可愛いやつ 深津は耳が良い。チームメイトの足音も、教師が遠くで誰かを呼ぶ声も、誰のものかすぐに判別できた。同級生が近付いてきたのが分かって、振り向かずに名前を呼んだらひどく驚かれたこともある。それぞれにそれぞれの音。特徴的な声や足音。聞き分けるのは昔から簡単で、この特技は男ばかりの寮生活でも役に立った。
コンコン、と控えめなノック音。
深津の自室を訪ねてきたのが誰か、すぐに分かった。顔を上げて、読んでいたバスケ雑誌を一度横に置き、立ち上がる。扉の前まで行って、消灯前の訪問者を念のため覗き穴から確認した。
やっぱりな、と深津は覗き穴から顔を離して思った。予想通り、訪ねてくると思った。
「深津さあん…」
犬がくうんと鳴くかのように情けない声を出した訪問者は、深津がドアノブを回して扉を開けた時、眉毛を下げて口をへの字に曲げて、ちょっぴり拗ねたをしていた。
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