秘密のプレゼント「プロデューサーさん」
前から声がかかる。連日のアイドルの誕生日祝いの為、たくさんの荷物を抱えているので姿は見えないが、きっとこれは椚先生だ。
「お疲れ様です。すみません、この時間ならここ、誰も通らないかと思って…」
またいつものように「前から人が来たらどうするんだ」と説教をされると思って先手をとって謝罪をした。この時間から長い説教を浴びたら間に合わない。
「まったく、気を付けなさい。半分持ちます。レスティングルームでしょう?」
てっきり説教をされると思っていたので呆気に取られた。
「えっ、で、でも先生もお忙しいですよね?これは私がやりたくてやってるだけなので」
少しずつ減っていく荷物から段々椚先生の顔が現れる。怒ってはいない。むしろちょっと嬉しそうだ。
「ここで遅くなって急いで雑な飾りになったら『あの子』も残念がるでしょう。―さ、行きましょう」
なるほど、この手伝いは私のためじゃなくてあの子の為…そうわかると合点がいった。
「ありがとうございます」
余計なことは言わないでおこうと、お礼だけ言って既にスタスタと前を行く椚先生を追いかけた。
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「ふぅ、こんなもんですかね」
昨日の蓮巳先輩の和風な感じの装飾から一転、天満くんらしいビタミンカラーな装飾に我ながら腕組みをしながら満足した。
「さすが、手が早いですね。私の手伝いなどいらなかったのでは?」
装飾に使ったハサミやマスキングテープをダンボールにしまいながら椚先生が言う。
「いやいや、何言ってるんですか。色々アドバイス下さってありがとうございました!」
そう、この装飾には椚先生のアドバイスがたくさん盛り込まれていた。細々としたところで添削が入ったが私より天満くんの事を知っているであろうから助かるところではある。
「では、手伝ったお礼という事で、ここに私のプレゼントを忍ばせてもいいでしょうか?」
そう言うと人差し指を顔の前に当ててイタズラな笑顔を浮かべた。
普段アイドルは引退しただの言っておきながら、こういうところで技を見せつけてくるからズルい大人だ。
「もちろんです!…と言うより明日、先生も参加しては?天満くんも喜ぶと思いますし…」
椚先生からプレゼントを受け取りながらチラッと顔を見る。
今までの笑顔とは一転、困ったような嬉しいようなそんな表情になる。
「いや、お誘いは嬉しいのですが、私が参加したところで彼も萎縮してしまうでしょう」
困ってるのか、悲しいのかは私には判断出来なかったが、何となくそれ以上誘うことはやめようと思った。
「そうですか、わかりました。でもきっと、天満くんも喜ぶと思いますよ!」
そう言いながらみんなから預かったプレゼント置き場に先生のプレゼントを追加した。
天満くんなら、きっとこの中から椚先生のプレゼントに気付くはず。根拠はなかったが、そう思った。
「ありがとうございます。お願いしますね」
装飾の最終確認を行い、私たちはリズムリンクの事務所を後にした。明日の誕生日パーティをより一層楽しみにして。
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「うわぁ~!プレゼントたっくさんなんだぜ!これ、ぜ~んぶオレのなんだぜ!?」
プレゼント置き場を見た天満くんはまるで子どものように大はしゃぎだった。昨日は蓮巳先輩に自分も贈っただろうに、そんな事忘れている、そんな反応だ。
「もちろんだよ。みんな天満くんのために用意してくれたんだよ」
「ん~!うれしくってダッシュしたくなっちゃったんだぜ!ちょっと行って――ぐえ!」
「それはダメ。せっかくみんながくれたんだから、ちゃんと中身を見てからね」
思いっきり走り出そうとする天満くんのパーカーの帽子を思わず引っ張り首を絞める形になってしまった。
「ぐぐ...わかったんだぜ~。ね~ちゃんたまぁに『ごういん』なんだぜ~」
ちょっと唇を尖らせながら、天満くんはプレゼントを物色し始める。その様子を見て、月永先輩や朱桜くん、春川くんと言った面々がやって来てプレゼントのお話をしている。
椚先生のプレゼントはわかるかな?と思いながら見ていたが、途中で白鳥くんがドリンクを零してしまったらしくそっちに飛んで行ったので最後まで見届けられなかったけど、きっと開封しているだろうと思った。
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パーティ終了後、誕生日主役の天満くん本人の申し出で会場の片付けを手伝ってもらっていた。
「パーティ、楽しかった?」
高いところは任せて!大きくなったから!と言うので、お言葉に甘えてガーランドを外す作業を任せている背中に問いかけてみる。
「うんっ!美味しいパンもたっくさんあったし、椎名せんぱいのハンバーグもとっっっても美味しかったんだぜ!毎日が誕生日がいいくらい!」
決して手は止めずに、嬉しそうに感想を言ってくれる。この言葉があるから、どんなに忙しくても一人一人こうしてパーティを開きたくなってしまう。
特に、天満くんはそれを身体全体で伝えてくれるからなおさらだ。
「ありがと。私も頑張って準備した甲斐があったな。ところで―」
ふと、気になったことがある。椚先生のプレゼントだ。気付いたのか、どう思ったのか結局あの時聞けなかった。
「プレゼントも、みんなからもらえてよかったね」
決して『椚先生からの』とは口に出さず、聞いてみた。
すると、天満くんの手がピタリと止まる。
「プレゼント...そうだ!プレゼントなんだぜ!」
残りのガーランドを手早く全て外すと、ピョンと脚立から飛び降り私に押し付けた。
「ね~ちゃん!ごめん!オレ行かなきゃ行けないとこがあったんだぜ!片付け...」
自分から言ったのに...ともじもじしながらえっと...と下を向く。
「大丈夫だよ。天満くんのおかげで高いところの装飾は全部外れてるし、あとは大丈夫。もうすぐで『お誕生日』終わっちゃうから、行ってきて。」
そう言って椚先生からのプレゼントを持たせわ、背中を押す。
「ね~ちゃん...うんっ!ありがとなんだぜ!ほんとにほんとに、今日はありがとうなんだぜ~!」
そう言いながら、彼の得意のダッシュでもう姿が見えなくなっている。
プレゼントを持った時の笑顔があまりにも嬉しそうで、こちらまで嬉しくなってしまった。
誕生日なんだから、先生も今日くらいは素直になれればいいな。最後まで幸せな誕生日が過ごせますように。アイドルの幸せを願い、私は最後の片付けに取りかかった。
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後日話を聞くと、椚先生からのプレゼントは参考書と筆記用具だったらしい。「せっかく楽しみにしたのにー」と口を尖らせていたが、とても嬉しい様子が溢れていた。
お誕生日おめでとう、天満光くん!