『写真』「はい、これ。シュウにも一枚あげるよ」
そういって手渡されたのは小さめにプリントされたルカの全身写真だった。写真館で撮ったものだろうか、ライティングも構図もポーズもまるでモデルのように決まっている。
ルカが正装――黒シャツ、ストライプ入りの白いスーツにファー付きのコート、お似合いの帽子まで完璧に揃えている写真を撮るのは珍しいと感じた。
「かっこいいね。こんなにキメた写真、どうしたの?」
「今日仕事で撮ったんだ」
着ていたコートとジャケットを脱ぎながら徐々にオフの彼に切り替わってゆく。モデルの仕事でも請け負った?と冗談半分で聞こうかとも思ったが、ルカが口を開くほうが一瞬早かった。
「……シュウ。こっちへおいで」
腰に巻いていた革製のホルスターまで外し、身軽な格好になったルカはシュウに向けて手を広げた。おかえり、の挨拶でもあるハグをする習慣はとっくに染み付いている。背の高いルカの腕に吸い込まれるように収まる。
……いつもより一段と力のこもった抱擁。僕が気付かないわけがないと、ルカも察しているはずだ。
「何かあったなら、僕が聞くよ」
「はは、大したことじゃないんだ」
「そんなふうには見えないよ」
僕の穿った言い方に観念するかのように、トーンの落ちた声で僕はそれを聞かされた。
「……その写真ね、俺に何かがあったときに使うんだよ」
はっと息を呑んだ。背中に回っているルカの手に、更なる力が加わり僕を離さない。
「たまに撮るんだ。お守りというか、ファミリーに伝わる願掛けみたいなものかな。」
紡ぐ言葉がない、もとい出てこない。そんなことあってほしくないとか、一人にしないでとか、縁起でもないことはやめなよとか、大変だねとか、色々頭に浮かんでは精一杯の呼吸とともに消えてしまう。
「シュウと出会う前までは何とも思ってなかったのに、今日これを撮るのにものすごく時間が掛かった。冷や汗が止まらなくて、脚も震えて。……シュウを遺して逝ったらどうなるのかって、考えちゃって」
「だめだよ」
人の思考と言動はその運命を引き寄せることがある。呪術師として何度も見て、経験してきた。安心して過ごしてほしいのに、僕がいるせいでその運命に引っ張られたらたまったもんじゃない。
「ルカ、僕の言う事を繰り返して」
「えっ……?うん、分かったよ」
僕も一つ深呼吸をしてから、言葉を続けた。
「俺は死なない」「俺は、死なない」
「俺は何も怖れない」「俺は何も怖れない」
「シュウが俺を守る」「No. 俺が、シュウを守る」
真剣に繰り返していたと思ったのにという反面、そこに現れた確固たる意志のこもった声に僕は安心した。いつも通りのルカだ。
固い抱擁もいつの間にか緩み、僕の顔を柔らかな笑顔で覗き込んでいた。
「この出番のない写真は大切にしまっておくね」
「はは、恥ずかしいけどそうしてほしいな」
ルカは照れた顔で僕に口づけを落とし、その美しくも縁起でもない写真は僕の宝物になった。