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    clarchuman35d

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    芸人ミスター×ドラマー荼毘
    始まりの朝。覚えのないホテル。
    ミスターは最近人気が出てきてまあまあ忙しい。昨夜のことを覚えていない。
    荼毘くんはV系バンドのメンバーで、普段は火傷で爛れた特殊メイクをして活動している。昨夜のことを覚えている。

    #迫荼
    forcedTorment

    迫荼芸能パロ進捗① 迫は、焦っていた。
     見慣れない風景、全裸の自分。
     壁一面の窓、一部だけブラインドの上がったところからは眩しい朝の光が射し込んでいて、肌触りの良いシーツに包まれたキングサイズのベッドは、ただ寝ただけにしてはずいぶんと乱れている。起き上がった視線の先には猫脚のテーブルと、革のソファ、床はおそらく毛足の長いワインレッドの絨毯だ。人の家、というような生活感はなく、おそらくは手入れの行き届いた宿泊施設。それもかなりランクの高いホテルと見えた。
     何か手懸かりがないかと見渡す。ベッド横のゴミ箱には蓋がしてあって、埃一つ載っていないそれをそろりと開けると、案の定、丸めたティッシュでいっぱいだった。ピンク色の、口を結ばれたゴムの存在には、一旦気づかなかったことにする。
     ゴミ箱に手を伸ばすため身体を捻って初めて目に入ったクローゼットには、迫の普段着のシャツとボトム、薄手の上着が掛かっている。その横に、見慣れない黒のロングコート。更に目線を下げると、編み上げで光沢のあるグレーのショートブーツが、お行儀よく揃えて置いてあった。明らかに、自分の他に、誰かがいる。
     ここまで聞かない振りをしていたけれど、極めつけは、先ほどから薄く聞こえ続けているシャワーの水音だ。その音が、不意に止まる。ドキッと、心臓が跳ねた。
     蛇腹の戸が開くような、カラカラという音がして、しかしまだ人は姿を見せない。浴室の手前に、脱衣所があるのだろうか。まあ、あるだろうな、安宿ならともかく、こういうランクのホテルなら多分。
     バスルームから物音がしなくなって、空調から出る風の音だけが、迫の鼓膜を震わす。
     遠目に見えるブーツは、女物にしては大きいような気もするけれど、いくらかゴテゴテしているだけだと思えばそうかもしれないし、踵は高めだ。ゴミ箱のあるのとは逆側のベッド下には、迫のアンダーシャツと下着が無造作に落ちている。それと脱いだまま丸まった靴下。相手の物らしい服はないから、既に回収した後なのだろうか。
     迫は頭を抱えた。相手の性別すら分からない。
     いずれにせよとりあえず下着だけは穿いておこう、と思って、拾ったそれを身につける。ふかふかのベッドの上でパンツを腰まで上げたところで、ガチャ、とドアが開く音がした。動揺して体勢を崩し、迫はそこへ座り込む。
    「あ、起きてる?」
     聞こえた声は、落ち着いた低音。男だ、と思って顔を上げた。
     布製の厚みのあるスリッパは、絨毯と協力して彼の足音を消している。色素の薄い足首の上には、ガウンタイプのオフホワイトのバスローブ。まっすぐ視線を上げると、同じ色のタオルで、シルバーブロンドの髪をわしゃわしゃと乱暴に拭く青年がいた。
    「腹減ったからルームサービス頼んだけど、いいよな?」
     小首を傾げる様には、あざとさが滲む。迫より、十歳くらいは若いだろうか。
     ターコイズブルーの瞳に、髪と同じ色の、上下とも長い睫毛。両耳にシルバーのピアスが四つずつで、左右非対称に三種類ほどのデザインがあり洒落ている。肌にはほとんど日焼けがなく、総合評価として、かなり美人。イケメン、というより圧倒的に美形。芸能界で、俳優とかアイドルとか、整った顔の人間は見慣れているつもりだけれど、その中でもトップクラスだった。
     一度見たら忘れないようなその顔を、しかし迫は全く覚えていない。
    「ミスター?」
     ただじろじろと見つめるばかりで返事をしない迫に、彼は怪訝な顔を向けた。
    「ッ! ああ、うん。いいよ」
     芸名がちょっと長いものだから、テレビの中ではたいてい“コンプレス”の方で呼ばれるのだけれど、ファンの中には“ミスター”と呼ぶ子もいる。だから、まあ、不思議ではない呼び掛けだ。それはいい。
     ただ、呼ばれて気づいた重大な問題は、彼の名前が分からない、ということであった。顔も覚えていないのだから、当然ではある。
     しかし、どう考えても、迫は昨夜、彼を抱いている。薄ぼんやりと、抱いた記憶だけは頭の中に浮かんでくる気がする。ナカの具合が、堪らなく良かったような気もする。バックで、性欲に任せてがっついたような気もする。
