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    Norskskogkatta

    @Norskskogkatta

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    Norskskogkatta

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    猫になった大倶利伽羅が主のところに結局来てしまう話

    ##君とひととせ

    大倶利伽羅、猫になったってよ「大倶利伽羅が猫になってしまったらしい……」
    「……今度は猫かぁ」
    刀剣男士はなにかと不安定なのだろうか。女の子の次は猫になったらしい。
    「その当事者はどうした?」
    「主に面会するよう言ったのだけど、どうせ言葉は話せないのだからと断られてしまったよ」
    初期刀が申し訳なさそうにするのをあいつだから仕方ないさと肩を叩く。
    運がいいのか悪いのか、今日は大倶利伽羅は出陣部隊ではなかった。顔を見せてくれないのは信頼されてないのかとほんの少し胸の内がもやつくが、この本丸の古参で伊達男の打刀だ。無様な姿を晒したくないと考えているのかもしれない。
    「あとで俺のほうから様子を見に行くからさ、そこまで気にするなよ蜂須賀」
    「そうだね、まずは今日の仕事を片付けてしまおう」
    すぐに切り替えてくれた近侍といつも通りに仕事をこなしていく。それにしても、新年が明けてから何かと忙しい。まだ始めたばかりだというのに目が霞む。
    歳を重ねてはいるがまだ老眼が始まる年齢ではないはずだと目頭を押さえながら端末の画面や資料と睨めっこが続いた。

    ▲▲△△▲▲△△▲▲

    今日は朝から碌なことがない。
    起きた時から布団がやたら重く感じ、起きだそうとすれば視界に入る手は濃茶の毛皮に覆われて、意識しないと爪が布に引っかかる。声を出してみれば獣の声で、姿見の前に行けば目つきの悪い金瞳の毛深い猫がいた。
    (……今度は猫か)
    人の身を得たはずのこの身体が変容するのはこれが初めてではない。女になった時は一晩で戻ったし、他の本丸でも時折あるらしい、というのもその後調べたらしい主から聞いている。
    (今回も時間が経てば治る類のものか、もしくは……)
    昨日までの主の様子を思い出し、ため息をつく。近侍が上手く立ち回るだろうから、今日は部屋で大人しくしているに限る。
    鏡の前で神妙な顔つきの猫を一瞥してから近侍に知らせに行く。何も言わずに隠れて行方不明だなんだと騒がれても面倒だ。
    近侍の部屋に向かい、姿を見せれば驚きながらもすぐに事情を察した。主に会うよう言われたがあったところで何かが変わるわけでもない。
    (どうせまたくどくどと考え込み始めるだろうしな)
    用は済んだと自室へ戻る時、執務室の戸は開けておくからと聞こえたが返事はしなかった。
    主の部屋へは行かないつもりだった。
    ーーつもり、だったのだ。昼下がり、尾も耳も立てる気力がない。案の定、朝餉の席にいなかったからか、世話焼きと面白がる面倒な奴らに見つかって構われそうになった。この身体になって良かったのは狭い場所に入れるし普段より小回りが効くことか。どうにか逃げ切って、気づけば執務室の前へと来ていた。
    主が仕事をするからこの辺りは常時静かだ。
    (本当に開けておいたのか)
    閉めることが多い廊下側の襖が拳ひとつほど開いている。これなら何もせずとも入れるが、中からは物音がしない。どちらも不在にしているのかと覗き込めば主が倒れ込んでいた。
    (なぜ蜂須賀はいない! まさか襲撃、に……)
    駆け寄って覗き込めば、なんのことはない。微かに寝息を立てて眠っていた。紛らわしい。
    短く肉球のついた手でだらしなく緩んだ頬を叩いてみても寝言を言うだけで起きる気配がない。
    普段仕事をする文机の前に倒れていて座っていたところから後ろにでも倒れ込んだのだろう。仕事中に寝るなんてと主の顔の前に腰を下ろして隈の滲む目元を見ていると声がかけられた。
    「やあ、来ていたんだね」
    「……にゃ」
    「疲れていそうだったから、休んでもらったんだ。もしかしたら君の状況に主の不調が関係しているんじゃないかと思って」
    目が覚めた時のためか、茶をのせた盆を抱えた近侍だった。審神者の不調に起因する可能性も、以前に聞いた。
    「俺は明日の編成を皆に伝えてくるよ。ここを任せてもいいかい?」
    「……にゃあ」
    返事代わりに長い毛の尾を左右に振れば蜂須賀は静かに笑って出て行った。おそらく気を遣わせた。
    まだ眠っている主の顔を見つめながら、ため息をついても猫の鳴き声だった。どうしようもないので寝ることにした。

