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    fesaikou

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    fesaikou

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    セリ-フ短編
    ⚠モブがめちゃくちゃ不快なことを言ってるので注意⚠

    今だけはその日は風が強かった。
    固く閉ざされた窓の外には暗闇と吹き荒れる風のみが在った。
    寝台にうつ伏せになり、セリスは本に筆で何かを書いていた。蝋燭の僅かな炎の光だけを頼りに、彼は書き綴っていた。
    やがて風が静まる夜更けになり、蝋燭は貴重だから使いすぎるなという忠告を思い出してセリスは火を吹き消す。身体を仰向けにして、暗い天井を見つめている。物思いに耽りつつ暫くの間目を少しも動かさずに見つめ続けた。
    寝台が軋む音が小さく聞こえたかと思うと、セリスはそこから降りて階下へ向かい始めた。
    暗い中で目を凝らして階段を下る。特にあてがある訳でもなく、ただ気まぐれに自室を飛び出したのであった。
    王族の城には、城内を巡回する兵が存在する。彼らには、例え軍の最高指揮官であるセリスであっても夜間の徘徊を注意する義務がある。彼らに見つかる可能性もあったが、今のセリスには自暴自棄な気持ちが宿っていた。
    見つかるなら見つかっても良い、どうにでもなってしまえという思いがあった。
    しかし夜中の城内はあまりにも暗く、彼は月明かりを求めてこっそり外へ出た。
    「…あ、貴方は…!?」
    城の外壁に寄りかかって空を見上げる人影。
    レンスターの王位継承者でありセリスの従弟にあたる、リーフがそこに居た。
    「…セリス様!? どうしてここに…」
    リーフは、自分以外は誰も来ないだろうという油断があったのか目を大きく開いてセリスを見上げた。
    「どうしてって……リーフ王子こそ、なぜこんな時間に?」
    「私はただ、なんとなく寝付けなくて。」
    「私も同じ理由で、ここへ。…隣に座っても?」
    頷いたリーフは横にずれてセリスの座る場所を作った。
    話すことも無く、彼らはぼんやりと月明かりに照らされた空を見上げた。
    セリスは隣に座る少年のことを考えていた。
    普段は、貴方は我々の「光」です、と言って眩しいくらいに輝く瞳で自分を見つめてくるリーフ。セリスは心の内で、寧ろ自分よりもリーフの方が「光」を持つ者に見えると思っていた。ただ、今はいつもと様子が違っている。
    普段では考えられない憂いを帯びた瞳、悩ましげな溜息。何より印象的なのは、頬に明らかに涙の痕があることだった。
    セリス自身は本当に寝付けずに外へ出ただけであったが、リーフは違う理由でここに来たようにも、彼には見えた。無性に理由が気になったが、本人に直接聞くのは憚られる。セリスはそう思い口を閉ざしたまま、沈黙を守った。
    「…あの、セリス様。私の顔に何か付いているのですか?」
    セリスは考えている内、無意識にリーフを食い入るように見ていたらしく、暫くの間見られ続けていたリーフは気まずそうに聞いてきた。
    「ああ、いや…」
    適当な返事が見つからず目を伏せる。
    「もしや、私がいつもと様子が違うのを不思議に思っておられるのでしょうか。」
    「…!」
    まさに図星で、セリスは何も言えずに固まった。
    「面白い話ではありませんが…お聞きになりたいですか?」
    セリスは躊躇いつつも興味が勝ったのか、
    「聞いても良いのなら、聞きたいです。」
    とリーフの目を覗き込んだ。
    「…私の血について、どこかの貴族が噂を流しているのを耳にしたのです。」
    リーフは肩を震わせて大粒の涙を零し、続ける。
    「その貴族曰く、『レンスターのリーフ王子とやらは、父キュアンが直系であるにも関わらずゲイボルグを使えない。よもや母エスリンの不貞の子ではあるまいな。』と…。」
    セリスは怒りと衝撃で頭が真っ白になり、目の前でしゃくり上げて泣き続けるリーフを凝視した。
    「…叔母上に、なんということを…!」
    「私は絶対に父上と母上の子です。それは断言できます。……しかし、その貴族の者はどうやらレンスター王家に何がしかの禍根があるようでした。だから、あんな噂を…。」
    セリスはそのような貴族が居ることを嘆き、頭を押さえる。
    「…その者に、王家への反逆罪か何かの処罰は与えたのですか?」
    リーフは途端に何かが決壊したように声を上げて泣き出した。
    「出来なかったんです。本当は暫くの間王城への出入り禁止を言い渡すつもりでした。でも、その貴族は大陸でもかなり有力な家系で、噂を流したくらいでは処罰を与えることが不可能だったのです。」
    セリスは絶句し、
    「そんな…」
    と言うことしか出来なかった。
    「フィンはいつも私に言います。この先、王族として嫌な貴族とも付き合っていかなければならない、それが父上と母上の望みだった、と。」
    セリスはふと尋ねる。
    「フィン殿に、先程のことは伝えたのですか?」
    リーフは首を振る。
    「…フィンには、伝えないようにします。父上へ絶対の忠誠を誓った彼に、こんなことを知らせてはならないと思ったから…。」
    セリスはそれを聞き、
    「では、このことはリーフ王子一人で抱え込んで居たのですね…。」
    と、胸苦しい思いを覚えた。
    リーフは俯く。
    「セリス様にも不快な思いをさせて、申し訳ありません。」
    「いや…貴方の苦しみを知ることが出来て良かった。辛かったでしょう。話してもどうにもできない事ですが…せめて私の前では、隠さずにいて下さい。」
    セリスは身体を少しずらしてリーフに近寄った。リーフはセリスに身体を寄せ、
    「セリス様。今だけ…どうか今だけ、貴方の隣で泣かせてください。」
    と、風に紛れて消えてしまいそうなほど小さく呟いた。セリスはリーフの髪を撫で、
    「貴方の望むままに。」
    と呟き返した。
    今の彼らに世界の望む「光」の輝きは無く、ただ変えようのない現実に対する悲哀が、「闇」の如く覆い被さっていた。
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