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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチがTF主くんのコーディネートをする話。目元の隠れてるキャラの素顔が美人なのは王道設定だよねって話です。

    ##TF主ルチ

    素顔「君、前髪を切る気はないのかよ」
     ある日の午後、ルチアーノは唐突にそう言った。
    「へ?」
     僕は顔を上げた。今はお昼ご飯の最中で、目の前にはラーメンが湯気を立てている。
     ルチアーノは、正面の席から僕を見つめた。熱い視線を真っ直ぐに受けて、顔が熱くなってしまう。そんな僕の様子など気にも留めずに、彼は言葉を続けた。
    「どう見ても長すぎるだろ。いい加減切れよ。そのままだと、コモンドールみたいだぜ」
    「コモンドール……?」
     僕は疑問符を浮かべる。彼の言葉の意味が理解できなかったのだ。前髪の長さを指摘されたことは理解できる。でも、コモンドールとはなんだろう。
    「調べてみなよ。君にそっくりだからさ」
     ルチアーノはにやにやと笑う。何となく、からかわれていることは分かった。
     ラーメンを食べ終えると、僕は端末を起動した。インターネットを開いて、コモンドールの文字を入力した。
     出てきたのは、大型犬の画像だった。犬なのだが、その見た目は独特な姿をしている。太い毛束が縄のように連なって、その身体を包み込んでいる。まるで、モップのような見た目だった。
    「僕は、この犬に似てるの?」
     尋ねると、ルチアーノはきひひと声を上げた。画面と僕を交互に見ては、楽しそうに笑う。
    「そっくりじゃないか。性格も犬っぽいしさ」
     どういう意味だろう。彼の態度を見る限り、誉め言葉とは思えなかった。モップのような見た目であることを考えると、もさいとでも言いたいのだろうか。
    「そんなに似てるかな?」
     言い返すと、彼はにやにやと笑った。僕の前髪に手を伸ばして、わしゃわしゃと掻き回す。
    「そっくりだぜ。コモンドールが嫌なら、プーリーって言ってやってもいいよ」
    「同じじゃん」
     プーリーは、コモンドールより小型の類似種だ。それくらいは、画像を見たときに調べたのだ。
    「なんだ、調べてたのかよ」
     ルチアーノは笑う。完全にからかわれていた。なんだか、釈然としない気持ちになる。
    「ひどいなぁ。人のことをモップみたいって言うなんて」
     そう言うと、彼は意地悪な視線を向けた。試すように僕を眺めながら、尊大な態度で言う。
    「モップって言われたくないなら、もっと見た目に気を使うことだね。君は、僕のパートナーなんだから」
     そんなことを言われても、僕にはファッションのことなんて何も分からなかった。前髪を伸ばしているのも、人に見られることに抵抗があるからだ。デュエルばかりの人生を送ってきた僕には、外見を繕うための知識なんてないのである。
    「難しいこと言わないでよ。分からないからこうしてるのに」
     子供のように頬を膨らましながら、僕は反論する。言われてばかりは嫌だった。
    「それなら、僕が見繕ってやろうか。君に合いそうな洋服を」
    「へ?」
     本日二回目の疑問符だった。ルチアーノとファッションなんて、全くイメージが重ならない。彼こそ、デュエル一辺倒の生活をしているはずなのに。
    「君の外見は些か田舎臭いからね。僕が繕ってやるよ」
     ルチアーノはきひひと笑う。そんなこんなで、午後の予定はショッピングモールでの買い物になったのだった。

     ルチアーノに手を引かれて、モールの中を歩く。
     彼に連行された先は、おしゃれな服が並ぶ男性向けファッションエリアだった。半ば無理矢理店舗に連行され、試着の服を押し付けられる。
     服屋は苦手だ。ファッションのことなど何も分からないのに、見てるだけでも店員さんに話しかけられてしまうのだから。声をかけられてしまったら、愛想笑いで答えることしかできない。
     そんなことだから、大抵の服は低価格の量販店で買っていた。ルチアーノの服を買うようになるまでは、モールなんて縁の無い場所だったのである。
     試着室の中で、僕は渡された服に着替える。カーテンを開けると、ルチアーノが待ち構えていた。
    「ふーん。そんな感じなのか。はい、次」
