Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Orr_Ebi

    @Orr_Ebi

    気ままに書いてます!メッセージなどお気軽に♡

    ☆quiet follow Yell with Emoji 😁 👌 🌷 🍤
    POIPOI 35

    Orr_Ebi

    ☆quiet follow

    沢→→←深。夏の海辺で青春する二人。とってもポエミーで何も起こりません。

    #沢深
    depthsOfAMountainStream
    #SD腐

    It's blue. ヒコーキ雲を追いかけたい、と言ったのは沢北だった。深津はその言葉に、何を言ってるんだと思わなくもなかったが、このバスケ以外に頭の働かない後輩のことだから、特に意味なんてないだろうと深く追求しなかった。
     「よし、そうするベシ」
     「はい」
     沢北のクラスの友達が貸してくれたという自転車に、二人で乗って街を離れた。ジリジリと照りつける太陽は、制服の半袖シャツから覗く二の腕を焼き、背中にじっとりと汗をかかせた。
     秋田の短い夏を謳歌しようと、蝉の大合唱はどこに行っても鳴り止まない。山を越えて、国道沿いを走り、やがて海が見えて海岸線に沿って走る。時々二人乗りしながら、または片一方が走りながら、二人で自転車を押して歩きながらぐんぐんと南下する。中身のほぼ入っていないスクール鞄を自転車のカゴに2つ押し込んで、走りにくいローファーでどこまでも歩いた。
     「暑いっすね」
     「ベシ。やっと夏が来たベシ」
     
     沢北を連れ出したのは深津だ。午前の補講授業を終えて、体育館に自主練に来た沢北を呼び止めた。
     「ちょっとサボるベシ。沢北、付き合えベシ」
     そうしたら沢北が、「じゃあ、あの雲追いかけましょう」と言って、駐輪場から自転車を押してやって来た。深津はそれを見て、「ベシ」とだけ答える。校門を出てしばらくして、教師の目が届かないだろう所で後ろに乗った。