     彼はベッド前を通りすぎ、まっすぐクローゼットの方へ行って、ウエストポーチを手に取る。S字フックに、掛かっていたらしい。始めに目薬を取り出して、両目に差す。上を向いた顎のラインすら綺麗で惚れ惚れした。首が長め、というか、撫で肩だからそう見えるのだろうか。
     次にスマホを取り出して、何タップかしてから、彼はおもむろにそれを耳に当てた。しばらくコールした様子で、話し始める。
    「ごめん、終電なくしたから泊まった。……ああ、うん。……一緒じゃないよ、ひとり。このまま会社行く。……ははっ、冬美ちゃんから適当言っといて」
     会社、という単語が聞こえていくらかホッとする。二十代前半くらいには見えるけれど、万が一未成年だったらどうしよう、という不安は杞憂に終わりそうだ。こういう類いのスキャンダルでワイドショーを賑わすのだけは避けたい。各所に迷惑をかけることにもなるし。
     そうして彼が話している間にインターホンが鳴った。迫は慌てて、ベッドサイドの引き出し──彼が閉め忘れたらしい──から覗いているバスローブを羽織る。スリッパは見つからなかったので、裸足のままルームサービスを受け取りに行く。靴下も履いておけばよかったと後悔するが、もう遅い。
     運ばれてきたのは、上段にコンソメスープ、ホワイトソースのかかった黄金色のオムレツ、生野菜のサラダ、カリカリに焼かれたベーコン、クロワッサンとロールパン。これらがそれぞれ二人前。下段にはオレンジジュースとウーロン茶のピッチャーが一つずつと、グラスが四つ。ちなみにコーヒーは、どうやら部屋に備え付けがある。
     迫はワゴンごと部屋に入れて、猫脚のテーブルまで運んだ。
     電話を終えた彼が、L字ソファの長辺に座る。食事を前にして汚い話だが、迫は途端に尿意を催したので──昨夜はかなり呑んだのだから、今まで自覚しなかったのがおかしいくらいだ──、澄ました顔で洗面所に入った。ついでに顔を洗う。髭も剃りたいが、そんなことをしていると朝食が冷めてしまうだろう。
     ふう、と息を吐いてから、気合いを入れ直して彼のもとへ戻る。彼は先に食べ始めていて、迫がソファの短辺に腰かけると、じっとこちらを見つめた。
    「……ええと?」
     戸惑って、浮かべた笑顔は不自然だったかもしれない。
    「俺の顔見て、何も言わねえのか?」
     質問の意図が、よく分からない。何を、求められている……?
    「…………綺麗だ、ね?」
     絞り出して言うと、彼は一瞬わずかに目を見開いて、それから、プッ、と噴き出した。彼が左手に持ったクリーム色のカップの中でスープの表面が揺れていて、美人がアハハと笑うその様は、朝の光に照らされてあまりにもキラキラしている。間違えたか、と思うが、当たりが引ける自信はゼロだったから当然の結果だ。
    「昨日のこと覚えてねえだろ」
     図星を突かれて、もはや逃げ場はなかった。ここで嘘を吐いたところで、どうせすぐにボロが出るに違いない。
    「最低かよ」と彼は言いつつ、ケラケラ笑っている。
     怒ってはいないようだけれど、呆れている可能性はある。
    「まあ、だいぶ酔ってたもんな。男に手ェ出すくらいだし?」
     そこは否定しておいた方がいいかもしれない、と考えた。
    「酔ってなくても、君にはお相手を願ったと思うよ?」
     売れないうちはいろいろと必死で余裕がなく、売れてきてからは忙しいから、迫は長らく特定の相手を作っていないのだが、週刊紙では何度か、それぞれ異なる女の子との熱愛を報じられている。抱かれたい芸人ランキングの順位に引っかけて、女を取っ替え引っ替えしている、みたいなネタでいじられることも多いし、世間にはノンケだと思われているはずだ。
    「どっちもイケる人?」
    「そうだね」
     公表すると面倒そうだから隠しているのだけれど。
     ふうん、と彼は、特に好奇の視線を向けることもなく、ロールパンにバターを塗っている。
     会話が途切れたので、迫もスープに口を付けた。プチトマトにフォークを刺し、キャベツにかかったドレッシングに、トマトの尻を浸す。それを咀嚼し飲み込んでから、「君の顔、ってどういう意味?」と尋ねた。
     彼はしばし考えるように斜め上を見てから、答える。
    「別に」
     おっと、これは、何も教えてくれないパターンか?
    「昨日は…………どこで会ったんだっけ……?」
     一応訊いてみるけれども、
    「さあ? どこかな」と彼は挑発的に口の端を上げる。
     迫は必死に、記憶を巻き戻した。
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