    「これは合わないな、次」
    「この服は保留にしよう。次だ」
    「これは結構良いんじゃないか? 次」
    「この店は絶対に合わない。次に行くぞ」
     ルチアーノに手を引かれ、何度も試着室に押し込まれる。次から次へと渡される服は、僕にはあまり違いが分からなかった。
     ルチアーノと一緒にいるからか、店員さんには声をかけられなかった。遠巻きに僕たちを眺めながらにこにこしていたり、こちらには視線も向けずに黙々と仕事をしていたりする。彼らには、僕たちの姿はどのように見えるのだろうか。兄弟には見えないし、友達同士にも見えないだろう。
     レジを通る頃には、すっかり夕方になっていた。服の入った紙袋を抱えて、帰路に着く。ルチアーノは、どこか満足げだった。
    「明日は、驚くほど綺麗にしてやるからな。覚悟しろよ」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは言う。すっかりご機嫌になっていた。
    「明日もやるの?」
     それに対して、僕はあまり乗り気ではなかった。今日一日でへとへとになってしまったのだ。これが明日も続くなんて、考えたくもなかった。
    「安心しなよ。すぐに終わるからさ」
     ルチアーノはきひひと笑う。なんだか、嫌な予感がした。

     翌日は、朝早くから叩き起こされた。まだ八時前だ。用事もないのだから、もう少し眠っていたかった。
    「あと五分……」
     そう言うと、ルチアーノは呆れ顔で僕を見下ろした。小さくため息をつくと、布団を引き剥がす。
    「いいから起きろよ。コモンドール」
     またあの犬の名前だ。そんなに似てるだろうか。犬に罪はないけど、何となく釈然としなかった。
    「コモンドールじゃないよ」
     頬を膨らませると、ルチアーノは僕の前髪を掻き回した。子供をあやすように言葉を続ける。
    「こんなにボサボサじゃないか。とっとと起きな」
     無理矢理起こされて、洗面所に連行される。顔を洗って軽く髪を整えると、ルチアーノが昨日の紙袋を出してきた。
    「ほら、とっとと着替えな」
     言われるがままに、渡された服に袖を通す。デザイン重視の服を着るのは久しぶりだ。よく分からなくて、少し苦戦してしまう。
     そうしている間にも、ルチアーノは次の準備に取りかかっていた。ブラシとヘアワックスを用意し、どこから持ち出したのか分からないパイプ椅子を設置する。
    「着替えたよ」
     声をかけると、ルチアーノはにやりと笑いながら僕を眺めた。パイプ椅子を指差して、自身ありげな声で言う。
    「ここに座れ」
     完全に命令口調だった。僕に拒否権はないようだ。
     椅子に座ると、目隠しを付けられた。視界が暗くなる。びっくりして、慌てた声が出てしまった。
    「ちょっと、何するの!?」
    「髪を整えるんだよ。おとなしくしてな」
     髪に、何かが触れる気配がした。わしゃわしゃと髪を掻き回され、引っ張られる。目隠しをされているから、何が起きているのかは少しも分からなかった。
     ルチアーノは着々と作業を進めていく。何度か指示を出され、言われるままに首を動かした。視界が暗いと、眠くなってきてしまう。何度か眠りそうになってしまい、その度に叩き起こされた。
    「できたぜ」
     ルチアーノが手を止めた。ゆっくりと目隠しを外される。視界に光が溢れだした。
    「っ!?」
     鏡に映る自分の姿を見て、声にならない声が漏れた。目の前に座っている人物が、自分だと思えなかったのだ。髪はゆるやかにセットされ、前髪は目が隠れない絶妙なバランスで整えられている。鏡に映った自分と視線が合うのは久しぶりだ。なんだか、別人に会った気分だった。
    「これが……、僕なの……?」
     思わず、椅子から腰を上げる。鏡に近づくと、自分の顔を見つめた。お店では似合うのか分からなかったおしゃれな服も、今の僕は違和感無く着こなせている。ルチアーノのセンスが為せる技だった。
    「結構、様になってるじゃないか」
     満足そうに笑いながら、ルチアーノが僕に視線を向ける。上から下までを舐め回すように見つめて、満足したように鼻をならした。
     僕は、ルチアーノの方を向いた。目と目が合い、視線がガッチリと噛み合う。ルチアーノはほんのりと頬を赤らめると、恥ずかしそうに視線を逸らした。
    「なんだよ」