     「良い筋トレになりますね」
     そう言って沢北は笑っていたけれど、どこか今日のような突き抜けた晴れやかさとは程遠いなと深津は思っていた。理由はなんとなく想像がつく。まだ出会ってからたったの3、4ヶ月だが、口には出さなくてもなにか抱えているんだろう事はその様子から見てとれた。
     「二人乗りして怒られないんですか」
     「別に良いベシ、怒られても」
     山王工業バスケ部員の二人が、自転車の二人乗りをしている所なんて見られたら大問題だ。深津は充分に分かってはいたが、別になんてことない、とも思っていた。部活が休みの日に後輩と自転車の二人乗りをして、それがなんだと言うのだ。別にどうでもいい。いくらでも怒られてやる。深津はこういう時、大胆で畏れ知らずだった。
     「沢北、飲むベシ」
     深津が鞄から、飲みかけのペットボトルを取り出し手渡す。自転車を押して隣を歩いていた沢北が、少し驚いた顔をした。
     「良いんですか、深津さんのなのに」
     こういう時のこの後輩は、どこかよそよそしくておかしい。深津は、沢北と何かを分け合うときや教え合う時のこの違和感をまだ上手く掴めないでいた。飲み物の回し飲みなんて、中学でも普通にやっただろうと思うのに、どうやら沢北はそういう気安さに慣れていないようで、いつも一歩引いて確認をしてからやっと手を伸ばしてくるのだ。
     「良いベシ。沢北、顔が赤くなってるベシ。熱中症になったら大変ベシ」
     沢北は目をぱちくりとさせて、赤く日焼けした自分の頬を擦った。暑さによる熱りと日焼けで、白くて綺麗な顔が赤くなっている。いつもはつるんとしていて肌トラブルなど知りもしないその頬が、今日は陽に照らされて痛々しい。そうしたのは、深津が外に連れ出したからなのだが。
     「足りなくなったらどこかで買うベシ」
     「深津さん、お金あるんですか」
     「飲み物買えるぐらいは持ってるベシ」
     だから飲め、と口には出さずに差し出した。自転車のハンドルを代わりに支えて、スポーツドリンクを嚥下するその喉元を眺めた。やがて、半分くらい残ったそれを受け取り、深津も二口ほど口に含む。沢北が、じっとそれを見ている。
     「深津さんって、良いっすね」
     「はあ?」
     キャップを閉めながら歩き出すと、沢北が唐突にそう言った。深津は、やっぱりこの後輩はどこか変だな、と思った。深津自身もなかなか特徴的だと言われるが、沢北の方がもっと突拍子がなくて変だ。人との距離感や、深津への評価や感想が、他の人々とどこかずれている。
     「何言ってるベシ」
     「あー、いや、そうっすね、うん、変なこと言いました…」
     沢北の顔がまだ赤い。流石に炎天下の中歩かせすぎたか、と深津は心配になった。暑さで頭がやられたのかもしれない。山王工業のエース候補とはいえ、入部早々の地獄のような体力作りメニューで他の新入部員と同じように扱かれて半泣きだったのを思い出す。
     「沢北、もう少しで海水浴場があるはずベシ。そこまで行ったら休むベシ」
     「本当ですか?オレ、海辺に来るの初めてです」
     体調が心配になりそう言ったのに、思いがけず沢北は目をキラキラさせた。
     「…初めて?家族で海とか行かなかったベシ?」
     「家族とはずっと家のコートでバスケしてました」
     そうだ、この後輩はバスケ馬鹿だった。深津も人のことは言えないが、流石にここまでバスケだけの人生だったわけではない。数は少ないが、それなりに家族で旅行した経験もある。少なくとも、高校生になるまで海に行ったことがない程ではなかった。
     「初めて深津さんと来れて、嬉しいです!」
     振り向いたその顔が、ちゃんと喜びに溢れていて気が抜けた。沢北は、入部当初からイケメンだのなんだのと騒がれていたが、確かに笑った顔は男の深津から見ても整っているな、と感じることがここ最近多い。作り笑いではない様子が見て取れて、この暑い中連れ出した甲斐があったというものだ。
     「今回だけ特別ベシ。もうこんなチャンス無いベシ」
     「そうなんですか?もったいないな」
     「インハイが始まったらあっという間に夏は終わるベシ。そこから国体、ウインターカップ。バスケだけであっという間に一年が終わる」
     「で、深津さんがキャプテンになる?」
     「…そんな話はしてないベシ」
     沢北が眉毛を少し下げて、困ったように口をつぐんだ。
     沢北の言う、深津がキャプテンに、の話はここ最近よく噂されている事だった。もちろん、現キャプテンである三年生のいる前で話すようなことはしないが、下級生の間で囁かれ始め、深津自身の耳にも届いていた。そして、実際に深津にも監督からそういった話が来ている。が、まだ誰にも言っていないしキャプテンになるとはっきりと決めたわけでもなかった。
     「…もし、深津さんがなってくれたら、───」
     「ん?」
