「ヴィクトル、おかしな話だと思うかもしれないけど僕には死に神が見えるんだ」
彼に初めて会ったのはいつだったかな?
確かおじいちゃんの亡くなる前だったと思う。
病院の枕元に彼が立っていたんだ。
人間じゃないっていうのはすぐにわかったよ。
だって彼は――。
ううん、そんなことはどうでもいいんだ。
そしたら彼は僕が見えることに気づいたのか、僕の目の前にたった。
『君に死に神を追い払う呪文を教えてあげるよ』
そう言って。
でも使える条件がある。
足下にいる死に神しか追い払えない。
枕元に立っているときはだめだ。
つまり彼はだめってこと。
守らないとペナルティーがあるよって。
おじいちゃんは亡くなったよ。
その後もいろいろなところで彼を見たよ。
ヴィっちゃんが死ぬときも、電話の向こうで彼の声がしてたんだ。
『俺を追い払わないの?』って。
でも追い払っても生き物だからいずれは寿命がくるだろう?
だから何度も苦しくなって、いつか追い払えなくなる日が来るのを待つくらいなら何もしないことに決めたんだ。
薄情者だよね。
でも、それで良かったって思うよ。
寿命をいたずらに変えるなんてしちゃいけない。
――――しちゃいけないんだ。
だから、もし枕元に死に神が立って。
それを追い払ったときどうなるかなんてわかってる。
でもね、ヴィクトル。
僕が代わりになるとしても、僕はヴィクトルを死なせたくなんてないんだ。
ごめんね。
「身代わりになんて、本当はずっとなって欲しくなかったよ」
そう言って死に神が笑う。
ずっとこの時を待っていたはずなのにと見つめると、フードの奥の美貌を悲しげにゆがめる。
そんな顔ですら美しい。
それもそうだ、だって彼は。
「勇利が自分を差し出すのは、いつだって俺のためなんだ。そんなこと望んでなんていないのに」
神様は、ヴィクトルと同じ顔でいつかと同じように美しい涙をこぼした。