    「ありがとう」
     僕は言った。ルチアーノの意外な特技に、心の底から驚いていた。センスのある人は、どんな田舎者でもおしゃれにしてしまうのだ。
    「別に、礼を言われることじゃねーよ。僕のパートナーなら、これくらい必要だからな」
     頬を赤くしながら、なぜか彼は謙遜した。いつもだったら、胸を張って誇るところだろう。なんだか引っかかる態度だった。
    「着替えさせたってことは、どこかに出かけるんだよね? どこに行くの?」
     尋ねると、一瞬だけ視線を彷徨わせる。すぐに目線を合わせて、きっぱりと言った。
    「出かけるのは、やめたよ。せっかくの一張羅を汚されたら嫌だからね」
     やっぱり、何かがおかしかった。いつもの彼だったら、服が汚れることよりも外出を選ぶだろう。彼は、退屈が何よりも嫌いなのだから。
    「どうしたの? いつもなら、出かけるって言うはずなのに」
     僕が言うと、彼は不愉快そうに鼻を鳴らした。触れられたくなかったらしい。
    「どうもしてねーよ」
     突き放すような声だった。こうなったら、放っておくことが得策だろう。外出なら、僕一人でもできるのだから。
     せっかく着替えたのだから、出かけなくてはもったいない。ルチアーノに整えてもらった僕の姿を、仲間にも見てもらいたかった。
    「じゃあ、一人で出かけようかな。この格好をみんなに見てもらいたいから」
     洗面所を出て、自分の部屋へと向かう。鞄を持ってチョーカーをつけると、ルチアーノが部屋の入り口に佇んでいた。
    「出かけるから、そこを開けてほしいな」
     刺激しないように、優しく声をかける。彼は、怒ると怖いのだ。
     ルチアーノは黙って下を向いた。沈黙が、二人の間を漂う。しばらくすると、小さな声で言った。
    「…………めだ」
    「へ?」
     聞き取れなかった。何も分かってない僕を見て、彼が言葉を繰り返す。
    「出かけるのは、だめだ」
     今度は、はっきりした声だった。顔を上げて、真っ直ぐに僕を見つめる。
     真剣な顔だった。何かを懸念しているような様子だ。通す気が無いことはすぐに分かった。
    「どうしたの? なんか、変だよ?」
    「別に、変じゃないだろ!」
     どうしようもなかった。どうやら、彼は僕が出かけることに抵抗があるらしいのだ。こうなったら、突破することはできない。
    「分かったよ。出かけないから、理由を教えてくれる?」
     とりあえず、理由だけは知りたかった。そうじゃないと、地雷の避けかたが分からない。
    「そんなの、自分で考えなよ」
     頬を赤く染めながら、ルチアーノは言う。
    「そんなこと言われても、分かんないよ」
     困りきって言うと、ルチアーノは大きくため息をついた。呆れたような、軽蔑するような目で僕を見ながら、恥ずかしそうに言う。
    「そんなんだからモテないんだよ。鏡を見てみな」
     ルチアーノに諭され、僕は洗面所に向かう。鏡に映る自分の姿を見て、首を傾げた。
     この姿に、何があるのだろう。なんの変哲もない、着飾っただけの男の姿だ。そんなに気にすることは無いはずだ。
     そこまで考えて、決定的な違いに気づいた。今の僕は、髪型が違うのだ。具体的に言うと、両目が見えているのである。
     ルチアーノの反応を思い出す。僕の姿を見て、彼は頬を染めていた。彼は、目元を見せている僕の姿に、特別感を感じているのではないだろうか。着飾った僕の姿を、誰にも見せたくないと思っているのではないだろうか。
     どうして気づかなかったのだろう。少し考えれば分かることなのに。きっと、こんなんだから僕には恋人ができなかったのだろう。
     僕は部屋に戻った。ルチアーノはベッドの上に座っている。相変わらず、頬が赤かった。
    「ルチアーノ」
    「なんだよ」
    「言いたいこと、分かったよ」
     ルチアーノは頬を染めた。何も返事はない。それでも、言葉が伝わっていることだけは、確認しなくても分かった。
     もう、出かけるつもりはなかった。この姿を見て良いのは、僕をこんなにも綺麗にしてくれた恋人だけなのだ。恋人が許すまで、この姿は世間には明かされない。次にこの服を着る日は相当先なんだろうなと、頭の隅で思った。
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