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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    カプ要素メインではないTF主ルチ。ルチがTF主くんの買い物を待ってる間に迷子の子供を助ける話です。

    ##TF主ルチ

    迷子「買いたいものがあるから、ちょっと寄り道してもいい?」
     大型ショッピングモールの片隅にある、小さな電気屋の前で立ち止まると、青年はこっちを振り返ってそう言った。鞄を開け、中から小さな紙切れを取り出す。
    「すぐに戻ってこいよ」
     僕は気のない返事をした。こんな場所に用事はないし、僕は電気屋という場所が嫌いなのだ。僕が発するモーメントエネルギーは、電化製品に影響を与えてしまうらしい。逆もしかりで、電化製品が発する電磁波は、僕に妙な不快感を感じさせた。以前に面倒な目にあって以来、電気屋には近づかないようにしていたのだ。
     返事を聞くと、彼はそそくさと店内へと入っていく。盗み見た紙切れには、商品名が五つくらい記されていた。彼は機械に詳しいわけではないが、疎い訳でもない。しっかりと吟味する性格だから、十分どころでは済まないだろう。
     店の外に佇むと、モールの様子を眺める。それなりに賑わっているようで、制服に身を包んだ子供たちや、幸せそうに笑う家族連れ、しっかりと手を繋いだカップルなんかが、ひっきりなしに通りすぎていく。
     待つという行為は、どこまでも退屈だ。目の前の様子を眺めながら、ただひたすらに時間を数える。この町に来てから、僕は待ってばっかりだ。退屈を感じることが多かった。
     見るともなしに人の流れを見ていると、目の前を小さな影が横切った。身体の小さな男の子が、たった一人で歩いている。まだ、未就学児なのだろう。僕よりも頭ひとつは小さかった。
     その子はきょろきょろと周囲を見渡して、不安そうに下を向いた。近くに保護者らしき大人の姿はない。どうやら迷子らしかった。
     僕は、子供から視線を反らした。迷子を見つけたら、迷子センターに連れていくのが人間の常識なのだろう。でも、僕は人間ではなかったし、面倒なことには関わりたくなかったのだ。こういうのの対応は大人がやるべきだろう。迷子を助けて、僕まで迷子として扱われたら、余計に面倒なことになるからだ。
     子供は不安そうに周りを見ながら、通りの向こうへと去っていった。小さな後ろ姿が、少し遠くに見える。そのまま消えていったかと思ったが、しばらくうろうろと歩き回ると、再びこちらに戻ってきた。
     子供が顔を上げた。つい目を合わせてしまって、息が止まりそうになる。男の子は、ポロポロと涙を溢していた。
    「パパ、ママ…………」
     僕の方を見ながら、小さな声で子供が言った。鼻を啜り上げ、小さく肩を震わせている。目を逸らそうとするが、なぜか身体が動かなかった。
     周りを行き交う大人たちは、子供には見向きもしない。彼らの位置からは、子供の泣き顔が見えないらしい。それとも、彼を僕の身内だと思っているのだろうか。
    「パパ……、ママ……、どこ?」
     子供が、再び声を上げる。周りを見ると、顔を覆うようにしてその場にしゃがみこんだ。
    「ああ、もう!」
     僕は、子供の方へと歩み寄った。放っておけばいいのに、なぜかそうできなかった。子供の泣き声を見る度に、胸が引き裂かれるような思いがしたのだ。
     子供が驚いた顔で僕を見上げた。くりくりとした両目が、真っ直ぐに僕を見る。少しの苛立ちを感じながら、僕は声をかけた。
    「あんた、迷子だろ。どこではぐれたんだ?」
     子供が怯えたような顔をする。目を潤ませ、大粒の涙を流し始めた。言葉が強すぎたのだろう。これだから、子供の相手は面倒だ。
    「泣くなって。パパとママを探してるんだろ?」
     少し優しく尋ねると、泣きながらも頷いてくれた。会話が成立することに安心しながら、次の言葉を探す。
    「どこではぐれたんだ?」
    「わかんない」
    「この階? それとも、別のところ?」
    「わかんない」
