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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんの誕生日にプレゼントを渡すルチの話。ちょっとシリアスです。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    誕生日 冷蔵庫を開けると、シャインマスカットのタルトを取り出した。今年はホールのタルトを買ったから、一緒に包丁を持っていくのを忘れない。机の上で箱を開けると、包丁を真上から押し当てる。
     少し形を崩しながらも、タルトが真ん中で二つに別れた。動きが止まったところで力を込めると、ザクザクと音を立てながらタルト台に刃が走る。
     少しひびが入ってしまったが、二等物にしてはまあまあだろう。半分を自分のお皿に取り分けると、残り半分をもうひとつのお皿に乗せる。目の前に差し出すと、ルチアーノは顔をしかめた。
    「そんなに要らないよ」
    「食べられなかったら、残してもいいんだよ。僕だって、こんなに食べられるとは思ってないから」
     そういいながら、僕は積み上げられたクリームにフォークを差す。その姿を見ながら、ルチアーノはにやにやと笑った。
    「君なら、これくらい一口で食べられるだろ。毎日毎日、飽きもせずに甘いものを食べてるじゃないか」
    「一口って、ルチアーノは僕のことをなんだと思ってるの?」
     言い返すと、彼は甲高い笑い声を返してきた。フォークを手に取ると、上に乗ったマスカットを掬い取る。クリームばかり残しているけど、いったいどうするつもりなのだろう。
     ケーキは、甘くて美味しかった。クリームがふんだんに乗せられているものの、味はさっばりとしていて、いくらでも食べられる。あっという間に、僕は取り分の半分ほどを平らげてしまった。
     子供の頃は、こうしてホールのケーキをつつくのが夢だった。両親が用意してくれるのは四号のケーキで、家族三人で食べたらすぐに無くなってしまったのだ。幼い僕はケーキをいくらでも食べられる魔法のスイーツだと思っていたから、終わりがあることが悲しかった。
     でも、そんな幼い夢など簡単に壊されてしまうものだ。一人で暮らすようになってから、実際にホールのケーキを食べて、僕は自分の甘さを思い知った。ケーキという食べ物は、四分の一が適量だったのだ。食べれば食べるほどクリームは重苦しくなって、ついには気分が悪くなってしまった。
     それ以来、僕はホールのケーキというものを食べていなかった。去年の誕生日を、ルチアーノと一緒に祝うまでは。
    「そういえば、君は何歳になったのさ」
     タルト台をほぐしながら口に運んでいると、不意にルチアーノがそう言った。マスカットを食べたら興味を失ってしまったのか、フォークは皿の隅に置かれている。ケーキに合わせて用意した紅茶は、手付かずのまま置かれていた。
    「十八だよ。学校に通ってたら、高校三年生だ」
     答えると、彼は興味無さげに息を漏らす。自分から聞いておいて、勝手な態度だった。
    「十八歳は、すごく意味のある歳なんだよ。法律的に結婚ができるんだ」
     言葉を続けると、彼は警戒するように僕を見た。彼は、ただの子供ではないのだ。僕の言いたいことくらい、とっくに理解しているだろう。
    「それがどうしたんだよ」
     僕は、紅茶を一口だけ飲んだ。温かい液体が、身体の中に浸透していく。深呼吸で気持ちを落ち着かせると、はっきりした声で言った。
    「ルチアーノ、僕と家族になろうよ。偽造戸籍の偽装結婚でもいい。なんなら、養子縁組でもいい。ルチアーノと、法律上の家族になりたいんだ」
     彼は、困ったように顔を伏せた。予想通りの反応だ。彼には、結婚を決める自由なんて無いんだから。
    「できないよ」
     しばらく黙ったあと、ルチアーノは小さく言葉を吐いた。普段の彼からは想像もできない、消え入りそうな声だった。
    「僕は、法律的な結婚なんてできないんだ。僕は、神の代行者だから」
    「そっか。ごめんね」
