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    clarchuman35d

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    燈矢(教育実習生役)と切島(転校生役)がとある高校に潜入捜査をしていたのに、帰り道でヒーロー活動をしちゃってヒーローってバレちゃうとこです。

    【迫荼】怪盗×ヒーロー原稿進捗③ 正門を右に折れ、大通りに出る。すっかり日は暮れているが、街は明るい。交通量は決して少なくはなく、ちょうど下校時間なこともあって、横断歩道の前では多くの高校生が信号待ちをしている。燈矢たち三人も、横断歩道前の人ごみに向けて坂を下っていた、そのときだった。
    「あの子危ない!」
     前方で待っていた女子生徒が、道路を指さす。その指の先、小学校低学年くらいの、犬頭の男の子が、スケートボードで赤信号を飛び出したところだ。車が、来ている。
     咄嗟に体が動く。五歩、大股で後ろへ引き返し、助走距離を取ってから、勢いをつけて坂を駆け降りた。人ごみから十分な距離を取って踏み切り、足から噴射した蒼炎で跳躍を補助する。革靴は一瞬で燃え尽きたが、構っていられない。
     信号待ちの生徒たちの頭上を優に飛び越えて、燈矢は車道の上空へ躍り出た。
     右手から来た大型トラックのフロントライトが、スケートボードの少年を照らしている。少年は足が止まって動けない。トラックの運転手は眠たげにあくびをして、少年に気づいていなかった。間の抜けた運転手の顔を、燈矢は宙から視認して目を丸くしたが、いま重要なのはそちらではない。地面に降りると同時に駆けて、燈矢は少年を掬い上げ、勢いを殺さないまま反対側の歩道へ転がった。おおっ! と歓声が上がる。
     同時に、キュルキュルキュルッ! とトラックのタイヤが鳴った。あくびをしていたあの運転手が、ようやく急ブレーキを踏んだのだと燈矢は思った。しかし、
    「「うわああ!」」
     大勢の悲鳴がしてそちらを見ると、急ハンドルを切ったトラックが、信号待ちの生徒たちの方へ突っ込んでいく。
    「嘘だろッ!」
     どうしてハンドルを切るのか!
     再び飛び出すが、トラックはスピードを落とす気配がない。
     これをどう止める!?
     考えるより先に動く。一秒でも早く、守るべき人に手を伸ばす。エンデヴァーからの教えが、燈矢の体には染みついている。
     炎でトラックは止められない。ならばトラックが突っ込む前に人を逃がすしかない。
     まずは手前の、逃げようとして転んだ生徒。寸でのところでタイヤを避ける。足がすくんで立ち尽くしている生徒たちは、トラックの正面から脇へ移動させる。
     次、次、次、ああクソ、数が多い。エンデヴァーならば、その腕で、一度に五人や六人は抱えられるだろう。燈矢にはせいぜい三人が限界だ。体の大きさは努力でどうにかできるものではない。トラックはもう真後ろにいる。
     俺が、轢かれる。
    「俺が、いる!」
     大きな音がした。トラックが、コンクリートの塀にでもぶつかったような衝撃音だ。ギョッとして後ろを振り返る。
    「おォれェェはァ倒れねえ!!」
     硬化した切島が、トラックを止めていた。
    「ナイス、烈怒頼雄斗!」
     制服の学ランが、内側からも外側からも破れている。
    「おっす! ここは任せてください! こういうときのために、俺はいる!
     “烈怒頼雄斗・安無嶺過武瑠!!!!”」
     この隙に、生徒たちを逃がす。いつの間にか歩行者信号は青に変わっている。だからこのトラック以外の車は、横断歩道へ侵入してこない。
    「うわっ!」
     背後で切島の声がして、またキュルキュルキュルッとタイヤが鳴った。
    「コラ! 逃げんな!」
     トラックは、九十度方向転換をして横断歩道を抜ける。ヨロヨロと左右に振れながら、次第に振り幅を小さくして、直進した。
     燈矢は背負っていたリュックから、ヒーローコスチュームのシューズを取り出し、手早く履く。
    「烈怒、警察が来るまでここ頼めるか!?」
    「やれます! 蒼穹は!?」
    「あれを追う! 運転手、“二倍”だったろ!」
    「二倍? …………二倍!?」
     公衆の面前で、まさかホシの名前を出すわけにもいかない。伝わったのでヨシとして、燈矢は声を張り上げた。
    「こいつは烈怒頼雄斗! みんな彼に協力して、周りに怪我人がいたら助けてやってくれよ!」
     それから、点滅する青信号をダッシュで渡る。
    「飛び出したガキ!」
     この事故の元凶の犬頭の小学生を探すと、彼は母親らしき女に背を擦られながら大泣きしていた。
    「頼みがある! スケボー貸してくれる?」
     まっすぐ彼に呼び掛けると、彼はビックリした顔で泣き止んで、うん、と頷いた。
    「俺は蒼穹。君、名前は?」
    「……シバ」
    「ありがとうシバ、必ず返す」
     借りたスケートボードに飛び乗る。角度を調整して、シューズの踵から蒼炎を噴射した。
     足の速さにはわりあい自信があるが、とはいえ車と張り合えるほどではない。炎の推進力は偉大だが、地に足を着けていては進まない。浮いた状態をキープしながら前へ進むには、足の裏と踵から同時に高火力の蒼炎を噴き出す必要があるが、そんなことをしたら燈矢の足がもたない。今日に限って、外典は遠出している。冷却の術がない。無理はできない。
     膝丈のロングコートが翻る。気に入っていたコートだが、道路に転がったときに生地が擦れたし、裾などは蒼炎で燃えたところもあるだろう。着て来なければよかったと、後悔してももう遅い。私服でのヒーロー活動は、最大限のパフォーマンスを発揮できない上に、こういう悲しみもあるのだった。
     燈矢はみるみるトラックとの距離を詰めていく。スケートボードは良いアイテムだ。これは、自分のレギュラーのサポートアイテムに加えてもいいかもしれない。あとでデトネラットに相談しよう、と思いながら、燈矢は両手にグローブをはめた。これらだけでも、持ち歩いていて正解だった。
    「止まれ!」
     運転席の横を並走する。運転しているのは間違いなく分倍河原だ。
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