四季折々「気温、低くなってきたね」
「はい」
人は、寒いと服を着たり温かいものを欲したりする。暑いと服を脱いだり冷たいものを欲する。
影光様には、そういった行動が見られない。
汗をかいたり指先が冷えたりといった肉体的な変化は伺えるが、暑くとも寒くとも意図して衣類を変えられない。無意識に我慢しているらしく、我慢していたということにすら後から気づく始末。彼のそういった体調管理も私の仕事の一つである。
「トレンチコートの準備があります。本日はスーツの上からお羽織りください」
「ん」
寒い日に着せすぎて暑くなっても、彼は脱がない。エアコンが効きすぎていても、彼は言わない。気づかない。とてもデリケートな存在なのだ。
誇らしく愛おしい、繊細な人。
――ただ一つ。
「侑臣のコートは?」
「私は平気です」
「お前に風邪ひかれると僕が困るの。お前も暖かくするんだよ」
「……はい。善処いたします」
影光様は、他人に対してはやけに過敏だ。それが私に向くのならともかく、他の人に向けられるのは虫唾が走る。
だから、わざとコートを忘れたりして、彼の気を引く私の癖。彼は気づいているだろうか。
「さ、行くよ。今日は風が強いって霊司郎が言ってたから、ハンドル取られないようにね」
「貴方を乗せている時に、そんなミスはしません」
「うん。今日もよろしくね」
「はい」
変化していく四季折々、変わらぬ日常がここにある。酷く暑苦しい最高の快楽だ。