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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    ショロトルとハクメンちゃんと主人公

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #ショロトル
    showrotle
    #ハクメン

    将棋盤 俺がショロトルの姿を見つけるよりも、きっとショロトルの方が先に俺を見つけてくれていた。ショロトルは少し目が悪いらしいけれど、そのぶん鼻がいい。目的の階でエレベーターをおりたはいいものの、広すぎるフロアの端できょろきょろしている俺を見つけることなんて簡単だったに違いなかった。
     吸い込まれるように目が合う。ショロトルはそのとがった耳をぴっと立て、まっすぐこっちへ駆け寄ってきた。
    「ボスーッ!」
    「やあ、ショロトル!」
     応えるように手を振りながら、ショロトルの弾んだ声が心にしみた。いつだって真っ正直に、ひたむきに生きている友だちだ。俺の顔を見ただけでそんなに嬉しそうな声を上げられたら、こっちが嬉しくなってしまうに決まっている。つられて俺も駆け出した。
     さすが六本木に居を構えるタイクーンズの拠点というだけあって、立派で豪奢なつくりのビルはどこもかしこも掃除が行き届いていてぴかぴかだ。床材も上等なのか、学校指定の革靴が立てる音でさえちょっと聞いたことのないようなものに変わっていた。
     向こうから走ってきたショロトルと、ぶつからないぎりぎりのところで急ブレーキをかける。俺の顔を覗き込むように見つめて、ショロトルはにっこり笑った。
    「ボス! お久しぶりですっ!」
    「こんにちは、ショロトル」
    「まさか会えると思ってませんでしたっ! 今日はどうしたんですか? あっ、ハクメン様なら今ちょっと席を外してまして……」
     深い森のような、落ち着いた深緑のスーツを着こなしたショロトルは仕事の最中らしかった。主の姿が見えやしないかと、背筋をぐっと伸ばして辺りをきょろきょろと見渡している。主人に忠実な姿は凛々しかった。
    「ハクメンちゃんにも挨拶はするつもりなんだけどね。今日来たのは、これをショロトルに渡したくって」
     鞄を開け、ごそごそと探る。中から取り出したものを見て、ショロトルは目を丸くした。
    「これ、将棋の盤ですか?」
    「そうだよ。ショロトルに将棋を教えてもらえたら嬉しいなぁと思ってさ」
     学生のお小遣いでも買えるような、折り畳み式の小さな将棋盤だ。上等な――そしてそれに見合う値段をした――アイテムを見慣れている六本木ギルドメンバーからしてみたら安物には違いないかもしれないけれど、これでも色々と見比べて、少しでも良さそうなものを買ったつもりだった。
    「ちゃんと駒もあるよ」
     これまた小さなケースをふたつ、取り出してくる。中で駒が、じゃかじゃかっと音を立てた。
     ショロトルは将棋が強い。強いだけじゃなくて好きでもあるらしい。前にちょっとしたきっかけで、将棋をさすショロトルを目にしたことがある。その時のショロトルは生き生きとして、とてもいい表情を見せていた。
     ボディーガードの務めを果たす姿もかっこいいけれど、好きなことに取り組んで楽しそうに駒を進めるショロトルの顔をもっと見たい。できれば、もっと近くで。
    「ショロトルの迷惑じゃなければ、だけど……」
     どうかな、と尋ねると、ショロトルは特注のサングラスが吹っ飛びそうなくらいの勢いでぶんぶんと首を振った。
    「迷惑だなんてとんでもないですっ! ボクもボスと将棋がさせたら嬉しいのにと思ってましたから……! あっ、でもボク、これからハクメン様のお供をすることになってまして……」
     気を落としている時のショロトルは本当に分かりやすい。耳がぺったりと垂れ、眉尻も下がれば肩も下がる。くうん、と小さく鼻が鳴らされた。
    「そっか、まだ仕事があるんだ」
    「はい……うぅ……」
    「いいよ、気にしないで。約束してなかったんだから仕方ないよ。ハクメンちゃんのお供、頑張ってね」
    「でも……せっかくボスが来てくれたのに……」
     こっちはショロトルの都合も聞かずにふらっと立ち寄ったわけだし、都合が悪くても仕方ない。そもそも駄目元くらいの気持ちだった。
