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    isma_thenoir

    主に、ドラゴンズドグマ(DD2・DDON・DDDA・DD1)の二次創作で漫画やイラストを描いて投稿しています。
    時々その他の二次創作も上げるかもです。

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    isma_thenoir

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    DDONの二次創作小説
    漫画[ポーンの夢]の後のお話で、
    シーズン2とシーズン3の間に起こっていることです。

    #ドラゴンズドグマ
    dragonsDogma
    #DDON
    #二次創作
    secondaryCreation
    #小説
    novel

    ドラゴンズドグマオンライン [リズep] レスタニアの北部、そこは禁域と呼ばれる荒野が広がるザンドラと呼ばれる地。
     その最北端にある、メルゴダ護政区を一望できる崖の上で、立ち尽くしている女の子がいる。
     女の子…に見えるが、あれは覚者、リズだ。遠目でも、特徴的な姿と雰囲気で直ぐにわかった。
    「どうしたの?こんなところで。」
     イスマは彼女に近付きながら、声を掛ける。
    「…あっ!隊長~!護政区で調べ物をしようと思ったんだけど…いざここまで来て、やっぱり一人で行くの不安になっちゃって…いつもはプラムがいるけど、今はクラフト頼んでるんだよね。」
    「そうなんだ。じゃあ一緒に行こうか?」
    「いいの?!って…そういう隊長もポーンつれてないみたいだけど…」
    「俺も一緒だよ、今クラフト頼んでる。待っているのも暇だから、レスタニアについて調べて見聞を広げようと思って、ここへ来たんだ。」 
    「目的も一緒だなんて…!運命みたいだねっ♪それじゃ、パーティー成立ってことで!」
    「うん、よろしく。」

     先程とは違い、意欲に満ち溢れた様子のリズが、元気よく前を歩きはじめた。…かと思うと、急に振り返った。
    「ねぇ、隊長…」
    「………?」
     立ち止まり、リズの話に耳を傾ける。
    「二人の時は、イスマって呼んでもいい?」
    「…どうしたの、改まって。別にいつでもそう呼んでくれていいのに。元々、出会った頃は呼び捨てだったじゃない。」
    「そうなんだけど…さ。今じゃ隊長もしっくり来ちゃってて…、皆がいる時は、隊長ね。それじゃ行こう、イスマ!」
    「……うん。」
     突然何を言うかと思ったら…。
     リズに名前で呼ばれ、出会って間もない頃を思い出し、イスマは思わず顔がほころんだ。
     リズは見た目は子供のようだが、実は覚者歴が長く、その年で言えばガルドリンやエリオットよりも上だ。覚者としては先輩、今でこそ、イスマのことを隊長と呼んでいるが、出会った頃は名前で呼ばれていた。
     あの頃は、リズが持っている蝶を模した杖が、強そうで格好良く見えていたっけ…
     今では信頼できる仲間であり、友となったリズ。覚者隊の任務以外で、こうして個人でパーティーを組むのは久しぶりだった。隊長ではなく、名前で呼ばれるのも良いものだな、とイスマは思った。
    「イスマ、早くー!」
    「うん。」
     前を行くリズを追い掛ける。
     こうして、メルゴダ護政区での、リズの調べ物探しの手伝いが始まった…。


    「サンダーケージ!」
     リズに振り降ろされた大剣をグレイスオブアポロで受け止め、瞬時に発動できる雷属性の魔法を唱えた。
     メルゴダ護政区内ではゴーストメイル達によって進行を阻まれた。サンダーケージに弾き飛ばされたゴーストメイルが体勢を崩して隙が生まれる。イスマは直ぐにトラップ魔法を仕掛け、次いで継続魔法のブラックヘイズを唱えた。ゴーストメイルは身動きできず、その場に拘束された。
    「大丈夫?」
    「イスマ…、ありがとう…!」
    「このまま引き付けるから、リズは安全な場所から、もう一度詠唱を頼む。」
    「…うん!」
     イスマは、リズを庇いながら、ソーサラーのみのパーティーでの立ち回りを意識して闘う。
     詠唱までの時間を稼ぐ為には、敵をできるだけ長く足止め、拘束する必要がある。間に合わなければ詠唱を瞬時に終えられる魔法を唱える。詠唱できる足場やスペースも確保しなければならない。その為には逸早く敵の存在を察知し、地形やその空間全体を把握しておくことも重要だ。戦闘になる前の事前の策や準備で戦況を有利に運ぶことができるが、突然遭遇する敵との戦闘は不利になることもある。その時は仲間同士が囮になり敵の注意を引き合って、敵の意識を惑わせ翻弄する。
     リズとの共闘では、彼女の性格や能力も考慮して、最初に二人同時に大魔法でできるだけダメージを与えて敵を減らし、自分がトラップや詠唱の短い魔法で敵を引き付け、リズには離れたところから落ち着いて正確に、そして確実に敵を狙ってもらう。
     転職してパーティーを組み直すのも一つの手だけど、行き慣れたダンジョンであれば、偏ったパーティーでいかに攻略するかを考え、実戦の経験を積むのも良い。
     リズが止めのメテオフォールを放ち、ゴーストメイルはただの鎧の塊となった。

