――――――朝焼けの浜辺を独り占めする、
鼓動よりも幾分、遅い歩調。
さく、さく、と素足で砂粒を踏みしめながら、
白波の許へと向かってゆく。
砂浜には、貝殻と、流木と、輝く欠片たち。
ざく、ざく、と数歩、また波の瀬に迫ってから、
膝を折り、翠の欠片を一つ拾い上げた。
角の取れた、丸い石のような、
それでいて、元はガラスだったことのわかる輝き。
揺蕩い続けて、ついにここへ来たようだ。
足首を、冷たいものが撫でては去ってゆく。
大きく息をついてから、朝焼けの青に、指先の淡い翠を翳す。
透けて溶け合った2つは、貴方のくれる視線と同じ色。
静かで激しく、見透かすような、でもときに穏やかな、
僕だけに注がれる、大切な色。
刻々と流れる雲間から、水平線に柔らかな陽光が広がる。
指先の光も、それに倣って刹那ごとに遷ろう。
脛を冷やしてゆく水にも捕らわれず、僕は、
ただただその色を手放したくない一心で、
ゆっくりと陽の昇る方へ往く。
「おい、何してんだよ」
ザッザッと走りくる音、後ろから掴まれる肩。
「……リアス」
「帰るぞ、面倒だからこんなとこで死ぬな」
「ただ散歩してただけですよ」
「はぁ?いいから水から出ろ」
ぶっきらぼうに引かれる腕。
まるで名残惜しむように脚を濡らす波。
潮騒のリズム。風の啼く音。接触する体温。
手のひらの中には、まだシーグラスを握っている。
「別に死にに来たわけじゃありませんから」
「どう見てもそうだったぞ」
「心配してくれるんですね」
「あー、次は放っとくわ」
「リアスに放っておけるんですか?」
海から上がってからはもう手も繋いでくれないリアスに追いつきながら、意地の悪いことを問う。
彼はサクサクと進めていた歩みを止め、こちらに向き直る。
翠がかった青の双眸に自分が映ったかと思うと、唇と唇が軽く触れ合った。
彼は「野暮なこと聞くなよ」とだけ短く吐き捨て、また歩き出した。
あぁ、貴方は、朝焼けよりもずっと上手に僕の心を塗り替えていくんですね。
シーグラスをポケットに仕舞いながら、そっとリアスの手を握った。