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    clarchuman35d

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    芸人ミスター×ドラマー荼毘
    ミスターはピアノを弾きます。エンターテイナーなのでそれくらいは朝飯前。

    #迫荼
    forcedTorment

    迫荼芸能パロ進捗② 始まりは、フォービートのシンバル・レガート。基本形のリズムで相手の出方を窺う。するとあちらも、仮面の下からこちらの様子を見るように、シンプルなコード進行で応えた。リズムに寄り添って歩く彼のメロディはコードから逸脱しない動きで、しかしまもなく遊びが入る。
     CisとDのトリル。マジシャンのシルクハットから飛び出した、真っ白な鳩が羽ばたくようだ。
     左手は落ち着いた和音を奏でていて、しっとりと水分を含んだメロディが鍵盤の中程で動いている。それにもかかわらず、異質なトリルは高音で鳴り続ける。
     なにそれどうやって弾いてんの?
     もしかすると彼には腕が三本あるのかもしれない。義手でも生やしているのだろうか。手元が見えなくて残念だ、と燈矢が笑うと、手先の器用なピアニストの右手は半音階で高音を下り、ト音記号の五線の下で明朗に歌い始めた。
     夜なのに明るいのは、ここに巨大な炎があるからだ。火種を起こすのは燈矢のシンバルなのだけれど、これに魔法をかけて辺り一面に燃え広がらせたのは、低音から高音へのグリッサンドだった。
     魔法のトリックは、彼が多用するシンコペーションかもしれない。だからこちらもライドシンバルで裏拍を強調してみせる。四拍子のドラム(リズム)の上に、三拍子のピアノ(メロディ)が乗って、公倍数の十二拍、三小節でワンフレーズ。これが展開しながら進んでいく。
     ピアノの音量が上がるのにしたがって、テンポも上げる。彼の指が紡ぎだす粒立ちのいい単音の連なりは、ポロポロポロポロとシンバルの上に落ちてきて転がる。十六分休符の裏でタムを鳴らし、気まぐれにクラッシュを叩けば、転がった音たちが一斉に跳ねて、派手に散った。
     そうするうち、最初にテンポについて行けなくなるのは、ハイハットを叩く右手だ。無理をしてどんなに手首をしならせても、シンバル・レガートは三連符でいられなくなり、じわじわと八分音符に近づく。しかしそれもまた一興。みるみる詰まっていく音たちが、二人の気分を盛り上げる。
     頭拍をさりげなく踏んでいたバスドラムにも、細かい音符を刻ませる。バスドラムのアクセントと、ベース音のアタックが重なると気持ちがいい。しかしあえて待ち合わせをするのでは面白味がなくて、休日に出掛けた先でバッタリ会う、つまりは好き勝手に鳴らした結果うまくかみ合う、その偶然性が、ジャズ・セッションの魅力だった。
     フォービートに戻ったピアノは、聞き馴染みのある定番曲のメロディを奏で、メドレーのように移り変わっていく。なんでもありの即興演奏、誰に聞かせるものでもない二人だけの戯れだから、好きなメロディをミックスしてアレンジしたっていいのだ。
     彼はかなり、古い曲が好きなのらしい。昨今の平和ボケした社会に冷や水を浴びせるみたいに、自由を欲したアフリカンアメリカンたちの個性の爆発を再現する。しかしそれだけに終始しない彼は、さながらエンターテイメントの主体たるDJだ。旧き良き音楽をリミックスし新しい音楽を創造していく。
     聞き馴染みのあるメロディは、ドラマーの身体に既製品のリズムを思い出させるけれども、それに従うのでは意味がない。だから燈矢もまた、身体から噴き出す熱に新しいリズムを歌わせる。ときには気に入った曲の譜面を叩いて、次はこれを弾け、と燈矢のピアニストへ無言のうちに命じた。
     燈矢も興奮しているし、彼もまた興奮していた。裏打ちのバスドラムが鼓動と重なり、滑らかに動き続けるメロディが、血液と一緒に体中を巡る。
     汗が、落ちる。
     スネアの上に、あるいは鍵盤の上に────
     ────否、彼の汗が落ちた先は、燈矢の背中だった。
     飛びかけていた意識が戻って、二人分の呼吸の荒さを聞く。明るさを絞ったベッドサイドの読書灯の、オレンジ色の淡いライトは、まるでそこがジャズ・バーであるかのように錯覚させた。
     セッションとセックスは快楽の質が同じだ。
     だからこそ、朧な意識の中で夢を見たのだと思う。
     器用なこの男の指に開かれ、暴かれ、同時に燈矢が彼の欲を煽る。ビートを刻むのはドラムの役割で、ゆえに今、背中に触れる彼の心音が速いのは、燈矢の仕業に違いない。
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