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    pya

    @mougenpya

    🌈EN妄言吐垢

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    pya

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    🧡💜とお誘いの話

    #Myshu

    誘惑なんだかちぐはぐだな、と感じた。
    髪を撫でた時に鼻を擽ったその香りは、彼に似つかわしくない、咽せ返るような甘ったるい匂いだった。
    「…ああ、妹のやつだからかな。丁度自分の切らしちゃったからこっそり借りたんだよね」
    その答えを聞いてすぐに納得した。香水と言われても分からないほどのその強く甘い香りは、確かにティーンに好まれそうなものだった。
    洗えればいいかなと思って、と妹の私物を黙って借りたこと悪びれることもなく彼は指で髪を梳かしながら笑って答える。その指が流れる度に派手なローズムスクの匂いが一瞬で辺りを蔓延った。
    それは異性に興味を持ち始めた思春期の女の子が使うならまだしも、男性である彼が、ましてや恋人という俺が居ながら、こんな誘うような香りを漂わせているなんて堪ったもんじゃない。吸い込んだ透明な靄が喉の奥につっかえる。鬱陶しいそれを吐き捨てるように咳払いをして答えた。
    「…辞めた方がいいよ、それ。オンナ用でしょ」
    「あー…苦手だった?確かにちょっと匂いがキツいか。まあ、これっきりにしておくよ」
    「うん、妹チャンにも言っておいて。『そんな匂いさせてなくても好きな奴はちゃんと見てくれてるよ』って」
    「んはは、ちゃんと伝えておくよ…ところで、ミスタは何のシャンプー使ってるの?」
    そう軽く背伸びをして俺の額に軽くキスを落とす彼に、まあ後でな、と一言だけ告げて降りてくる唇とその舌先を受け入れる。
    当時は彼方からそんなこと言い出すなんてラッキーだな、ぐらいにしか思ってなかった。どうせこの後たっぷり汗をかくんだし、俺の使ってるシャンプー見せるよ、といえばバスルームに二人で入ることもスマートにこなせるだろう。そんな邪なことを考えながら唇を重ねていれば、喉を通る重たい靄はいつしか溶けたように無くなっていた。

    そして一週間後の現在。俺達はというと長時間行ったゲームの後に僅かな酒を楽しんで、あの日と同じように真夜中の行為を始めようと、お互いの唇を寄せ合おうとしていた。
    が、口が重なるほんの寸前のところでピクリと俺の身体は何故かいうことを聞かなくなった。意図的では無く、本能的にだ。不思議な感覚に駆られながら、脳内ではぼんやりとその要因が浮かんでいた。
    ただそれは明確な理由ではない。どちらにせよあとひとつピースが足りない。頭の中のラックから記憶を呼び起こし、パズルを合わせようと必死になっていたからだろう。伏せつつあった彼の目蓋が戸惑いながら起きあがると、おそるおそる口角を上げてぎこちなく笑った。
    「…どうかした?」
    目と目があった、その一瞬の仕草だった。シンプルはシャボンに混じった、魅力的なホワイトムスクの香りがふわりと浮く。何処かで嗅いだことがあることは確かだが、以前彼が漂わせていたあの下品な香りとは別物であることは明らかだった。
    「あー…妹チャン、シャンプー変えたの?」
    「君の忠告も聞かずまだアレを使ってるよ。勿体無いからって…どうかした?」
    「いや、匂いが前と違うなって思っただけ」
    「ああ、それは僕が新しいのを買ったから」
    これっきりって言ったじゃん、と微笑む度に揺れるほのかな甘い香りはやはり何処か覚えがある。再び彼の髪に鼻を近づけ考えてみたが、む、と顰めた眉の筋肉も限界らしい。諦めよう、推理は失敗だ。まあ、もう探偵業も辞めちゃったもんね、と言い訳をつけながら俺は頭の中で両手を上げた。
    「へえ、いいヤツ見つけたんだ」
    頬杖をつき、続くであろう彼の答えを待つ。さあ、はやく教えてくれシュウ、この匂いの正体を。
    焦ったい感情を抑えながら向こうの顔を見ると、合わさった相手の視線は咄嗟に床に移る。此方の思いとは裏腹に彼は柔らかい笑い顔も最初のぎこちなさを思い出したようで、返事をするのに少々躊躇っているように見えた。
    「…君と、同じの買った」
    同じ。そのワードが耳に入った瞬間、我が家のバスルームに置かれているシャンプーのパッケージボトルが脳内に浮かんだ。二人で風呂に入ったあの夜も彼の頭を洗ってやって、いい香りだね、と笑って答えるその表情もはっきりと思い出した。
    「ああ!そうだ!これ割と好きなんだよな。シュウも気に入ったんだ?」
    「うん」
    悩んでいた記憶のピースが無事見つかり、見事にパズルが完成した俺は閃きを得た快感でかなり上機嫌だったと思う。だから気づいていなかった。黒い髪に触れていた俺の手を彼が掴んでぐいと引くと、その拍子に近づいた唇同士がふに、と軽く当たった。
    「…好きなんでしょ?」
    彼は真っ赤な顔をして、キラキラとした瞳を細めて、いじらしい表情を浮かべながら此方を見つめている。俺は間抜けだと分かっていながらも、ぽかんと開いた口を閉じぬもまま、唇に触れた突然の感覚に彼のことを呆然と見つめ返すことしか出来ずにいた。
    「え、は?どういうこと?何が?」
    「んはは!もう、ミスタったら。だからさ…」
    普段通りの可愛らしい声をあげて笑った彼は、軽く咳払いをすると、戸惑い続ける俺の頬に両手で触れる。
    「君が好きだって言ったから選んだんだよ」
    ここって時に鈍感になっちゃうんだから、探偵さん。と、続けて彼は体を此方に預けたままキスをする。
    だから探偵は辞めたんだってば、と答えること無く俺は彼と固い床の上へと崩れると、同じ匂いを纏わせた彼の柔らかい髪を撫でる。
    梳かす度に香るシャボンとホワイトムスクの甘い香りは、あの夜の派手なフレグランスシャンプーよりも、惹きつけられていた。
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