    ▲▲△△▲▲△△▲▲

    へとへとになって倒れ込んだ先にあったふわっふわの毛並みに顔を埋める。とくとく、小さな心音と自分より少し高い体温は心地が良過ぎる。いつまでも寝ていたい。
    「ん……ん? なんだ……?」
    顔の半分がふわふわで暖かい。夢なのか、現実なのかが曖昧だ。暖かなふわふわの方へと顔を傾ければ濃茶の毛並みがくっついていた。見慣れた色の、少し質感の違うそれを手探りで掴むとぽすんと毛並みが顔に降ってきた。
    「うわっ……尻尾? もしかして大倶利伽羅?」
    どうやら当たりらしい。もう一度ふわふわの尻尾で顔を叩かれる。というよりはのせてくるぐらいの優しさだ。
    大倶利伽羅の方へと寝返りを打てば、眼前には顔ではなく尻があった。尻尾で叩かれたのだから当たり前なのだが、顔が見たくて抱き寄せれば大人しくされるがままだった。ぴんと立った三角の耳に、左前足だけにある縞模様、尻尾の先が少しだけ赤い。そして、いつもと同じ色の金瞳だ。
    きっと猫の姿でも凛々しい表情のはずだろうに、今は少し元気がなさそうだった。
    「この毛並みだもんなあ、みんなに構い倒されでもしたか?」
    腕の中を覗き込めながら聞けば、小さな鼻の頭にぎゅっと皺が寄る。三角の耳もぺたんと横になってしまった。当たりらしい。
    撫でやすそうになった頭に、つい手のひらを置くと小さな頭はすっぽりと収まってしまう。それに嫌がる素振りはなく、そのまま撫でて抱きしめる。それでもまだ大倶利伽羅は腕の中だ。
    許してくれるうちにと、ふわふわの後頭部に顔を埋め、深呼吸をする。
    「ぅう゛ゃっ!」
    「ははっ! 何言ってるかわかんないよ!」
    ついにじたばたと暴れだすが、逃げるつもりはないのだろう。爪を出して引っ掻いた隙に、という手段もあるのにそれをしないのだから。
    そして、構われるのを嫌って逃げてきた先が自分なのかと思えば疲労も吹っ飛ぶというものだ。
    「はあ、よし! 仕事するか」
    そろそろ解放してやろうと頬あたりにキスをしたときだった。ぽん!という破裂音に身構えていると。腕の中が急に重くなった。爆発みたいに煙がたって何が起こったのかよくわからない。
    「え、なんだ……?」
    「……やっとか」
    聴き慣れた声に、覚えのある抱き心地だった。煙が晴れてくると、眼前に呆れたような表情の人の顔があった。
    「大倶利伽羅! 元に戻れたんだな、って裸じゃないか!」
    腕の中には素っ裸の大倶利伽羅がいた。猫耳も、尻尾もない青年の姿をした彼に飛び起きて羽織っていたものをかけてやる。大倶利伽羅も起き上がって胡座をかくが、羽織の丈が短くて腰元は丸見えだ。
    最近一緒に過ごす時間が取れていないから刺激が強い。そっと顔を背ける。
    「びっくりした……今着替えもってくるから」
    「いい。このまま部屋に戻る」
    「そんな格好でうろつくなよ!」
    「慌てすぎだろう、ここには男しかいないんだぞ」
    「そっ! それは、そうだけど……!」
    たしかに女の子のいない男所帯だけど、それでも大倶利伽羅の裸を晒すのはしたくない。
    「……俺が嫌なんだよ」
    「俺が裸で執務室から出てきて勘繰られるからか」
    「え? あー、そういうのもあるか……」
    「違うのか」
    「大倶利伽羅の裸を他の奴に見られるのが嫌なの。だからちょっと待っててくれ。すぐ用意するから」
    大倶利伽羅とはそこまで体格差がないから自室から適当にジャージを持ってくればいいかと腰をあげた瞬間、ぐっと腕を掴まれて引き下ろされる。畳に手をついて尻餅を回避したが、顔を掴まれた。
    「んっ?! んぐっ!」
    「ん……」
    唇を塞がれる、ぬるりと舌が入り込んだきた。こちらの欲を掻き立てるように薄い肉が口の中で動き回る。
    相手は裸で、キスを仕掛けてきて、でも今は昼間で、執務室でーー。
    「っぷは! こら! 大倶利伽羅」
    「あんたがあんまりいじらしいことを言うからだろ。今夜あけておけ」
    数日ぶりの触れ合いに鈍りそうになった思考を働かせてどうにか押し退けると、裸に羽織を肩にかけただけの大倶利伽羅が自分の唇を親指で拭う。
    さっきの猫の愛くるしさはどこへやら。獲物を逃さない肉食獣のような金色にどんなに忠告しようとしても、結局は首を縦に振るしかなくなるのは経験上わかってしまった。
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    Norskskogkatta

