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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチの身体のパーツが損傷して取り替えられる話。何度もパーツを変えたロボットは同じものと言えるのか?という話でもあります。

    ##TF主ルチ

    テセウスの船 大通りから離れると、人通りはぐっと少なくなった。耳を刺すような喧騒は遠ざかり、優しい静けさが僕たちを包み込んでくれる。聳え立つ建物で太陽の日差しが隠れるから、昼でも地面は薄暗い。まだ明るい時間帯なのに、おどろおどろしい空気がした。
     路地裏に足を踏み入れる時、僕は緊張に身体を強ばらせてしまう。人の目が届かない場所というのは、敵に命を狙われやすいのだ。ルチアーノに先導されながら、キョロキョロと周囲を見渡す。とはいえ、僕が意識を向けたところで、敵の姿など見つけられるわけがなかった。
     道を半分ほど進んだところで、不意にルチアーノが振り向いた。真っ直ぐに僕を見上げると、耳元に顔を近づけてくる。
    「そこから動くなよ」
     僕を壁際に誘導すると、胸を張るように路地へ出た。光の粒子で武器を生成すると、通りに響き渡る声で告げる。
    「出てこい!」
     ルチアーノの言葉に応じるように、路地の隙間や物陰から黒い服の男たちが飛び出してきた。三人の男がタイミングを合わせてルチアーノを襲撃する。彼は一人を武器で牽制しながら、一人を足で蹴り飛ばした。残り一人の奮ったナイフが、深々と右の腕に突き刺さる。
     右腕をだらりと垂らしたまま、ルチアーノは男たちの足元を払った。バランスを崩した二人の男が、武器を落として地面へと手を付く。そこに止めを刺すように、彼は足を振り下ろした。その間にも、手にした武器はもう一人の男を捉えている。
    「無事だったか?」
     簡単に敵を一掃すると、ルチアーノは僕の元へと歩み寄る。余裕そうな言葉とは裏腹に、右腕は力なくぶら下がっていた。服には肩から肘にかけての縦線が入っていて、痛々しい金属の裂け目が覗いている。彼が歩を進める度に、その腕はゆらゆらと左右に揺れた。
    「ルチアーノ!? 腕、大丈夫?」
     慌てて駆け寄るが、彼はけろっとした様子だった。ちらりと腕に視線を向けると、何事もなかったかのように語る。
    「これくらい、大したことないよ。神に直してもらえば一瞬だ」
    「でも、それじゃあ任務なんてできないよ」
     無意味だと分かっていても、僕は食い下がってしまう。腕がぶら下がっているのだ。このままでは、デュエルをすることすらできないだろう。刺客に襲われたらどうすることもできない。
    「そうだな。神に直してもらうから、君は家で待っていてくれ。任務はそれからやればいいさ」
     そう言うと、ルチアーノは僕の身体に左手を触れた。光の粒子が僕たちを包み、空間をぐにゃりと歪める。気がついた時には、一人で自分の家の中に立っていた。