    「パパとママは、どんな服を着てるんだ?」
    「赤、だった」
     いくつか質問をするが、不明瞭な答えしか返ってこない。初めから会話など期待していなかったが、こうも伝わらないと面倒だ。
     やっぱり、迷子センターに連れていくしかない。青年が戻ってくる可能性があるが、ここまで関わってしまったら後には引けなかった。
    「これから、パパとママを探してくれる人のところに行くよ。分かったならついてきな」
     目を見て告げると、子供は理解してくれたみたいだった。神妙な面持ちで頷く。
     子供の手を引くと、一階の案内所へと向かった。幼い子供を引き連れて歩く僕は、周囲の大人たちからは兄弟のように見えるのだろうか。こんなに面倒なら、僕は兄弟なんていらない。
    「どうかなさいましたか?」
     僕たちの姿を見ると、受付の女性は優しく声をかけてきた。子供二人だが、言葉遣いは丁寧だ。
    「迷子を見つけたから、連れてきたんだ」
     僕が言うと、女性は隣の子供に視線を向けた。涙目の子供を見て、微笑みを浮かべながらカウンターから出てくる。屈んで視線を合わせると、優しい声で言った。
    「ママとはぐれちゃったの?」
     子供が頷く。女性は優しく微笑むと、包み込むような声で言った。
    「それは、寂しかったね。もう大丈夫だよ」
     子供の手を引くと、カウンターの中に入っていく。別の職員に何かを話し、子供を預けると、今度は僕の方を振り返った。
    「貴方が連れてきてくれたんですね。ありがとうございます」
     にこやかに微笑まれ、戸惑ってしまった。褒められるようなことはしていない。僕は、この子供を放置するつもりだったのだから。
    「別に、褒められることじゃないよ」
     答えると、女性は小さく首を振った。子供を褒める大人特有の語調で、僕に語りかける。
    「いえ、迷子を助けるなんて、簡単にできることじゃないんですよ。大人にだって難しいことなんです。そんなすごいことを、貴方はしてくれたのですから」
     別に、助けたくて助けた訳じゃないのだ。ただ、放っておけなくなってしまっただけで、最初から助ける気なんて微塵もなかった。そんなことだから、褒められても困るだけだった。
     僕は、何も答えられなかった。話を終えると、女性は仕事に戻っていく。僕もその場を離れることにした。
     どうして、あの子供を放っておけなかったのだろう。考えてもわからない。ただ、泣き顔を見ていたら、どうにかしなくてはと思ったのだ。それで、気づいたら身体が動いていた。こんなこと、今までになかったのに。
     案内所を出ると、急いで電気屋へと向かった。彼が買い物を始めてから、かなりの時間が経っている。買い物を終えて、僕を探していると思ったのだ。
     青年は、電気屋の前にいた。心配そうに周りを見渡している。僕の姿を見つけると、安心したように駆け寄ってきた。
    「ルチアーノ! 良かった……! 急にいなくなったから、迷子になったのかと思ったよ」
     迷子。その言葉が少し癪に触った。僕は迷子になったのではない。迷子を送り届けていたのだ。勘違いされたくはない。
    「僕が迷子になるわけないだろ。逆だよ。迷子を案内所まで送り届けてたんだ」
     答えると、彼は驚いたような顔をした。まじまじと僕を見つめて、半信半疑の声で言う。
    「ルチアーノが、迷子を……?」
    「なんだよ。僕だって、人助けくらいするさ」
     突き放すような態度で言うと、彼は優しく笑った。大きな手を伸ばして、僕の頭を撫でる。
    「そっか、ルチアーノは、優しいね」
     こいつも、僕のことを褒めようとする。どうして、人間はこんなことで僕を褒めるのだろう。
     僕は、褒められるような存在じゃない。みんな、勘違いしているのだ。僕が、善意で行動したと思っている。
     でも、それは違うのだ。偽物の善行で褒められても、嬉しくはない。なんだか、居心地の悪い気持ちだ。彼の顔を見たくなくて、僕はその場に俯いた。
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