながら、もう一つ、ワイン用の細長い紙袋を出して、白ワインを入れる。それを背の高い弟さんに差し出して「このワインを選ぶとは、お目が高いですね」と言うとだってお酒のプロみたいなもんだからね、と笑った。
     プロ? 好きなお酒がパワフルワンなのに?
     それぞれが選んだワインを持って去って行く兄弟の背中に「ありがとうございました」と声をかける。けっこう喧嘩腰に失礼なことをしたと思うのだけど、「またお祝い事があった時は頼む」と笑顔で言ってくれたⅥ様に感動しながら二人を見送った数週間後。

     あの背の高い弟さんが最強の英雄、ディオニソスⅫ様だと私は知ることになった。
     まぁ、確かに彼は確かに、お酒のプロかもしれない。 
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    Replies from the creator

    うたこ

    DONEにーちぇさん(@chocogl_n)主催の合同誌に載せていただいた、ディアエンのダンシャロです。
    エンブレムの最後は悲劇的な結末になることが確定しているので、互いを思う二人に幸せな時間がありますようにと思い書きました。書いたのが8月でGAの発表もまだだったので、今開催中のイベントとは雰囲気が異なるかもしれないです。
    インターリフレクション 白く清潔なテーブルの上に置かれたマグカップから、フルーツの香りが漂う湯気がふわっと湧いた。ほのかに異国のスパイスの匂いも後から追いかけてくる。
    「先生、ヴァンショーです。あったまりますよ?」
     この香りは昔、嗅いだことがある。
     何百年も前の風景、ガス灯や石畳の町並みが一瞬だけ脳裏に浮かんだ。へにゃっとした緊張感の無い少年の笑い顔と一緒に。
     懐古趣味なんてらしくねぇなぁ。
     頭に浮かんだ人物と風景を追い払ってマグカップに口を付ける。
     甘い。
     ヴァンショーは葡萄酒に柑橘系の果物とスパイスを加えて煮るのが一般的だが、出されたものには甘いベリーがたっぷりと入っていた。この医療都市にそびえ立つパンデモニウム総合病院には、もちろんしっかり空調が完備されている。真冬の今も建物内に居る限り、さほど寒さは感じない。大昔、隙間風の入り込む部屋で飲んだヴァンショーとはありがたみが随分違う。
    9331

    うたこ

    DONE黒猫男子きょう何食べたい?企画のお話。
    さじゅさんとう゛ぃれさんが出ます。
    たいやき。 飽きませんか? と聞かれて何のことを聞かれているのか分からなかったのは昔の職業のせいだろう。昔はそこそこ真面目にお仕事をしていたから、当たり前だと思っていたのだ。
     そういうもの、だと思って居なければ飽きるかもしれない。張り込みなんて。
     言われてみれば、ほとんどの時間は、動きの無い現場をただ見張っているだけだ。退屈でつまらない仕事だ。
     厄介な資産を回収してこいとルダンに命じられて、面倒そうだけど、仕事だからしょうがない。サボりながらやるかと出向いた先には先客がいた。資産を持っているのは没落貴族の娘だそうで、その資産というのは値の張る宝飾品だそうだ。よくある話だが、家宝の古式ゆかしく豪華なアクセサリーには多くの人の恨み辛みが宿っていた。よって幻想銀行に相応しい資産というわけだ。持ち主を不幸にするとか、取り殺すとかそういうアレ。まだ彼女の家が栄華を誇っていた頃にはその家宝の宝石を巡ってどろどろした争い事がたくさん起こったのだそうだ。そうして沢山の怨念を取り込んだ宝石は意思を持つようになったのか、更なる不幸を呼び始めた。彼女の両親も、突如気の触れた侍女に刺し殺された。
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