    「イスマって…、やっぱり凄いね…連携っていうのかな…仲間を常に意識してる。人を信頼してないと、できないことだよ…」
    「それは君だからだよ。リズならこうするって、わかっているからね。」
    「じゃあ、他の覚者とパーティーを組むときはどうしてるの?」
    「その都度観察するよ、俺はソーサラーだから、敵から最も離れた位置から全体を観て、敵や仲間がどんな動きを取っているか、詠唱しながら常に見ている。」
    「私なんて、いつもプラムに任せっきり、間違えずに詠唱するだけでいっぱいいっぱいだよ…」
    「リズもできるようになるよ、それにはやっぱりそれなりの修練は必要だけどね。」
    「う…修練…。私、約束された規定の数も、まだ全部こなせてない…」
    「何度も実戦で繰り返し練習すれば、自然と呪文は紡げるようになるよ、そしたら、少しずつ周りも見えるようになってくるから。」
    「うん…がんばる!」

     周囲の安全を確認したのち、二人は各々護政区の書物を調べ始めた。椅子に腰掛ける人骨、三百年の時を経て未だ灯るメルゴダ製のランプ、あらゆる物が手付かずで遺されたこの護政区内は、当時のままの状態でメルゴダ時代の時を止めたかのようだ。壁一面の本棚、そしてあちらこちらに散乱する本の量は膨大で、歴史や文献好きにはたまらない。全てに目を通してみたいが、何日掛かるかわからない。研究室や会議室と思われる部屋を中心に目ぼしい文献を探すことにした。宝探しに夢中になってると、ふいにリズが話しかけてきた。
    「…ねぇ、イスマはどうして覚者になろうと思ったの?」
     あまりの不意打ちの質問に、内心動揺し沈黙する。
     イスマはこの地で目覚めた時には既に覚者だったのだ。どうして覚者になったか、自分でも分からないままだ。イスマは答えに詰まって咄嗟に同じことをリズに聞き返した。
    「…リズこそ、どうして?」
    「私?…私は…、この世界を知りたかったから…かな?」
    「そうか…、それでプラムと各地を巡って、世界に纏わる資料を探してるわけか。」
    「そう!現地に行かないと得られない情報もあるじゃない?」
    「確かに、そうだね。」
    「それで、…イスマは?」
    「…………俺も、同じかな。」
    「なにそれ…!運命感じちゃう…!」
    「ほら、探すよ。」
    「はーい!」

     何故覚者になったか、覚者になる前の過去と記憶が存在するならば、自分は一体何故覚者になったのだろう。イスマは考えてみたが、…分からない。でも、今は自分が覚者であることに迷いはない。
     何故覚者であり続けるのか、そう聞かれれば、《この世界を知りたい》ということになるんだろう。
     そうすることで、自分が何者であるか、何者になるのか、決められる気がしているから…、そうイスマは自分の中で答えを出した。


     しばらく二人は部屋を別れ、手分けして資料を探すことにした。リズは会議室、イスマはそこから少し離れた研究室にいた。
     研究室の一室で、イスマは一冊の古く分厚い本を手に取った。表紙に記述はなく、不思議と引き付けられた。
     中を開くとふと目に留まる古めかしい挿し絵。
     巨大なドラゴンが人の心臓を抜き取っているようだ。
     これは覚者ということだろうか…?
     イスマは書物に書かれた文字を指でなぞる、しかしその文字は古代語の中でも一際ひときわ古いものらしく、この場で直ぐに読み解くことは難しかった。
     数ページ先にはまた挿し絵があった。
    「なんだろう…これ……」
     それが一体何を意味しているのか、興味が湧いた。リム転移する時に感じるあの不思議な空間を図で表したような…、あれが、天と地を繋いでいる…?
     本の終わりには隠されるようにダミーのページを模した箱になっていて、そこには謎の機器が嵌め込まれていた。メルゴダ時代のものだろうか、それとも、もっと古い時代のものか…。
     その遺物に指先で触れると、何者かの思念か意識のようなものが頭の中に流れ込んできた。