    Valentine主くり♂くり♀のほのぼのバレンタイン
    料理下手なくり♀が頑張ったけど…な話
    バレンタインに主にチョコ作ろうとしたけどお料理できないひろちゃんなので失敗続きでちょっと涙目で悔しそうにしてるのを見てどうしたものかと思案し主に相談して食後のデザートにチョコフォンデュする主くり♂くり♀
    チョコレートフォンデュ一人と二振りしかいない小さな本丸の、一般家庭ほどの広さの厨にちょっとした焦げ臭さが漂っている。
    執務室にいた一振り目の大倶利伽羅が小火になってやいないかと確認しにくると、とりあえず火はついていない。それから台所のそばで項垂れている後ろ姿に近寄る。二振り目である妹分の手元を覗き込めば、そこには焼き色を通り越して真っ黒な炭と化した何かが握られていた。
    「……またか」
    「…………」
    同年代くらいの少女の姿をした同位体は黙り込んだままだ。二振り目である廣光の手の中には審神者に作ろうとしていたチョコレートカップケーキになるはずのものがあった。
    この本丸の二振り目の大倶利伽羅である廣光は料理が壊滅的なのである。女体化で顕現したことが起因しているかもしれないと大倶利伽羅たちは考えているが、お互いに言及したことはない。
    2051

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    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    ちょもさんが女体化したけど動じない主と前例があると知ってちょっと勘ぐるちょもさん
    滅茶苦茶短い
    「おお、美人じゃん」
    「呑気だな、君は……」

     ある日、目覚めたら女の形になっていた。

    「まぁ、初めてじゃないしな。これまでも何振りか女になってるし、毎回ちゃんと戻ってるし」
    「ほう」

     気にすんな、といつものように書類に視線を落とした主に、地面を震わせるような声が出た。身体が変化して、それが戻ったことを実際に確認したのだろうかと考えが巡ってしまったのだ。

    「変な勘ぐりすんなよ」
    「変とは?」
    「いくら男所帯だからって女になった奴に手出したりなんかしてねーよ。だから殺気出して睨んでくんな」

     そこまで言われてしまえば渋々でも引き下がるしかない。以前初期刀からも山鳥毛が来るまでどの刀とも懇ろな関係になってはいないと聞いている。
     それにしても、やけにあっさりしていて面白くない。主が言ったように、人の美醜には詳しくはないがそこそこな見目だと思ったのだ。