     国道沿いは車通りが激しい。沢北がボソボソと呟くが、大きなダンプカーが横を通り過ぎて、声がかき消される
     「なんて言ったベシ?」
     「なにも」
     沢北がまた、口元だけで笑って返す。深津はどうも、この貼り付けたような笑顔が好きじゃなかった。まだ少し一線を引かれているような気がする。別に、今すぐ心を開けというわけではないが、それでも沢北に歩み寄りたい気持ちにさせられる。
     「沢北、ちゃんと勉強もやってるベシ?」 
     「なんすか突然」
     「バスケのことばっかりで、赤点取ってたら意味ないベシ。うちは試合に出たいなら勉強も最低限やるのが鉄則ベシ」
     「えー、そりゃまあ、すげぇやってるわけじゃないっすけど」
     「すげぇやらなくても、ちゃんとやるベシ。じゃないとバスケができなくなるベシ」
     「深津さんは、ちゃんとやってるんすか?」
     「赤点取らないぐらいにしてるベシ」
     「はは、なんすかそれ、ギリギリじゃないですか」
     笑った声が響いた。くだらない会話でも、沢北が笑うから楽しかった。自転車の車輪がカラカラと回る音。白いガードレールに日差しが反射して眩しい。
     学校から出て随分と経ち、さすがに疲れてきたなと思った時、ちょうど開けた視界に海が見えてきて、少しだけ気持ちが浮上する。
     「うぉ、すげぇ…!」
     沢北が、海の景色に新鮮に驚く。海辺に来たことがないと言ったのは本当だったようだ。
     白と青のコントラストに、海の光がキラキラと光る。追いかけようと言ったヒコーキ雲は、あっという間に途切れて見失ってしまった。防波堤脇のコンクリートの道を進んだ先には、砂浜に降りるための階段がある。自転車を道端に停めて、そこから降りられそうだ。
     「山王の近くの海とは違うベシ」
     「全然違いますね、こんな海水浴場が秋田にあるんだ」
     テレビで流れるような関東の海辺とは、スケールも砂浜の砂の細かさも違うが、それでもしっかりと泳げるぐらいの設備がある。
     もうすでに海水浴客の姿が見えた。水着姿で遊ぶ小さい子供や、パラソルの下でくつろぐカップルなどが遠くに見える。さざ波はザアザアと音を立てて、砂浜に打ち寄せる。その音と景色だけで、この暑さが和らぐように涼しく感じた。
     「来てよかったベシ?」
     深津がそう言うと、沢北は深津を眩しそうに見た。目を細めて、それから黙る。下唇を軽く噛んで、何かを堪えるような顔をした。
     「はい、本当に」
     そう言って、自転車をその場に停めた。軽い鞄を背負って、二人で階段を降りる。数歩歩いただけでローファーに砂が入ってきて、ジャリジャリとした感覚が不快になり、靴下まで脱いだ。スラックスをくるぶしの上までまくって、裸足で砂浜の上を歩くと、砂の熱さに自然と早足になった。
     「すごい、砂も熱いベシ」
     「今更っすね」
     「日焼けして砂だらけで、寮に戻ったら怒られるベシ」
     「でも楽しいです」
     「ベシ」
     波打ち際まで近寄って、裾が濡れるのも構わずにバシャバシャと音を立てて走った。冷たい波が足の指の間をすり抜けて、また戻って、また濡れる。深い場所まで行くとひんやり冷たい。
     「見てください深津さん、制服姿なのオレたちだけです」
     「そりゃそうベシ、こんな暑い日に」
     「はは、ですよね、みんな水着とかTシャツとかなのに」
     「お前がヒコーキ雲を追いかけたいとか言うから」
     「だってどこまで行くのかなと思ったんですもん」
     「ロマンチストかと思ったらただの馬鹿だったベシ」
     「馬鹿ってなんすか、だって気になるじゃないですか」
     「そんな沢北くんに、理科の選択は地学をオススメするベシ」
     「深津さん地学なんですか?」
     「俺は生物」
     「じゃあオレも生物にします」
     「はあ?なんでだ」 
     「そしたら教えてもらえるじゃないですか」
     「絶対イヤベシ。教えるこっちの身になってほしいベシ」
     「えーひでえー」
     中身のない会話をしながら、時々水飛沫をかけ合いながら、波打ち際を沢北と深津は歩く。なんだかんだ言っているうちに、先ほど自転車を停めた場所からは遠くまで歩いてきていた。日差しがジリジリと降り注ぐ。二の腕や首の後ろがヒリヒリする感覚がして、これは今日の風呂が大変そうだと深津は思った。
     「深津さん」
     不意に、少し先を歩いていた沢北が振り向いた。深津の名前を呼んで立ち止まる。深津は返事をせずに、瞬きだけで返す。遠い蝉の鳴き声が、少し小さくなった。
     「なんでオレを連れ出してくれたんですか」
     まっすぐに見つめ返されて、深津は少し怯んだ。沢北の目線が、太陽を直接見るよりも熱い気がしたからだ。そんなわけはないけれど、さっきまでの意味のない会話ではなく、沢北がちゃんとした答えを欲している事に気付く。深津は、こういう事には敏感だった。