    『世界の深淵…終わりは始まり…
    始まりは終わり…
    天と地は無く 天と地は同一である
    竜の理が生まれしその時…
    生命の源が集まりし点に
    封印されし エヴァーフォール……』

    「────っ」
     急に胸の辺りに痛みが走る。いつもと同じ、あの感覚だ。鋭利な刃で胸を貫かれるような鋭い痛み。その発作は突発的で長くは続かないが、まるで金縛りのように、何者かに魂を掴まれているかのように動けなくなり、為す術が無い。
     失った記憶と関係している…そう思っていたが、この遺物に残された何者かの思念と自分に、どんな繋がりがあるというのか。…想像すらできない。
     手にしていた本が手の内から滑り落ち、イスマは胸の痛みにふらつき後退ると、背後にあった机にもたれ掛かった。その衝撃で雑に積み上げられていた本がバサバサと音を立てて床に崩れ落ちていった。

     一方自分の目当ての資料を手に入れたリズはイスマを探していた。
    廊下の奥に仄かに灯りがともっている。イスマのランタンだろうか。
     するとその部屋から本の束が崩れる音がした。
    「やっぱり、あそこね。…ちょっとイスマ、あんまり荒らしちゃダメだよ?ただでさえ散らかってるんだから…」
     そう言いながら部屋を覗いた。
     そこにいたのはやはりイスマだった。
    「どうかした?」
    「…リズ、うんん、ちょっと本に躓いて。」
     リズの声に、咄嗟に平静を装う。
    「だから言ってるでしょ?散らかしすぎ注意!」
    「散らかってたのは元々だよ。それより、欲しかった資料は見つかったの?」
    「うん!いくつか見付けたよ、ありがとう、助かっちゃった♪」
    「…良かった。」
    「イスマは何か見付けたの?」
    「古い古文書を一冊…解読しないと内容は分からないけど…この世界のことが、何かわかるかも。」
    「それ、私も興味あるなぁ…。ずーっと気になっていることがあるんだよね、メルゴダの時代みたいに、覚者が1人になったら他の覚者達はどうなるんだろう?ただの人間にもどるのかな?それとも…」
    「どうだろう…。いくつか考えられる推測はあるけど。俺達が決められることじゃないかもしれないね…。世界の成り立ち…俺達は当たり前のようにこの世界にいるけれど、世界が5つ存在し、それらが互いに影響し合うというのは、どういう意味合いがあるんだろうな…」
    「知りたいよね、この世界のこと。覚者と竜とは一体何なのか…?」
    「そうだね…。」


    「わ…、もう外真っ暗だよ!」
    「本当だ、思ったより夢中になっちゃったね。」
     護政区の探索と資料集めに満足し外へ出ると、既に空は暗く、ぽっかりと月が昇っていた。
    「うん、もうとっくにプラムのクラフトも終わってる頃よ」
    「収穫もあったし、そろそろ帰ろうか。」
    「はーい。」
     二人はそうしてメルゴダ護政区を後にした。
     レーゼ神殿に戻ると、プラムが礎の近くに立っていた。待ち侘びたようにリズの元へ歩み寄る。
    「リズ様…!こんな時間までどちらへ…。完成しましたよ、採寸はピッタリかと思いますが…さあ、どうぞ。」
    「わ~!ありがとうプラム、可愛い~!これ、着てみたかったんだよね♪」
     リズは手にしていたメルゴダの資料をイスマに持たせ、プラムからクラフトされた品を受け取った。
     「ねぇ、見て見て隊長!今度、皆で酒場でご飯しよう~!これ着ていくから、ね?」
    「…うん、いいよ。」
     リズがプラムに何をクラフトしてもらっていたのか気になっていたけど、町娘のドレスだったらしい。リズらしいな、とイスマは思った。
    「あぁ、イスマ様すみません…。お久しぶりですね、もしかして、リズ様とどちらかへ行かれていましたか?」
     プラムが申し訳なさそうに言い、イスマの手の中からリズに押し付けられた資料を受け取った。それにリズが横から代わりに答える。
    「プラム、そうなの!メルゴダ護政区へ、調べ物にね。でも隊長がいたから大丈夫だったよ!」
    「そうでしたか、イスマ様、大変でしたね。リズ様にご同行くださり、ありがとうございました。」
    「ちょっとプラム、私がいると大変なの?…まぁ、否定はしないけどさ…?」
    「いや…、リズがいてくれたから、俺も助かったよ。ゴーストメイルもやっつけてくれたしね。」
     イスマはそう言ってリズに軽くウインクすると、リズは得意げに私だってやる時はちゃんとやれるんだから、と満面の笑みを見せた。
    「ゴーストメイルを倒したのですか?凄いじゃないですか。」
     プラムも拍手してリズが頑張ったことを認めてくれたようだ。
    「それじゃあ、リズ、またね。次は…酒場かな?」
    「うん!隊長、今日はありがとう!また誘うからね。…あ、それから…!」
    「…?」
    「隊長は、しっかり食べて、ちゃんと寝るんだよ」
    「…?、うん、分かった。おやすみ。」
    「おやすみなさい♪」
     リズはドレスを嬉しそうになびかせ、プラムとお喋りしながら去っていった。
     それを見えなくなるまで見送って、イスマも古文書を手に、ポーン達の元へと向かった。


