ポメガ バース尾勇 すっかり寒くなったな、そう思いながらポメ化した弟を連れて近所を散歩していた。
たっぷり三十分、公園にも寄って遊び、コンビニでおやつも買った。コンビニで待たせてた勇作は、お利口にちょこりと座っていた。
リードを引っ張ると勇作はご機嫌で、尻尾は常にフリフリとリズミカルに動いている。
単純な奴で、勇作はふつうのポメラニアンがされて喜ぶことで素直に喜び、楽しんでいる。
ある意味面倒はなかった。簡単だ。優秀で愛され祝福されたものが、こんな簡単に懐柔されるなんてな、と尾形は思う。
解錠し扉を開けると、玄関の土間で勇作はおとなしく足を拭かれるのを待っている。
小さな四つ足の裏を低刺激のウェットティッシュで拭いてやると、とてとてと小さな足音を立てながらフローリングの床を進んだ。
「まだ元気がありそうですね。」
キャン!と返事をする勇作に、お気に入りゴムボールを投げてやる。
勇作はバウンドする毛玉ボールのようにそのボールを追いかけて、口で掴んで尾形の元にやって来た。
尻尾が千切れんばかりに振ってくる。取ってきたボールを受け取りヨシヨシ、と撫でると円らな瞳がキラキラと光を放つ。
そしてまた投げると、勇作はまた駆け出す。投げては拾い、持ってくる。
それを10セット程繰り返していた。
ただ取ってくるだけが何がそんなに楽しいのかは不明だが、本人が喜んでいるのでまぁ、いいや。そう思いながらいつものクッションに誘導するとポメガバース用おやつささみジャーキーwithプロテイン』を与える。勇作ははぐっはぐっ!と旨そうにカミカミしながらそれを食い始めた。適度に運動、旨い飯、あとはゆっくり休ませれば明日朝には人間に戻るだろう。こうしてほぼ一日で勇作を元に戻すルーチンを尾形は確立していた。
はむはむとジャーキーを座って味わっていた勇作は、食べ終わり落ち着いてコロリとお気に入りクッションに横座りになっている。
投げ出されたむちっ、とした後ろ足が妙に色っぽい。そのラインをつたって、丸くぷりんとした尻がある。
あれだけ動き回っていた尻尾は、今はゆっくりゆらゆらとしていた。
ちょっとだらしないがリラックスしているのだろう。勇作さん、と呼ぶとクゥン、と鼻声で小さく鳴いた。
あと、一日で戻すのに重要な仕上げがある。
「よしよし…」
頭を撫でる。そのままゆっくりマズルを撫で上げると、勇作は目を細め舌でチロチロ嘗めようとしてくる。
「勇作さん」
耳がぴくぴくっと動いている。
指をそのまま喉や背に這わせると、ゴロゴロっと腹を向ける。撫でて、撫でてといわんばかりに前足を挙げてくる。
「積極的ですねぇ…」
勇作は上目で足を開いて腹を見せた。
白いもふもふの豊かな毛並み、その中に隠れた慎ましやかな乳首。
「よしよしよし…」
ちょっと強めにその純白の腹毛をもふっもふっと乱しながら、ぷにぷにとした肉を柔らかくもみほぐしつつ撫でてやる。
『ん、んっ…♡気持ちいいです…♡』
「ココがいいんですか?ん?あんよもぷりぷりですねぇ…色っぽいですよ。あ、乳首。」
『乳首はだめです!』
と、前足で牽制するもまたワシャワシャと撫でると再び身を任せてきた。
乱され逆毛にされながらも、勇作は気持ちいいのかぴす、ぴす、と鼻を鳴らしながらトロンとした目で見つめている。
ピンと伸ばされた後ろ足が、まるで丸々したチキンレッグみたいだ。撫でると弾力がある。
くぅーんと鳴きながらおっ広げでナデナデを要求してくる弟に
「はしたないですよ、勇作さん。そんな姿で…」
そう言いながら撫で続ける。
『あ、あっ…♡兄様ぁ♡♡』
くぅーん、くぅーんと鳴く声も何気に色っぽい。
「そうやって快楽に流されてる貴方も可愛いですよ。」
『兄様ぁ…♡もっと右です…あっ♡♡ソコっ♡気持ちいい♡♡』
背中を捩り、キュンキュン鳴きながらされるがままの白い身体のもふもふを存分に撫で上げた。
『はぁっ…はあっ…♡あにさま…♡しゅごい…♡♡』
といった顔でこちらを見てくる勇作。
ちょろい。こんなに弱みを曝してくるようになるとは思わなかった。もはや掌。こいつは俺がいなければ自由にポメ化できないし、なってしまっても最短で戻れない。馬鹿なやつだ。
俺が何考えてるかも知らずに。
『兄様ぁ♡アレ、しませんか??』
勇作は四肢を投げ、こちらを誘うような期待に満ちた視線を向ける。
ふん、このスキモノのアバズレ犬め。
そっちがその気ならヤってやる。
息を吸うと尾形はもふぅ!と顔を着けた。そしてすうううぅっと勇作のもふもふのポメ毛を堪能し、肺一杯にポメ臭を吸い込んだ。甘いミルクとはちみつのような匂いがする。
兄の息とグリグリ押し当てられる鼻の固さに、勇作は四肢をバタバタさせ喜んでいた。
馬鹿なやつめ、こんなことまでさせて。
まぁ、馬鹿な弟はいくらでも利用させて貰おう。モフモフを貪り、ポメ吸いだって、吸い付くしてやる。きっと自分は、今とんでもなく歪んだ面をしているのだろう。
そうとも知らずにと、純白の胸毛に顔を埋め続けた。
『近年のポメガバース研究の結果、
ポメ化には個人差はありますが、一般的に少しストレスを溜めやすいタイプは月1ポメって思いっきり甘やかしてもらい、一日から二日で戻るのが最高に心身ともに負担が少ないです。身内に一日思いっきり甘やかしてくれる保護主が居るのがもっとも理想です。
何より保護主の存在は大きく、扱い、相性、撫で方等がぴったりの保護主は貴重な存在となります。
なかなかその理想系の環境は難しいですが、皆さんそれぞれ己のポメ化とうまく付き合っていきましょう。』
「やっぱり、兄様に会えたのは本当に良かった…」
雑誌のポメガバースコラムを読んで、勇作はしみじみ思う。
あんなに構ってくれて、甘やかしてくれて。
本当に、嬉しかったのだ。
今までは、抑制剤を飲んでひたすら震えて耐えるしかなかった。疲れてない、大丈夫、そう言い聞かせてながら。誰も頼れない。両親も失望させたくない。毛むくじゃらの小動物の弱い自分は、誰も必要ではないのだ。
けれど、兄は違う。
「…人間の時も、もうちょっとポメの時可愛がってくれるみたいな顔を見せてくれたらなぁ…」
でも、それはとても贅沢な望みなのだろう。
「ふふっ…」
自分を愛してくれる兄の顔を思い出しながら、勇作は静かに微笑んだ。