前々からそうかな、と思っていたけど深津さんって日付を覚えるのが得意みたいだ。最初に気付いたのは、部員100名を超えるあの山王バスケ部のほぼ全員の誕生日を覚えていた事。同じ学年の部員はもちろん、よく話したり絡んだりすることが多い後輩の誕生日も大体覚えているみたいだった。オレは人の誕生日とか覚えるのが苦手だから、「今日、○○の誕生日ベシ」と言った深津さんの隣でいつも、言われた本人と同じかそれ以上に大きい声で「えっ!」と驚いていた。
同じように歴史の年号とかも覚えられるのか、と聞いたら「歴史は好きベシ」と言っていた。聞いたところによるとクラスで日本史の成績はいつも一番らしい。オレは大体赤点ギリギリ。
「人と結びつけると覚えやすいベシ」
深津さんの部屋で、中間テスト前の試験勉強。深津さんはオレの真っ白なノートを眺めて、そう言った。人と結びつける…?ポカンとしたオレに苦笑しながら、深津さんは身を乗り出してオレの日本史の教科書を覗き込む。
「ほらここ、関ヶ原の戦いは1600年で覚えやすいベシ?その時代には徳川家康とか豊臣秀吉とかまだ生きてたベシ。でも織田信長はもう明智光秀に…」
「明智光秀…室町幕府開いた人でしたっけ?」
「お前…時代劇すら見ないタイプベシ…?」
じとっとした目でオレを見て、深津さんは小さくため息をつく。やがて諦めたように教科書とノートを一緒にパタンと閉じた。
「ちょっと休憩ベシ」
「えっ」
「え?」
「…いちゃいちゃしていいってことすか?」
オレは、怒られるんじゃないかと思いつつ小さな声でお伺いを立てる。この部屋に来てからもうずっと深津さんに触れたくてしょうがなかったのに、深津さんはいつもテスト勉強の時には「触るな、イチャイチャなしベシ」と厳しいから今日もてっきり何もできないのかと思っていた。
「…いいベシ」
すごく小さい声だったけどオレの耳にはっきり聞こえて、オレはたまらず深津さんの肩をそのまま掴んで抱きついた。
「あーー、もうずっとこうしたかったっす…」
「…ベシ」
今のベシは「おれも」のベシだ。嬉しくなってギュッとしがみつくと、深津さんもおずおずとオレの腕に背中を回してくれた。鼻先に深津さんの肩口が当たっていて、少し汗の匂いが残るその場所にさらに擦り付ける。人肌の温かさと深津さんの匂いで、安心感と幸福感が一気にオレを満たしていく。
「今日はいいんすね、触っても」
「…まぁいいベシ」
素直じゃないなぁ。思ったけど言わなかった。