     クラフトルームでは、テーブルの上に食事が並べられていた。頼んでいた防具のクラフトが終わり、イスマが戻るまでの時間でポーン達が作ったようだ。
    「待っている間に、皆で作りました。丁度ここは調理器具も揃っていますし、マスターがお腹を空かせて帰ってくるのではと思って。」
    「ありがとう、お腹空いてる。リズにもしっかり食べるよう言われたばかりだし。ここで皆で食べてから帰ろうか。」
    「はい!」
     四人揃って食卓を囲むなんて、イベント以外ではあまりないことで、家族の団欒のようでイスマは嬉しくなった。
     食事をしながら、今日あった出来事をポーン達に伝えていく。

    「これがメルゴダ護政区で見付けた一冊だよ。」
    「古文書…ですか?」
    「うん、本の終わりはページ紙に見立てた隠し箱になっていて、この遺物が嵌め込まれていたんだけど…」
     メルゴダ護政区で手に入れた古い本をテーブルの上に開くと、ポーン達が集まり、まじまじと覗き込む。
    「これは…、我々にも読めない文字ですね。」
    「この遺物に触れてみて。」
     三人のポーン達は不思議に思いながらも、各々指先で触れてみる。
    「何も起こりません…。」
    「何も…変わったところはないですね。」
    「我々には、何も…。マスターは何か感じられたのですか?」
    「この遺物に触れた時、何者かの声が聞こえて、いつもの症状が出たんだ…」
     イスマはそう言って自らの胸に手を当てた。
    「…ということは、マスターにとって重要な何かである可能性は高いですね。少なくとも、マスターに何か伝えたいことがあったのかもしれません。」
    「うん、この古文書が解読できれば、自分のことや、世界の謎について、何か知ることができる気がするんだ。」
    「我々三人の意見は一致しています。マスターがそれを望むのであれば、我々もその謎を一緒に追い求めたい。その先にあるものが、何であっても、我々はマスターとその結果を共有したいのです。」
     ポーンのレオが言うと、シャラとニルスもそれに大きく頷いた。
    「ありがとう。そう言ってくれると思ってた…。」
    「古文書の解読なら、まずはレーゼ神殿に行かれてみてはいかがでしょう?何か分かるかもしれません。マスターの失われた記憶に関しては伏せて、気になる品を見付けた、とだけ話せば良いかと。」
    「…そうだね。まずはジョゼフやクラウスに聞いてみよう。」

     今までならば、ポーン達にすら相談できず、一人で考え込んでいたかもしれない。しかし、剣の絵の一件以来、イスマはポーン達には自分のことを伝えられるようになった。それだけでも、随分と気持ちは楽になったものだ。
     まだ、神殿や覚者隊の皆には打ち明けられないこともあるけれど…。
     自室に戻ると、古文書を書斎の机に置いた。もう一度本を開き、遺物に触れてみようかと思ったが、ふと、リズの言葉を思い出した。
    「しっかり食べて、ちゃんと寝る…か。」
     イスマはリズに言われた通り、ちゃんと寝ようと思い、本を閉じて、早めに床に就くことにした…。