     「──全国には、ちゃんと強い相手がいるベシ」

     一言だけだったが、沢北には伝わったようだった。瞳の奥がきらっと光る。沢北が入部してきてから体育館でその煌めきを何度か見たが、昨日までの県大会予選では一度も見なかった光だ。
     「この先もどうせつまらないだろう、と思わなくていいベシ」
     「オレは別に…」
     「予選はつまらなかったベシ?だから最後の方はスタメンから外していたベシ。監督は分かってるし、俺もガードでやりにくいからお前は無しでいいと思っていたベシ」
     「やりにくいって…だって、」
     「俺が面白くしてやるベシ」
     「…深津さんが?」
     頷いて、沢北の手を取った。汗ばんでいて、硬い指先を握る。この手が、なんのためにあるのかを深津は知っている。ベンチで拳を握るためではなく、ボールを掴んで放つためだ。
     「全国なら、お前が面白いと思えるような試合ができるベシ。俺や河田や松本が。先輩たちも分かってるベシ、お前がうずうずしてること。でも出すべきじゃなかったから出さなかった。それでいいベシ」
     沢北がバスケのために生まれてきたような男だと、この数ヶ月で気付いている。それは深津だけではなかった。山王工業バスケ部に関わる多くの人が、沢北が逸材だと認めざるを得なかった。そして、県内予選の数試合を経験して、沢北がある考えに至った事にも深津は敏感に気付いていた。
     面白い試合はどうやら出来ないようだと、この獣はすぐに嗅ぎ分けた。
     「だから待つベシ。焦っても気を張っても、どうにもならないベシ」
     握った指先が、緩く深津の手を握り返す。やるせない熱を逃すように、沢北が小さく息を吐いた。
     「……深津さんや河田さんと、模擬試合をしてる方が楽しいんですよ」
     「分かるベシ」
     「あんたたちが敵だったら良かったのにって」
     「でも、お前をうまく使えるのは俺しかいないベシ」
     「…本当ですか?」
     またギラついた目だ、と深津は思った。けれどさっきみたいに、怖くはない。これを待っていたのだ、と確信した。それはきっと、沢北もそうだろうと思った。
     「俺がお前を日本一にしてやるベシ」
     だから待て。
     沢北が小さく頷いた。瞳がメラメラと燃えている。
     猛獣使いにでもなったようだ、と深津は感じていた。鼻息荒く噛みつきたくてうずうずしている獣を、ステイだと言い聞かせて制御する。悪くない。この獣を飼い慣らし、深津が全てをコントロールして、試合を作る。そして全国一になる、何度でも。そうなるためのポジションが、ポイントガードに加えてキャプテンだと言うのなら、受けてもいい話だと思う。
     「ここから面白くなるベシ、沢北」
     「はい」
     「だから、ちゃんと着いてくるベシ。先輩たちや、監督や、俺たちと一緒にやるベシ」
     掴んだ手をしっかりと握って、そのまま深津は歩き出した。いつの間にか、波の水位は膝下まで上がってきている。制服の裾はびしょ濡れだ。ザバザバと音を立てて、二人でまた歩く。
     制服姿の坊主頭が二人、手を繋いで歩いているのは側から見たら滑稽だろうと思った。けれど、それが深津と沢北だという事を知る者はここにはいない。
     「深津さん」
     また名前を呼ばれた。沢北はよく深津を呼ぶ。深津は振り返らず、足も止めずに歩き続けた。
     「連れてきてくれて、ありがとうございます」
     後ろから聞こえたその声に、深津は振り返らずとも沢北がどんな顔をしているか分かる気がした。そしてこれは、深津の信ぴょう性のない予感だが、もう沢北の下手くそな作り笑いを見ることもないだろうな、とも思った。
     「俺にはお前が分かるベシ」
     呟くと、握った手に力がこもった。どくどくと、指先から沢北の血流まで感じるぐらいに熱い。汗が額を流れて目に染みる。見上げた太陽は、学校を出た頃と比べて傾き始めている。
     追いかけたヒコーキ雲は、やがてちぎれて大きな入道雲となり、雨を降らせる。随分と遠くまで来たが、それでも深津はまだ帰りたくないとも思った。
     明日からは、またバスケ漬けの日々。だけどもう少しだけ、沢北を連れて自分たちを知る人のいない場所にいたかった。日焼けして、汗をかいて、自転車の二人乗りをして、制服を濡らして砂だらけだけれど、こんな夏の日も悪くない。不意に、沢北が笑った気配がした。
     「深津さん、顔にまで砂がついてますよ」
     反射的に振り返って仰ぎ見たその顔が、一瞬だけ獣の光とは違う色を灯していた気がして、深津はまた少し怖くなった。足を濡らすこの波のように、いつかその熱にさらわれるのではないか。そんな有りもしない空想が頭をよぎって、一瞬沢北が別人のように見える。
     沢北が深津に向かって手を伸ばしかけて、でも結局触れずに「こっちです」と自分の頬を指差して場所を示した。空いた片手で示された箇所を拭うと、ざりという感触と一緒にこびりついた砂が触れた。
     「帰ったら風呂、大変ですね」
     「それ、さっき俺も思ったベシ」
     「はは、気が合いますね」
     相変わらず手を繋いだまま、でも距離は一定を保って、砂浜を歩き続ける。きっと少し、暑さにやられている。さっき、沢北に頬を拭って欲しかったと一瞬思ってしまった。なぜそんな事を考えたのか、深津は自分自身のことなのに不思議だった。
     「あーあ、まだ帰りたくないなぁ」
     繋いだ手を振りながら、沢北がわざと大きい声で言った。それも深津がつい先程まで考えていた事で、同じ事を連続で思う偶然に、つい笑いが溢れた。
     「えっ深津さん何で笑うんですか、オレ変なこと言いました?」
     「全然、何でもないベシ」
     ふふふ、と笑うのを止められない。深津がなぜこんなに笑うのか、分からず沢北はハテナを浮かべるだけで、その様子がおかしくて更にいい気分になる。
     わざと笑った理由を言わずに、そのまま歩いた。沢北といると心地よい。この感覚はなんだろう。今まで触れ合った人たちと何か違う、お互いどこかずれているのに変なところで思考が合う。
     「深津さんって、変ですね」
     「沢北も大概ベシ」
     えー、と照れるように笑った沢北の顔を見上げて、今日連れ出して良かったと思った。今はもう、清々しく見えるその横顔が、夏の青空に映えて綺麗だ。沢北に対する不思議な感覚を、この気持ちを、まだわからなくてもいい。
     短い夏を、青春を、今は二人の世界で噛み締めたい。繋いだ手の熱さだけは覚えていようと、その時確かに深津は思った。
     

