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    yomino9211

    @yomino9211

    主カミュのえろとワンライの倉庫。基本的にえろは支部でも同じものが見れます。ワンライは当面こことツイートのみの予定

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    ◆ワンライ0806◆出会ってまだ幾ばくも無いふたり

    #主カミュ

    白に煙る、朝はまだ来ず 息をひそめながら歩くふたりの髪を濡らす雨はまだ止む気配を見せなかった。イレブンの足取りは重く、カミュがその遅さに何も言わず合わせている。故郷や生家、近所付き合いといったものと無縁であるカミュはイレブンの本当の心などわかりはしないが、わからないなりに歩み寄ろうとして、何度かその力の抜けた肩に手を置いていた。
     ――イシの村は酷い有様であった。そのような単純な言葉で言い表してしまうのは憚られるほどに。潰滅の限りを尽くされたかつての村には瓦礫と土埃、そして火薬の匂いが積み重なって、さながら家屋の墓場の様相を呈している。
     大滝の前で祖父と実母からの手紙を読んだイレブンは暫く、瞳に少しばかりの光を宿していたようにカミュには感じられたが、それも雨の中を彷徨ううちに流されてしまった。
     ふたりは出会ってからまだほんの少しの時を過ごしただけだが、それでも素直そうでおっとりとした、田舎育ちといった特有のあどけなさを孕んだ年下の青年が此処まで表情を変えてしまうと、カミュの心までじっとりと闇に飲まれていくようで、湿度の高い沈黙がかれらの間に蹲踞していた。
     ふと、イレブンの両脚がもつれ、カミュのほうへ倒れこんでくる。
    「っ、ご、めん」
    「おまえ大丈夫か? ……って」
     カミュの鎖骨あたりに擡げられたイレブンの額は酷く熱かった。
    「すげー熱だぞ、おまえ! ああいや、責めてるわけじゃない。一旦どこかで横になったほうがいいな」
    「ごめ、ん……。我儘だけど、できれば、ボクの……イシの村で、眠りたい。ごめん……」
     何度も譫言のように謝る青年の我儘を断るほど、カミュは奸賊ではなかった。
     肩に手をかけさせ、ゆっくりと歩いていく。けれど、いいのだろうか。イシの村で寝たところで、こいつは余計に傷ついて、余計に自罰的になるだけではないのだろうか、と。本意がわからない以上、病人に無駄な説教をする気もなかったが、カミュはこの今にも倒れて消えてしまいそうな一人の重みを受け止めながら、どう声を掛けるべきか思索していた。
     
     イレブンは相も変わらず静かなイシの村につくとそっとカミュの肩から手を降ろし、何も言わずにふらふらと石畳を踏みしめ、高台の家へと上っていった。カミュは同じく、何も言わずその背中を追う。何処に向かっているのか、大体見当はついていた。
    「……ここが、ボクの家。……母さんと暮らしてた」
    「あー……無理に喋らなくていい。とりあえず雨が当たらないとこに座っててくれねえか。雨除けができるものを見繕ってくるから。動いたりするんじゃねえぞ」
     こくり、と頷きながら石の壁にもたれ、うなだれるイレブンの姿を確認してから、カミュは家の外へ出た。外と言っても、もうこの家は壁も壊れているし、ドアも、屋根も、破壊されつくして、外側との区別などあってないようなものなのだが。
    「デルカダールのやつらめ……」
     ふと自分の口から零れ落ちた独り言に、カミュは少し驚いた。預言で告げられたとおりの勇者ではあるし、旅の途中でそれなりに会話もしたとはいえ、かれはまだ他人の域を出ない。
     カミュは生育環境から築かれた慎重さや疑り深さゆえ、簡単に人を信用しないし、誰かに深く入れ込んだりしない。けれど今たしかに、あの死にそうな顔の青年を、その表情にさせた元凶を、酷く厭悪する自分がいた。
     
     
     
     支えになる長い木の棒を幾つかと、焼け残っていたどこかの家のシーツを二枚持ってカミュはイレブンの生家へと戻った。先ず木の棒と一枚のシーツを繋ぎあわせ、カミュは簡単な雨避けをイレブンの家の唯一きれいに焼け残っているベッドの上に建てた。それを見て、ふらふらとイレブンが寄ってくる。この村のベッドは藁をシーツでくるみ、その上から掛け布団をかけているようだったので、濡れた掛け布団をはがすと、そのまま隣の青年が倒れこんだ。どうやらシーツと中の藁までは雨が浸食していないようだった。無いよりはマシだろう、と代わりにもう一つの端が焼けたシーツをかけてやる。眉間には皺が寄り、熱による赤みと、恐らく疲労やストレスによる青ざめによってかれの顔色は酷いものだった。
    「薬草、食えるか? 起き上がれるか?」
    「む、り……」
     か細い声がわずかに耳に届いて、仕方ねえ、とカミュは腹をくくった。
    「助けたくてやることだから、我慢しろよ」
     薬草を自らの口に放り込んでかみ砕く。そのまま飲み込めるくらいになったところで、仰向けに寝るイレブンの鼻をつまみ、口を開けさせ……そのまま口づけをするように、薬草を舌の上に載せてやった。すぐに一度口を離して、水筒の水をふくみ、腕をイレブンの後頭部に突っ込んで少し持ち上げたあと水を口うつしてやる。
     ごくん、と喉が鳴るのを確認して、カミュは後頭部から腕を静かに抜き、目を閉じたままのイレブンの顔を見やる。懐かしいな。マヤが熱を出したときも、薬が飲めないって泣くからこうしてやったっけ。
    「か、みゅ」
     変わらず目を閉じたまま、イレブンが誰かを探すように手を彷徨わせた。
    「ここにいるぜ。なんだ?」
    「こんなの、子供みたいで、恥ずかしいけど、今日だけ……一緒に寝て、ほしい」
    「それくらい、構うなよ。ずっともっと酷いとこで寝てきたんだ。元相棒ともな」
     カミュは少し左側にずれたイレブンを追って、火薬のにおいが少し染み付いているシーツへと身体を捻じ込んだ。イレブンにくっついている左半身が熱い。明日はこの熱も少し引いてるといいんだが。ほんの数分たらずで、イレブンはすうすうと寝息を立て始めた。余程気を張っていたのだろう、カミュは明日からの行程を考えながら、薄焦げた雨除けのシーツを見つめていた。
    「ご、めん……」
    「ん?」
     イレブンは起きてはいない。寝言のようだった。
    「母さん……マヤ……みんな、ごめ、ん……ボクの、せいで……ボクの」
     寝ているはずなのに、イレブンの両目のはしからはぼろぼろと涙がこぼれおちて、せっかく無事だったシーツを濡らしていく。カミュはもうかれのそれを聞きたくなくて、思わず自分のほうに抱き寄せてしまった。おまえのせいなんかじゃないのに。今日はもう、すべて捨て置いて、眠ってくれ。熱が引いて雨が止んだら、その先のことを考えたらいい。だから今は。
     自分のせいだと何年も思わされるつらさなら、オレにもわかってる。だから、こんな思いは……おまえはしなくたっていいんだ。カミュは抱き寄せた腕に力を増して、やがてかれも眠りに落ちた。
                                                  了
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