    ──────────


     後日──…
     リズはソーサラーの修練の報告でエメラダの元を訪ねていた。
    「いいわ、それじゃあ…次の修練はこれね。」
    「わ、コロッサスか~。グリフィンも…?小さいのもいっぱい…!大変そう…」
     リズはエメラダから手渡された修練書をじっと眺めて眉を寄せ、溜息混じりに言った。
    「あなたのペースでやったらいいわ、リズ。でもスピード感も必要かもね。あなたが、どれ程の覚者になりたいかにもよるけれど…。」
    「スピード感か…プラムと相談して、ちょっとずつでも頑張る…」
    「ふふ、そうしなさい。でも、少しやる気が出たみたいね?今までよりも。あなたをそうさせる何かがあったのかしら。」
     エメラダの言葉にリズは顔を持ち上げ、そして切り出した。
    「ねぇ、エメラダ、イスマのこと…どのくらい知ってる?」
    「?…どうしたの、突然…。」
    「イスマっていったい何者なんだろう?実のところ、あまり良く知らないなぁって…」
    「覚者なんて、皆そんなものじゃないかしら。」
    「そうなんだけど…イスマは流星の様に突然現れたの、どこからともなく。そして私達を導いてくれる。今ではレオ統率の代わりを任された覚者隊の隊長だよ。でもね…、イスマは流星だから、いつか私達の前から突然、ふっと消えてしまいそうな気がしてならないの…」
    「……何か見たり、聞いたりしたの?」
    「……うん…、でも確かなことは何もないの。ただ…、何か私達に言えないこと、抱えてるんじゃないかって…」
     そこまで言って、護政区でのことを思い返した。あの時、イスマの苦痛に歪む顔をリズは見逃していなかったのだ。
    「あんな隊長、初めて見た。凄く苦しそうで…でも、直ぐに元通りになって…」
    「…そう」
    「強い覚者は沢山いるわ…隊長よりずっと力もあって、経験豊富な覚者もね。でも彼は…、イスマは何か違うの。私達には無い何かを、感じ取っているように見える。レオもそうだったけど、レオとは少し、違うんだよね。」
    「…あなたもそう感じるのね。その感覚は間違ってないように思うわ。…恐らく、彼は過去の記憶が無いのよ、覚者になる前の記憶がね。」
    「…え!」
     あ、だから、どうして覚者になったのか聞いた時のあの反応…そういうことだったから…?
    「じゃあ、あの苦しそうにしてたのは…」
    「確証はないけれど、彼の潜在意識の中に記憶の断片が残っているのか…それが原因かもしれないわね。でもね、彼が持つ魂…そこに計り知れない強さを感じるの。出会って間もない頃は、彼自身も戸惑っているように見えたわ、でも今は…
     彼を見ていると、大丈夫な気がするの…あの子は自分が思っている以上に強いわ…そして、無責任なことは決してしない人よ。」
    「うん、そう。そうだよね!…だから…いつか、逃れられない何かと自分を秤に掛けて、自分自身を犠牲にするんじゃないかって…」
    「………リズ…。あなたは、人をよく見ているのね。
     確かに…、あの子は自分の存在価値を軽視している節があるわ…自分が犠牲になることで上手く収まるなら、迷わず真っ先に自分を犠牲にするでしょう。そんな危うさが彼にはある…。でも、あなたのような人が彼の部隊にいるのだから、大丈夫ね。…私も安心できるわ。」
    「…エメラダししょ~う!そうなの…そうならない為にも、私が見張っておくんだから!」
    「でもそれは、あなたにも言えることよ、リズ。」
    「え…?」
    「彼だけが特別なんじゃない。それは誰にでも言えることなの。イスマにも、あなたにも、特有の素質がある。その価値は計れるものではないわ。
     覚者として生き、闘う以上は、何が起きてもおかしくはない。覚者のいない…竜のいない世界になることだってあり得るかもしれないわ。あなた達が何をどう選択し、選びとるのか、何が正しいのか、誰にも判らないわ。
     だから私は、常に覚悟はしているの。
     あなたもイスマも、私には掛け替えのない教え子よ。いつだって、無事であることを願っているわ。」
    「うん…。そうだね、ありがとう、エメラダ。」

     イスマのことが気掛かりで、自分のことを忘れそうになっていた、自分自身も、掛け替えのない一人の人間なんだって…。イスマと何も変わらない。でも大切な友であり、隊長をを支えたいという気持ちは、本当のこと。
     何が起きても不思議ではない。
     予感がする、いつか来るであろう、その時の為に…。
     守られてばかりじゃダメ、私も強くなって、自分自身を守れるようになって、仲間も守れるような覚者になりたい。
     リズはそう心に強く想いを抱くのだった…。

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