すまない先生達が別のクラスと合同授業してるぞことの始まりは、他クラスとの合同授業からだった。
ここはすまないスクール、世界の破滅から守るために設立された学校である。そこでは日々多くの生徒たちがサバイバル技術を身につけるために奮闘している。
サバイバル授業では道具や拠点の作り方、戦闘技術などどんな過酷な環境下でも生き延びる術を身につけるための授業を行なっている。だがそのサバイバルというのは単に武器を握って戦えば良いというだけではない。時にアイテムを使った取引というのも、生きる上で必要不可欠なものだと先生達は考えている。
その取引相手というのは一般的には村人という認識だが、何も取引できる相手は村人に限った話ではない。例えば群れで行動しこちらを認識したり攻撃を仕掛けると一斉に襲ってくるが、特定の装備を身につけたうえで必要なアイテムを渡すとレアなものと交換してくれるもの…敵対mobの中ではピグリンが唯一にして貴重な取引相手になるのだ。
そういうわけで、すまない先生は自分の生徒に加えて他のクラスの教師や生徒たちと、その取引に関する授業を執り行うことになったのだが…。
「先生方、私はこの授業に反対です!」
開口一番言い放ったのは、すまない先生とは別のクラスの生徒だ。彼は他のクラスでも生真面目だと評判の生徒だが…。
「えーと、君…なんでこの授業に反対なのかな?」
「何故って…危険だからに決まっているではありませんか!他でもないモンスターとわざわざ取引するなんて!」
すまない先生の問いかけに食ってかかるように答える生徒。生徒のいうことは間違いではない。事実モンスターと鉢合わせに行くことは、自ら飢えた大蛇の尾を踏みに行くようなものだ。だが、だからこそ身の安全のための対策を講じたうえで授業を行うのだ。
「たしかに君のいうことは最もだ。ピグリンは中立とはいえ立派なモンスター…だが僕らでは入手が困難なレアアイテムやエンドラ討伐には欠かせないエンダーパールを入手できる、つまりサバイバルでは欠かせない相手だ。それに…」
すまない先生が隣を見やる。先生の隣で待機しているのは別クラスの先生と、自身の生徒であるミスターマネーだ。
何故かというとミスターマネーは大金持ち、というだけでなく今回の授業の醍醐味であるピグリンを部下に従えているからだ。故に今回の授業の重要人物として抜擢されたのであった。
野生のピグリンでは難しくても、マネーが面倒を見ている部下となればいざという時に止められる───そう説明しても、この生徒は引き下がる気配がない。
「君、たしかミスターマネーと言ったか?何故君は危険なモンスターをわざわざ部下として従えているんだ?君ほどの財力があるのなら尚更そんな恐ろしいことをする必要はないだろう!」
「恐ろしいだと?ッハァー!!なんだ貴様、ピグリンなどにビビっているのか。あやつらは金装備さえ手放さなければ襲ってくることなどない!そんなことも知らんのか?」
「ああそれくらいなら授業で教わった。ピグリンの生態も含めてね。だがそれでも、ピグリンは群れで襲ってくる危険なモンスターであることに変わりはないんだ。悪い事は言わない、君も考え直してくれ。」
「ハァー!!!生憎だが面倒を見ている部下を手放すほど俺は無責任では無い。よって、お前の訴えは聞き入れられないな!」
「っ、何故そこまでして……まさか、ピグリン達に弱みでも握られているのか?」
「はっ……はぁ?何を言っているのだ貴様は…?」
ミスターマネーの爆音とも言える大声にも臆さず意見を突きつける生徒の肝の強さには感心できる。だが生徒のこの言葉には流石のミスターマネーも思わず固まってしまう。マネーだけではない、他の生徒達もええ…と呆れ顔だ。
先生たちも時間がなくなってしまうと心配そうな顔をしている。いい加減区切りのいいところで終えてもらいたいと考えているようだが、二人の言い合いは止まらない。
「貴様…もしや俺の部下が他者の弱みにつけ込む輩とでも言いたいのか?ふんっ、他でもないこの俺の部下だ、そのような卑劣な連中ではない!」
「なんであろうと、モンスターはモンスター。信用できるものではない。怪物は皆卑劣な生物だ。いつ手のひらを返してくるか分かったものではないからな。」
「んなっ…貴様言わせておけば好き勝手ほざきおって‼︎」
言いたい放題な生徒の言葉に耐えかねたのか、ミスターマネーは顔を歪めて声を張り上げる。
普段は高飛車でお調子者なミスターマネーだが、いざとなれば身を呈してでも仲間を守り抜こうとする程には仲間思いだ。そんな彼のことだから、部下のことを貶める生徒がよほど気に食わなかったらしい。
こうなってしまえば当然口論に発展してしまう。経緯を見守っていた生徒たちも流石に見かねて今にも掴みかかりそうな2人を止めようと手を伸ばすが、あまりの怒声の迫力に気圧されてしまう。
「私は君の身を案じて言っているんだ!大勢の怪物を側に置くのがどれほど危険なのか分かっているのか!?」
「黙れ、今すぐその言葉を撤回しろ!さっきから卑劣だの怪物だの、貴様如きが俺の部下の何を知っているというのだ‼︎」
「っ、だから…!」
「いい加減にしないか‼︎」
言い争う二人の声よりも遥かに大きく重々しい怒声が響く。呆れ顔で腕を組むすまない先生の隣に立っている今回の合同授業のもう一人の先生だ。
鬼の形相でこめかみに青筋を浮かべる先生の圧力に口論する二人は思わず口を紡ぎ、周りの生徒たちに至っては冷や汗を流して身を縮こませている。
「お前たちは喧嘩をするためにここに来たのか?違うだろう!貴重な授業の時間を潰してくれるな‼︎」
「はぁ…二人の言いたいことは分からないでもないが、今は定位置に戻りなさい。」
二人の先生に宥められて渋々と言った様子でもといた場所に戻る生徒たち。振り向きざまに生徒を睨みつけるマネーを宥めるすまない先生に、うちの生徒が申し訳ない…ともう一人の先生が頭を下げる。
一応落ち着いたところで先生が黒曜石に火をつけてネザーゲートを作り出す。そしてゲートへ入っていく先生に続いて、生徒たちは各々の道具を手にネザーゲートへ入っていった。
ちなみに授業の内容は各自でネザーの金塊を集めてインゴットを作り、あらかじめ待機させているピグリン達にそれを渡してレアアイテムを交換するというものだ。途中子供のピグリンを見つけて金集めそっちのけで遊んだりする生徒や、金のヘルメットが外れてしまいピグリン達に追い回される生徒が現れたが、追い回された方はすかさずマネーが金を投げ渡して抑え込んだという。
他にもいくつか騒ぎがあったもののどれひとつとして重大な事故につながることもなく、各自で交換したものは自分の手土産として持って帰ることになったため、授業が終わった後は皆和気藹々と教室に戻っていった。