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💙💙💙👏❤💙💙💙💙💙❤❤❤❤❤💖☺🍑👬🌊🌞💘😍😭👏👏😭😭😭😭👏👏💯💯💯💯🐬🐬🐬🐬🐬🐬🐬🐬🐬🐬❤💙🌊🏃🏃🌊💖💖💖💖💖💖👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    Orr_Ebi

    DOODLE3/1のうちにあげておきたかった沢深。
    沢への感情を自覚する深の話。※沢はほぼ出てきません
    ・深津の誕生日
    ・深津の名前の由来
    ・寮母、深津の母など
    以上全て捏造です!
    私の幻覚について来れる方のみ読ましょう。振り落とされるなよ。

    ※沢深ワンドロライのお題と被っていますがそれとは別で個人的に書いたお話です
    シオンの花束 同じ朝は二度と来ない。
     頭では分かっていても、慣れた体はいつもの時間に目覚め、慣れ親しんだ寮の部屋でいつも通りに動き出す。
     深津は体を起こして、いつものように大きく伸びをすると、カーテンを開け窓の外を見た。まだ少し寒い朝の光が、深津の目に沁みた。雪の残る風景は、昨日の朝見た時とほぼ同じ。
     同じ朝だ。けれど、確実に今日だけは違うのだと深津は分かっている。少し開けた窓から、鋭い冷たさの中にほんの少し春の甘さが混ざった風を吸い込む。
     3月1日。今日、深津は山王工業高校を卒業する。そして、奇しくもこの日は、深津の18歳の誕生日であった。

     一成、という名前は、長い人生の中で何か一つを成せるよう、という両親からの願いが込められている。深津自身、この名前を気に入っていた。苗字が珍しいので、どうしても下の名前で呼ばれる事は少なかったが、親しい友人の中には下の名前で呼び合う者も多く、その度に嬉しいようなむず痒いような気持ちになっていたのは、深津自身しか知らないことだ。
    6903

    related works

    recommended works