    「あぁでも今回は別な」
    「何が別なんだ」
    「今晩はお前に手を出すってこと。隅々まで可愛がらせてくれよ」

     折角だからなと頬杖をつきながらにやりとこちらを見る主に、できたばかりの腹の奥が疼いた。たった一言で舞い上がってしまったこ 530

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    桃を剥いてたべるだけのさにちょも
    厨に行くと珍しい姿があった。
    主が桃を剥いていたのだ。力加減を間違えれば潰れてしまう柔い果実を包むように持って包丁で少しだけ歯を立て慣れた手付きで剥いている。
    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
    「一個しか買わなかったからな」
    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
    「まあ共犯だ」
    「君はまたそう言うものの言い方を……」
    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
    「雛鳥に餌やってるみたいで楽しかったぜ」
    「…………わすれてくれ」
    差し 588

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    MOURNING主くり
    支部のシリーズに出てくるふたりのその後
    煙草じゃなくて


     昼食も終わり、午後の仕事を始める前の煙草休憩。再び癖となってしまったことに蜂須賀は顔を顰めたが、すまないとだけ言っている。
     まあ、目的は単に紫煙を揺らすだけではないのだが。
    「またここに居たのか」
    「タバコ休憩な」
     玉砂利を踏み締める音を立ててやってきたのは大倶利伽羅だ。指に挟んだ物をみせるとあからさまに機嫌が悪くなる。それがちょっと可愛く思えてどうにもやめられずにいる。
     隣に並んだ大倶利伽羅をみて刀剣男士に副流煙とか影響するのだろうかと頭の片隅で考えながらも携帯灰皿に捨ててしまう。そうするまでじっとこちらを見ているのだ。
     しっかりと見届けてふん、と鼻を鳴らすのが可愛く見える。さて今日はなにを話そうか、ぼんやりしているとがっしりと後頭部を掴まれる。覚えのある動作にひくりと頬が引きつった。
    「ちょっ、と待った」
    「なんだ」
     気づけば近距離で対面している大倶利伽羅に手のひらを翳して動きを止める。指の隙間から金色とかち合う。普段は滅多に視線を合わせやしないのに、こういうときだけまっすぐこちらを見てくる。
    「お前なにするつもりだ」
    「……嫌なのか」
     途端に子犬 910

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    MOURNING主くり
    伊達組にほのぼのと見守られながらのおやつタイム
    伊達組とおやつ


     ずんだにおはぎに色とりどりのフルーツがのったタルト、そして一等涼しげな夏蜜柑の寒天がちゃぶ台を賑わせる。
     今日は伊達の四振りにおよばれしてのおやつタイムとなった。
     燭台切特製のずんだに意外とグルメな鶴丸の選んできた人気店のおはぎ、太鼓鐘の飾りのようにきらきらと光を反射するフルーツののったタルトはどれも疲れた身体に染みるほどおいしいものだった。
     もっと言えば刀剣男士達とこうしてゆっくり話ができるのが何よりの休息に思う。
     本丸内での面白エピソードや新しく育て始めた野菜のこと、馬で遠乗りに出かけたこと、新入りが誰それと仲良くなったことなど部屋にこもることが多い分、彼らが話してくれる話題はどれも新鮮で興味が尽きない。
     うん、うんと相槌を打ちながら、時折質問をして会話を楽しんでいると、燭台切がそういえばと脈絡無くきりだした。
    「主くんって伽羅ちゃんに甘いよね」
     それぞれもってきてくれたものに舌鼓をうって、寒天に手を着ける前にお茶を口に含んだ瞬間、唐突に投げられた豪速球にあやうく吹きかけた。さっきまで次の出陣先ではなんて少し真面目な話になりかけていただけに衝撃がす 2548

