ポメ違いです買い物の途中、道でポメった勇作さんを見つけた。珍しくリュックも迷子札もなく、俺を見るなり一目散に掛けてきて、必死にキャンキャンと吠えてくる。こんなにけたたましく吠えるところなんて見たことない。
しかし、このフワフワのモフモフの白い毛皮は間違いなく勇作さんだろう。
そしてこのキラキラした円らな瞳も。
声をかけたら立ち止まったし、こちらに何か必死に訴えている。
やはり勇作さんだ。
「またポメになったんですか?」
「キャン!キャンキャン!!ぐるるるるるぅ…」
不安そうな目をしながら、威嚇してくる。
珍しい態度だ。何時もなら可愛く尻尾を振って、膝にお手々をのせだっこをせがむような目で甘えてくるのに。まぁ、自分にはずいぶん甘えてくるのだと尾形は自負していた。
きっと思いもよらないところでポメって混乱しているのだろう。
「よしよし。ほら、うちに帰りましょう。」
そういって尾形は白いポメラニアンを抱き抱える。
すると勇作はさらに暴れた。
「こら!暴れんな!!」
なんだ?ヒートか??理性がないパターンか?
「勇作さん、どうしたんです!
暴れないでください!ったく…」
ぐい、と強めに掴むと今度は手足をバタバタさせる。
「ああくそ、大人しくしろ!」
少し乱暴に脇に抱えて、あわててマンションのエントランスに駆け込んだ。
そんなこんなでちょっと強めに取り押さえて、部屋へと運ぶ。玄関に下ろすが、勇作は唸って吠えている。
いつもなら、そのむっちりした足を素直に出してくるのに。
「どうしたんですか…そんな顔して…」
無理矢理足を掴むと、キャンキャンとキレてくる。あれ、痩せたか?少し足が細い気がする。
それにしてもやけに機嫌が悪いな…そう思いながらも足を拭き家にあげるもグルグルグルと唸っている。
まさか、本当の犬…と一瞬思ったが、この純白の毛並みは勇作しかあり得ない。が、抱いたときちょっと軽かった。痩せたのか??
「はいはい。わかりましたから落ち着いてください…」
そう言いながら、ポメガバースフード、『ジビエシリーズ鹿肉のオーブン焼き』を皿に出してやる。
すると、いつもなら喜んで食うのにやたら警戒して匂いを嗅いだ。そんなに警戒せんでも。
かと思うと物凄い勢いで食いついてくる。が、なんか食べ方が違う。早食い過ぎるような、がっつき過ぎるような。
「ゆーさくさん、ゆっくり食べてください。喉に詰まったらどうす…」
「え?」
その声に横を向いた瞬間、尾形はギョッとした。
「兄様?お帰りなさい…あの、その子は…?」
「え?」
目の前に、人間の勇作がいるのだ。
高い身長にラフなジーンズ姿、整った目鼻立ち。勇作は不思議そうに首を傾けてくる。
「勇作さん??」
尾形も不思議そうに首を傾けた。
じゃあ、これは…?
二人の視線が、自然と白い毛玉に行く。
ガツガツ飯を食べるポメラニアンをゆっくり見つめる。たしかに、二回りを小さい…?ような気もする。
尾形は恐る恐る抱き上げて、足を持ち上げる。
たしかに、ちょっと勇作より細い。そして、そこには無かったのだ。あるべきものが、ない。
「…勇作さんじゃ、ない?」
その瞬間、白いポメラニアンは首に噛みついてきた。同時に突き破られた扉から、弾丸のように男が入ってくる。
「てめえええぇぇええぇ!殺す!!殺す!!」
顔の傷。まるで獣の形相。掴み掛かってきた男に五発連続で殴られる。
突き破った扉は鉄製なのだが、そんなことはお構いなしでその拳は尾形に振り下ろされる。
「クソが!!ぶっ殺す!!この誘拐犯!ロリコン野郎!!」
「ちょっ!あなた誰ですか!」
勇作があわてて降って沸いてきた狼藉者にタコ殴りにされる兄を庇うと、殴る男は今度は勇作の方を向く。
「うるせぇ!てめえも仲間か!?殺すぞ!?」
男は今度は勇作の胸元に掴み掛かった。
「ひっ…!何でっ!?誰か助けて!この人頭が壊れてるっ!!」
ボコボコにされた尾形は、転がされて気を失い白目を向いているところをアシリパさんにガジガジ齧られ、勇作を助けることはなかった。