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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    あたりまえであることの奇跡。
    800文字チャレンジ61日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    あたりまえの奇跡(それはやはり奇跡) 起きたらまずミルでコーヒーの豆を挽く。出島の自然食材マーケットで仕入れたものだ。そして湯を沸かしてドリップ。丁寧に、ふっくらとした泡が立つように。朝食は簡単なもの。昨日仕込んでおいたフレンチトーストに野菜を散らしたサラダ、それから砂糖を抜いてミルクを入れただけのコーヒー。腹持ちがよくないと困るからスクランブルエッグを焼いて、胡椒を挽く。果物は旬のオレンジを剥いて皿に盛る。ここまでを済ませると、ベッドルームから眠たげな目をした恋人がやって来る。
    「ギノ、先にシャワーにするか?」
     そう確認して、俺は彼の髪を撫でてやる。しかし彼は何も答えずに俺にもたれかかって、「ニュースを確認する……」とつぶやくばかりだった。キスの一つでもしてやりたいが、彼はそういうのを好まない、と言ったら言い過ぎかもしれないが、苦手な男だった。長く伸びた髪をすいてやるだけにする。
    「ほら、コーヒーを淹れたばかりなんだ」
     俺は彼を抱き止めながら、腕を引きながらテーブルへと誘う。するとギノはデバイスでニュースを確認しながら「水」とぞんざいに言った。俺は言われた通りにピッチャーから水を注ぐ。ライムとレモンを入れておいたものだ。彼はこれが好きだった。隅々まで身体が満たされているようだとよく言ったものだ。
    「今日は過去の事件の洗い直しか……。退屈だな」
    「そんなに現場に出たいか? 射撃訓練で満足してくれよな」
     そう言いながら俺はフレンチトーストをフォークでつつく。そうしてオレンジを口に放り込んでサラダを食べて、まだコーヒーしか飲んでいないギノの唇を指で触った。
    「キスでぽってりとしてる。こんなんじゃすぐにオフィスに行けない」
     からかうように言うと、彼は俺をきっとにらんで、どうしてくれると顔を赤く染めた。全くいつも通り可愛らしい。
     俺たちは食事をする。ゆっくりと、キスもせず、ただ食事をする。友人のように、家族のように。それがあたりまえじゃない奇跡なのは俺が充分分かっている。ようやく手に入れた奇跡だってことも。
     ギノがフレンチトーストにフォークを伸ばす。俺はそれを見て、愛されることとはこういうことかと思うのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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