     ルチアーノの修理が終わるまで、僕は少しも落ち着けなかった。彼は大丈夫だと言っていたが、やっぱり心配だったのだ。腕は根元からダメになっていたし、中の電子機器まで抉られていた。彼がアンドロイドでなかったら、致命傷になっていたかもしれない。
     ぐるぐると部屋の中を歩き回りながら、ただひたすらに時間を潰す。ルチアーノのことが気になって、何も手につかなかったのだ。特に意味もなくテレビを付け、座っては立ってを繰り返す。せっかくの空き時間なのだが、そんなことは考えられなかった。
     彼が帰ってきたのは、二時間ほど経った頃だった。光の粒子が部屋を包み込んだかと思うと、人間の姿が飛び出してくる。全身を白い布に身を包んだ姿は、紛れもなくルチアーノだった。
    「待たせたな」
     にやりと笑いながら、彼は僕の前に歩み寄る。右手を前に出すと、何度か握っては開いていた。見たところ、腕の傷は綺麗に直されているようだ。縦に裂けていた服の布地も、同じように直されている。
    「おかえり、大丈夫だった?」
     尋ねると、彼はきひひと笑い声を上げた。僕が心配していることが、彼には面白くて仕方ないらしい。こっちは本気で心配していたのにと思いつつも、大丈夫そうであることに安心する。
    「心配しなくていいって言っただろ。損傷が深かったから、神に腕ごと取り替えてもらったんだ。間接の動きも良くなったし、なかなかいい感じだぜ」
     弾んだ声で語りながら、彼は右腕を見せつけてきた。左手と共に前に伸ばして、閉じては開いてを繰り返す。僕には人間の腕にしか見えないが、彼にとっては違いがあるのだろう。ロボットなのだから、経年劣化なんかもありそうだ。
     両手を動かす姿を見ていたら、不意に疑問が沸いてきた。彼はこれまでにも、パーツ交換をしたことがあるのだろうか。一度疑問に思ったら、気になって仕方なくなってしまった。
    「ねえ、ルチアーノ」
    「なんだよ」
    「ルチアーノって、身体のパーツを取り替えたりとかするの?」
     僕が尋ねると、ルチアーノはきひひと笑った。呆れたような顔を見せながら、弾んだ声のままに語る。
    「当たり前だろ。僕たちは長い間を生きてるんだ。パーツだって劣化するし、損傷することもある。一度も取り替えてなかったら、今ごろスクラップになってるぜ」
     そんな明るい態度とは裏腹に、僕は背筋が震える思いがした。彼の身体は何度か壊され、その度にパーツを取り替えられているのだ。彼が背負う任務の重さを、改めて見せつけられた気分だった。
    「そうなんだ……。じゃあ、身体の半分くらいは、違うパーツになってるんだね」
    「半分どころじゃないぜ。劣化して機能が落ちる度に、パーツを取り替えてメンテナンスしてるからな。最初に作られたときのパーツなんて、ひとつも残ってないだろうよ」
     何気なく口に出した言葉は、何倍にも増えて返ってきた。その言葉の含んだ重みに、僕はまた心臓が冷える思いがする。彼の言葉を信じるとしたら、その身体は当初とは別物になっているのだ。テセウスの船の話を思い出して、頭が混乱しそうになる。
    「でも、さすがに脳は取り替えしてないでしょ? 頭を取り替えたりしたら、今のルチアーノじゃなくなっちゃうし」
     震える声で尋ねるが、彼はケラケラと笑い声を上げた。呆れ顔を見せると、からかうような声音で言う。
    「取り替えてるに決まってるだろ。機械のプログラムなんだから、コピーすればいくらでも作れるんだ。一度も交換しなかったら、それこそデータが消えておしまいだぜ」
     当たり前のように言われているが、僕には恐ろしくて仕方なかった。目の前にいるルチアーノは、生まれた時のルチアーノとは違う身体を持っているのだ。身体はともかく、脳まで作り替えてしまったら、それまでのルチアーノではなくなってしまう気がした。
    「でも、それって、本当にルチアーノだって言えるの? 身体も頭も、最初のルチアーノとは違うものになってるんでしょ? そうなったら、もう別人なんじゃない?」
     尋ねると、ルチアーノはケラケラと笑った。僕の質問が面白いのか、さっきから上機嫌な態度である。意地悪なことに、目元までにやにやと歪めていた。
    「同じだよ。思考データはアップデートされてるけど、パターンは変更されてない。積み重ねた記憶だって、全部残して引き継いでるんだ。テセウスの船とか言いたいんだろうけど、それはお門違いだぜ」
     図星を付かれて、僕は言葉に詰まってしまう。僕が気にしていた全てのことを、彼は一言で答えてしまったのだ。返事に困っている僕に、彼は畳み掛けるように語る。
    「それに、人間だって同じことだろ。君たちの身体の細胞は、日々新しいものに入れ替わってるんだ。数年前の君の身体と、今日の君の身体は、パーツを構成する組織が違うんだぜ。それでも、君という人間は、君のまま変わらないだろう?」
    「そう、だけど……」
     彼に説得されたら、なんだかその通りだと思ってしまう。続ける言葉が思い付かなくて、そのまま口を閉じた。黙り込む僕に向かって、ルチアーノが意地悪な笑みを浮かべる。
    「だから、君も深いことは気にしない方がいいぜ。そんな哲学的なことを考えてたら、気が狂っちまうからな」
     そう語る彼の声色は、どこか自虐的な響きを帯びていた。彼もかつて、テセウスの船の思考実験を考えたのだろうか。疑問に思いはしたものの、尋ねることはできなかった。
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