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    MOURNING主くり
    花火景趣出たときにハイになってかいた。
    花火見ながら軽装姿の嫁といちゃつくだけ
    いつもの執務室とは違う、高い場所から夜空を見上げる。
    遠くでひゅるる、と音がしたあと心臓を叩かれたような衝撃とともに豪快な花が咲く。
    真っ暗だった部屋が花の明かりで色とりどりに輝く。それはとても一瞬でまた暗闇に戻るがまたひゅるる、と花の芽が音をなし、どんと花開く。
    「おお、綺麗だな」
    「悪くない」
    隣で一緒に胡座をかく大倶利伽羅は軽装だ。特に指定はしていなかったのだが、今夜一緒にどうだと言ったら渡したとき以来見ていなかったそれを着て来てくれた。
    普段の穏やかな表情がことさら緩んでいるようにも見える。
    横顔を眺めているとまたひゅる、どんと花の咲く音ときらきらと色があたりを染めては消える。
    大倶利伽羅の金色がそれを反射して瞳の中にも咲いたように見える。ああ。
    「綺麗だな」
    「そうだな、見事だ」
    夜空に視線を向けたままの大倶利伽羅がゆるりと口角を上げた。それもあるんだが、俺の心の中を占めたのは花火ではないんだけどな。
    「大倶利伽羅」
    「なんだ」
    呼び掛ければすっとこちらを見てくれる。
    ぶっきらぼうに聞こえる言葉よりも瞳のほうが雄弁だと気づいたのは付き合い始めてからだったかなと懐かしみながら、 843

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    梅雨の紫陽花を見に庭へ出たら大倶利伽羅と会っていつになったらふたりでいられるのかと呟かれる話
    青紫陽花


    長雨続きだった本丸に晴れ間がのぞいた。気分転換に散歩でもしてきたらどうだろうと近侍の蜂須賀に言われて久しぶりに外に出る、と言っても本丸の庭だ。
    朝方まで降っていた雨で濡れた玉砂利の小道を歩く。庭のあちらこちらに青紫色や赤色、たまに白色の紫陽花が鞠のように咲き誇っている。
    じゃりじゃりと音を鳴らしながら右へ左へと視線を揺らして気の向くまま歩いて行く。広大な敷地の本丸の庭はすべて散策するのはきっと半日ぐらいはかかるのだろう。それが端末のタップひとつでこうも見事に変わるのだから科学の進歩は目覚ましいものだ。
    「それにしても見事に咲いてるな。お、カタツムリ」
    大きく咲いた青紫の紫陽花のすぐ隣の葉にのったりと落ち着いている久しく見なかった姿に、梅雨を実感する。角を出しながらゆったり進む蝸牛を観察していると、その葉の先端が弾かれたように跳ねた。
    「……うわ、降ってきた」
    首の裏にもぽつんと落ちてきて反射的に空を仰げば、薄曇りでとどまっていたのが一段色を濃くしていた。ここから本丸に戻ろうにもかなり奥まで来てしまった。たどり着くまでに本格的に降り出してきそうな勢いで頭に落ちる雫の勢いは増 3034

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    徹夜してたら大倶利伽羅が部屋にきた話
    眠気覚ましの生姜葛湯


     徹夜続きでそろそろ眠気覚ましにコーヒーでもいれるかと伸びをしたのと開くはずのない障子が空いたのは同時だった。
    「まだ起きていたのか」
     こんな夜更けに現れたのは呆れたような、怒ったような顔の大倶利伽羅だった。
    「あー、はは……なんで起きてるってわかったんだ」
    「灯りが付いていれば誰だってわかる」
     我が物顔ですたすた入ってきた暗がりに紛れがちな手に湯呑みが乗った盆がある。
    「終わったのか」
    「いやまだ。飲み物でも淹れようかなって」
    「またこーひー、とか言うやつか」
     どうにも刀剣男士には馴染みがなくて受け入れられていないのか、飲もうとすると止められることが多い。
     それもこれも仕事が忙しい時や徹夜をするときに飲むのが多くなるからなのだが審神者は気づかない。
    「あれは胃が荒れるんだろ、これにしておけ」
     湯呑みを審神者の前に置いた。ほわほわと立ち上る湯気に混じってほのかな甘味とじんとする香りがする。
    「これなんだ?」
    「生姜の葛湯だ」
     これまた身体が温まりそうだ、と一口飲むとびりりとした辛味が舌をさした。
    「うお、辛い」
    「眠気覚ましだからな」
     しれっと言 764