     謝っても、彼からの返事は返ってこなかった。フォークを手に取ると、そっとクリームを掬い取る。口の中に押し込むと、強烈な甘さが広がった。

     お風呂から上がると、新しいタオルで髪を拭く。水滴が落ちないようにタオルを巻くと、ゆっくりとした足取りで自分の部屋へと向かった。
     さっきは、失敗してしまった。せっかくの誕生日なのに、ルチアーノを困らせてしまったのだ。あれから、僕たちはどこか気まずい空気のままケーキを食べ、残りを冷蔵庫にしまいこんだ。会話もどこか重苦しくて、彼はすぐにお風呂に入ってしまった。なんてことをしてしまったのだろうと、密かに反省していたのだ。
     僕の部屋に入ると、ルチアーノがベッドの上に座っていた。真っ直ぐに僕を見つめると、改まった口調で言う。
    「君に、渡したいものがあるんだ」
     僕は、身構えながら彼の前へと近づいた。わざわざ声をかけてくるなんて、余程のことなのだろう。何を渡されるのか心配だった。
     隣に腰を下ろすと、彼は自分の足元に手を伸ばした。小さな袋を手に取ると、僕の前へと差し出す。それは、カードショップの袋だった。
    「これを、君にあげるよ。誕生日のプレゼントだ」
    「えっ?」
     僕は、頓狂な声を上げてしまった。ポカンとした顔で、差し出された袋を見つめる。中にはカードが入っているようだが、ここからでは分からなかった。
    「要らないなら、僕が持って帰るよ。プレミアものだから、それなりの値で取り引きできるだろう」
    「貰います! ありがたく頂戴します!」
     慌てて言うと、恭しい手付きで袋を受け取る。ルチアーノの言動は、本気か冗談か分かりにくいのだ。貼られていたシールを剥がすと、中に入っていたカードを取り出した。
    「うわっ!」
     僕は、思わず声を上げてしまった。そこに入っていたのは、限定デザインのブラック・マジシャンだったのだ。ショップによっては五桁の値が付く程の高級品である。
    「これ、どうしたの……!?」
    「買ってきたんだよ。君は、今日から子供ではなくなるんだろ? 大人には、それなりの贈り物が必要だからね」
     ルチアーノは淡々と言うが、僕は心臓が止まりそうだった。十八になったとは言え、僕はまだ未成年なのだ。こんな高価なカードを扱うには、世間を知らなすぎるだろう。
    「こんなもの、受け取れないよ。僕には高価すぎる」
     そう言うと、彼は不満そうに唇を尖らせた。ちらりと僕を見上げると、囁くような声で言う。
    「なんだよ。君は、僕の贈り物が受け取れないって言うのかい? そのカードが似合うデュエリストになるのが、君の役目だろう?」
    「そうかな……」
     首を傾げながらも、再び中のカードを眺めた。ブラック・マジシャンのカードは、キラキラと輝きながらそこに鎮座している。僕にはもったいないくらいの、価値のあるカードだ。これが似合うデュエリストなんて、どれくらい遠いのだろう。
    「ありがとう。大切にするよ」
     僕は、正面からルチアーノを抱き締めた。彼の小さな身体は、すっぽりと僕の腕の中に入り込む。子供特有の温かさが、身体の芯に染み渡った。
    「僕じゃなくて、カードを大切にしろよ」
     腕の中に包まれながら、ルチアーノが小さな声で言う。そっと頭を撫でると、大人しく受け入れてくれた。
    「どっちも大切だよ。ルチアーノは、僕の初めての恋人なんだから」
     ルチアーノは、黙って僕の抱擁を受け止めている。しばらくすると、不意に彼が口を開いた。
    「さっきのことだけどさ」
     そこで、一度言葉を切る。迷っているように口を動かしてから、再び言葉を発した。
    「僕は、君との結婚が嫌なわけじゃないんだよ。ただ、できないだけなんだ。法律的な結婚が」
    「分かってるよ。ちゃんと、分かってる」
     答えながら、僕はルチアーノの頭を撫でた。小さな身体が、僕の腕の中でもぞもぞと動く。愛した人の温もりを感じながら、僕は幸せを噛み締めた。
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