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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    出島での張り込みをする狡噛さんとそれを出迎える宜野座さん。
    800文字チャレンジ27日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    冷たい頰(浴室へ) 痩せた頬に触れると、そこは思ったよりもずっと冷たかった。俺はそれを迎え入れるように包み込み、そうしてしばらくの間さすって、鼻をこすりつけてキスをする。すると彼はそれを喜んで何度も俺にひげの生えかけたそこを押し付けて、優しいキスをねだる。俺たちは玄関で、もしかしたら誰かが見ているかもしれないそこでそんな馬鹿なことをする。愛情を確かめるようなことをする。人前に出て、確かめるようなことをする。けれど確かめたところで、愛情は去ってはいかないのだろうか? 俺には分からない。ずっと逃げられた人々しか見ていなかったから、幸せなそれが想像出来ないのだ。でも、彼は丁寧に頬をこすりつける。そして俺はキスをする。その繰り返しが、俺たちのおかえりの挨拶だった。
     狡噛が張り込みの任務を与えられたのは、一週間ほど前の話だった。とはいえ時代は小型ドローンなので、彼はただ出島のマーケットで麺を啜ったり煙草を吸ったり、本屋を回ったりしているだけでいい。何かが起こったら急行するだけなのだから、彼は休日を与えられたようなものだった。でもいつものように行動課のオフィスに彼がいないことは、俺の気を少しばかり病ませた。彼がいないことが日常になりやしないかと心配だったのだ。全く、馬鹿げているとは思うけれど。それが伝わったのかもしれない。彼がいないことが寂しくてたまらないのが伝わったから、彼は冷たい頬をこすりつけたのかもしれない。子どもが母親にそうするように、そんな子どもじみたことをしたのかもしれない。
    「ずいぶん冷えてる。一緒に風呂にでも入るか?」
     俺はふざける。すると彼もふざける。
    「お前が脱がしてくれるなら最高なんだけどな。それから俺をもっと温めてくれたらもっと最高」
     俺たちは馬鹿を言って浴室に駆け込む。多分、彼の言ったこと全部を俺はするんだろう。でもそれでいいんだ、許しすぎていると思うが、俺がそうしたいんだから。冷たい頬を甘やかして、愛情を伝えたくてたまらないんだから。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING宜野座さんが香水をつける理由と付けない理由。
    800文字チャレンジ49日目。
    薔薇の香水(煙草の代わりに) セクシーで魅力的な花城は、いつだって誰かに求められている。けれど本人にその気はないのか、誰かと飲みに行ったなんて噂はとんと聞かない。プレゼントを受け取ってくれと押し付けられているのは見たことがあるが、俺が知りうる限りアプローチを受けているのを見たのはそれだけだ。花城は仕事一筋な女で、東京の公安の霜月美佳をからかうのを趣味にしている以外は地味な女だった。勿論仕事は出来るし装いは美しい。艶やかな金髪、赤いひし形の石をはめたイヤリング、金色のラメが入ったピンク色のルージュ、やはりピンク色のマニキュアに、赤いセットバックヒール、大きく胸元が空いたスーツは高級ブランドのもの。唯一つけないのが香水で、それは潜入捜査に邪魔だからという理由だったからなのだが、今日はどうしてか彼女は薔薇の匂いをさせていた。ディプティックの甘い香り、よく似合ってはいるが、今日は重要な会談か何かが入っているのだろうか? 俺は変に突きたくなくて黙っていたが、ギノはそんなこと気にしていなかったのか、直接「課長、新しい香水か?」なんて聞いていた。花城はその言葉に綺麗な眉を吊り上げ、不機嫌そうに腕を組む。そして自分のデスクチェアに身体を預けると、「断れない案件があってね」とだけ言った。俺はそれで全てを察してしまって心の中で十字を切る。おおよそ上層部の誰かがおせっかいを焼いて誰かと引き合わせたか何かなのだろう。香水はその相手からのプレゼントだ、きっと。
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