     励ますつもりで優しく肩を叩いたのに、義理堅くて優しいショロトルはすっかりしょげてしまっている。一緒に将棋ができたら嬉しいと思って気軽な気持ちで六本木まで足を伸ばしたわけだけど、誰かを経由してでも先に連絡をしてから来るべきだったと反省する。こんな風にショロトルを困らせるつもりじゃなかった。
    「ごめんね、あの……」
    「よくってよ、ショロトル」
     凛と声が響いた。ショロトルが弾かれたように振り向く。エレベーターの前、つんと顎を上げ、着物姿も艶やかに、ハクメンちゃんが立っていた。
    「ハクメン様ぁぁ!!」
     慌てるショロトルの視線を正面からとらえ、ハクメンちゃんはゆったり笑ってみせる。かんざしから下がる花の細工がちらちら揺れた。
    「将棋だなんて素敵じゃないの。せっかく御屋形様がいらしてくださったんでしょう? わらわの用事はもういいわン」
    「でっでも、ハクメン様はこれからお出かけですよねっ! そしたら誰がボディーガードを……あ……そうか……ボディーガードは別にボクじゃなくても……」
     言いかけたショロトル自身が、何かに思い当たったように口をつぐむ。ハクメンちゃんにはたくさんの部下がいる。ボディーガードの役目を言いつかるのは、ショロトルひとりに限ったことじゃないみたいだった。
     ショロトルは本当にハクメンちゃんのことを大事に思っているのだ。自分こそが大切な主人の役に立ちたいという気持ちは自然に芽生えてくるものなんだろう。
     ショロトルは肩を落とし、ますますうなだれる。そんなショロトルにじれたのか、ハクメンちゃんは途端にひゅっと眉をつり上げた。
    「わらわの外出ごと取りやめるって言ってるんですの。別に誰かと約束をしていたわけでもなし、大事な用でもなし」
    「えっ、いいんですか……!? そんな……でもボク……」
     恐る恐るといった様子で何度も念を押しているショロトルに比べて、ハクメンちゃんは気が短い。涼やかな目尻がぐっと持ち上がる。眼差しがとがった。
    「わらわがいいと言っているんだからいいのよ! そんなことより、相手が御屋形様だからって将棋に手を抜いたら承知しませんことよ!」
    「えぇっ……」
     ショロトルに比べれば随分と小柄だけれど、ハクメンちゃんには華やかな世界で采配を振るう者としてのオーラと迫力がある。相手を真正面から見据えたままずいと詰め寄れば、さすがの屈強なボディーガードも後ずさった。
    「ショロトル? お返事がなくってよ?」
     最終通告とでも言わんばかりの問いかけに、おどおどして縮こまっていたショロトルは飛び上がる勢いで姿勢を正す。背筋がこれ以上ないというくらいにぴんと伸びた。
    「はっはいぃぃ! 分かりました、ハクメン様ぁぁ!」
     腹の底から押し出されたような太い声がフロアじゅうに響き渡る。さっきまでの怖い顔はいったいどこへ行ったのか、ハクメンちゃんはたちまちにっこりした。
    「ふふン、それでこそわらわのショロトルよ! メチャ活躍するところ、期待してますわよ」
    「はいぃ」
    「御屋形様をぎゃふんと言わせなさいな」
     ばちん、と音のしそうな目配せが送られる。ショロトルは無言で何度も頷いた。
    「さ、ショロトル、御屋形様をわらわの部屋へご案内してちょうだい。御屋形様~ン、残念ですけれどショロトルとふたりきりにはさせてあげられませんのよ。わらわにもぜひ観戦させていただきたく……。よくって?」
    「もちろんだよ。ありがとう、ハクメンちゃん」
     目を見つめながらまっすぐに伝えると、ハクメンちゃんは機嫌がいいのか、うふふと楽しげな声をこぼした。懐から扇子を取り出して、はたはた扇ぐ。そこらの街中じゃとんと遭遇しないような、品のいい香木のかおりがした。
    「そ、それじゃあボス! ご案内しますっ」
    「うん、よろしくね。あっでも、その前に連絡先を教えてもらってもいいかな?」
     スマホを取り出しながら尋ねる。ショロトルはきょとんとした。
    「えっ? ボクのですか?」
    「そうだよ。ハクメンちゃんの連絡先はとっくに教えてもらってるから」
     教えてもらったというか、押しつけられたとも言えるのだけど、まあそれは口に出さないことにした。
    「そしたら今度は前もって連絡ができるでしょ。将棋、一回だけじゃ強くなれないと思うからさ」
     また遊びに来てもいいかな、と言い添える。ショロトルはこぼれるような笑顔を浮かべた。
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