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    Manatee_1123

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    Manatee_1123

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    主従の日常☕

    好調な不調 ドクンと心臓が病的な脈打ち方をする。体は意思と無関係に固まり、訪れる出来事に身を委ね力が抜けていく。伸びてきた手は温かく、するりと触れては逃げていく風のようだ。
     彼はミルクティ、私はカフェラテのカップをそれぞれが持ち、特急電車を待つ数分の時。主の指先が私の頬を拭い、指先は唇を掠めて首筋から流れ落ちていった。
    「フォームミルクの泡」
    「――…………失礼いたしました」
     慌てふためく内心を懸命に隠し、ポケットに仕舞っているハンカチで口元を拭く――フリをする。彼が触れた感触を忘れるのが惜しく、布切れで上書きしたくなかった。
     主は、私の一挙手一投足を観察してくる。掻き乱される。涼しい顔を取り繕い、視線に気づかぬ態度が不自然でないか不安になる。
    「お前、僕しかいない時に油断するでしょ。僕は主なのに。一番油断しちゃダメだろ」
    「……申し訳ありません」
    「僕の事に集中しすぎて自分のことが疎かになってるんだろうね。僕以外の前では油断するんじゃないよ」
    「勿論です。……あ、いえ、影光様の前でも気を引き締めます」
    「ん…………ま、いいけどね、僕だけの時なら」
     再び伸びてきた手は私が持つカフェラテのカップに添えられた。重なる手と手の心地良さといったら――言葉にならない。抗う間などあるはずもなく、カフェラテ入りのカップは私の手ごと彼の側へと攫われてしまう。
     温かい飲み物が入っていたカップは、冷めにくくなるよう蓋が付いてくる。小さな飲み口を一ヶ所だけ開けられるプラスチックの蓋。たった一つしかない飲み口に、ミルクティの香りがするのであろう唇が当てられ、カップが傾けられた。
     あ、と言い掛けたが声にすらならず、小さく跳ねた胸の昂りは悔恨の念ではなく、良い意味での動揺が肉体にまで現れただけだ。
    「んー、苦……でもマイルドだね。侑臣が好きそうな味」
    「…………」
     やっと重ねられた手を開放してもらえたと思った直後、顎を上げる彼が私へ「ん」と唇を差し向けた。
     勝手に湧き上がる感情を拳を握ることで抑えつけ、仕舞い直したばかりのハンカチをまた取り出し主の唇にあてがう。
     無防備に目を瞑る彼の姿に目眩がした。
     今日はどうにも乱される。もう何年も共に過ごしている仲だ。普段はもう少し落ち着いていられるはずだというのに、稀にこうして調子が悪い――調子が良いとも言えるのかもしれないが――場合がある。
     ハンカチで拭われる動きに合わせ、主の頭が右へ左へとふわふわ揺れるのが――……。
    「これ、さっきお前の口拭いたやつじゃないの?」
    「……あ、そうでした」
     ――そういうことになっていたんでした。
    「允や霊司郎にもしないこと、僕には平気でするよね。嫌いじゃないよ、お前のそういうとこ」
    「…………」
     忠実ではあるが、誠実ではない私は、主が口を付けた飲み口から苦くマイルドな液体を喉へと流し込む。
     頬の上部に体温が集まるのを感じたのはきっと、カフェラテが温かいせいだ。
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